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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて283

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 温かい。
 濡れて冷えた体に、抱きしめられたその感触はひどく温かった。
 これほどフェロモンを濃厚に纏った男だと言うのに、つくしは総二郎に本当の意味で男を感じたことがなかった。
 誰よりも妖艶で、色鮮やかな尾羽を持つ雄鳥に群がる雌鳥のように女たちが常に侍りたがるような美貌の男。
 声音は甘く、耳元で囁かれると、女たちは皆腰砕けになって、嬉々として自らその毒牙にかかった。
 そんな男を、つくしは友としてしか見たことがなかったのだ。
 「…なに、笑ってんだよ」
 憮然とした声が鼻先で聞こえて、つい自分が小さく笑ってしまっていたことに気がつく。
 もちろん、総二郎を笑ったのではない。
 寒さで震えながらこうしてキスを受けている自分を、まるで他人が遠くから観察しているかのように他人事でいる自分がなんだか可笑しかったのだ。
 再び傾けられた美しい顔を片手で制し、密着した体を押しのける。
 総二郎も無理に拘束しようとは思っていなかったのか、そんな彼女の意志を尊重して、あえて引き留めない。
 「…ダメなんだよ」
 「なにが」
 「自分の苦しさから逃げるために、あんたを利用したらあたしはもう自分を赦せない」
 総二郎が苦笑する。
 「相変わらずごちゃごちゃと不器用な女だな、お前は」
 「…しょうがないよ、器用に生きたいけど、そうできないんだもん」
 項垂れるつくしの頭をかきまぜ、その肩を抱き促す。
 「…とりあえず、ホテルに戻ろうぜ。雨に濡れてれば頭もいい加減冷えるだろ」
 「そうだね」
 いつの間にか季節は春を巡り、こうして濡れていてもそれほど寒くはなかった。
 一人で歩いている時にはどこまでも闇が広がっているように思えたのに、こうして逞しい腕に抱かれて二人で歩いていると、そこかしこに灯があることに気が付く。
 すぐ横を、ヘッドライトを煌々とつけた車が通り過ぎて、つくしは眩しさに目を細めた。
 「だいたい、お前、俺って男を見くびってるよな」
 言われて、つくしは目を瞬かせる。
 見下ろす総二郎が、ニヤリと笑った。
 「俺が一方的に利用されるタマかよ。利用しろって言っただろ?…俺はそれでかまわねぇ。俺もお前も利用するし、それでフェアだ」
 「西門さん」
 「けど、それができないのが牧野つくしなんだろうな」
 独り言ちる総二郎に、つくしも薄らと微笑み返す。
 そのとおりだ。
 誰かを利用して器用に生きられるくらいなら、…初めから、あの雨の日、彼の親友を一人雨の中に置き去りになどしなかっただろう。
 そもそも…彼らF4と知り合い、こうして運命の嵐に巻き込まれる人生に立ち向かうようなこともなかったに違いなかった。





 総二郎とつくしが歩き始めて間もなく、音もなくすぐそばに黒塗りの車が停車した。
 二人とも、予想できたようにも思う。
 つくしにも見慣れた運転手が二人に傘を差し掛け、一礼する。
 「…二人とも風邪ひくよ」
 内側からドアが開いて、手が差し伸べられる。
 「牧野、帰れよ。…逃げるつもりじゃないんだろ?」
 改めて言われてみれば、その通りだと気が付く。
 どこにも逃げるところなどあろうはずもないのだ。
 そして最初から逃げるつもりではなかった。
 ただこの胸の痛みを…意固地な自分を拭い去れる時間が欲しかった、ただそれだけだった。
 「うん、帰る。ありがとう、西門さん」
 手を差出し、つくしを車に乗せると、類は総二郎にも車に乗るように促す。
 「送ってくよ」
 「…いい、適当に車呼ぶ。それまで濡れて帰るのもたまにはいいだろ。俺も頭を冷やす必要があるみてぇだし」
 総二郎の言葉の意味を特には問いたださず、類は一つ頷く。
 「そう?風邪ひくなよ」
 「ああ。お前は俺より牧野の心配してやれよ」 
 小雨だったが、つくしのドレスもすでにしっとりと濡れそぼってしまったいた。





 「…拭いて」
 車が走りだして間もなく、類がタオルを差し出してきた。
 「ありがとう」
 礼を言って受け取ったものの、軽く髪を拭い、後は俯いてしまってそれ以上拭こうとしないつくしに、類が溜息をつく。
 「いいよ、貸して」
 つくしが手渡す前に、タオルを取り上げた類がつくしの髪や顔、濡れた手足を手早く拭いてゆく。
 それはいつもの…風呂上がりによくある一コマにすぎず、珍しいことではないのに、その手が優しくて、いつもはひんやりとしている類の手が温かく感じて、つくしの目頭が熱くなった。
 バサリ。
 仕上げに類のジャケットが肩にかけられた。
 「…類」
 「待っててって言ったのに、ホント、あんたって人の話聞いてないよね」
 呆れたような声音がいつもの口調で…。
 つくしの緊張感を感じ取ってはいないはずもないのに、何気なさを装って、まるで何事もないかのように流そうとしているのは明らかだった。
 「類…」
 それでも、つくしは諦めなかった。
 いつもはその柔らかな温もりの中に…あるいはじんわりとした脅迫の中に、うやむやに誤魔化して無視してしまうそれを、もうつくしは受け入れることができない。
 「…あたしはもうあんたと一緒にいれない」
 「……」
 「もうあんたがあたしをどう脅そうとも、あたしはもう言いなりにはならない」





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