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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて280

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 「…類!」
 臆面もなく言い放つ類に、つくしが青ざめる。
 週刊誌にまで載って今更かもしれないが、今この時期に、そんなことをこんな公の場で公言していいはずもない。
 ―――いくら婚約解消しているにしろ、自殺未遂を引き起こした美也子がまだ重体で入院中なのだ。
 あまりに非人間的な言動に、志保子の言葉が重なり、類を見ていられなかった。
 けれど、当然総二郎や老人の手前、そんなことを口にできるはずもない。
 そんなつくしの強張った顔をどう思ったのか、倉敷老人がポンポンと肩を叩いて慰めてくれる。
 思わず彼女が老人を見返すと、慈愛のこもった優しい微笑に出くわす。
 「あまり気にしないことだ。社交界はいろいろ渦巻いている場所だから、けっして居心地の良いところではないけれど、週刊誌や噂のすべてを鵜呑みにするほど皆愚かなわけではないよ」
 「…そうですか?」
 微笑する類の顔は、老人を肯定していない。
 それを困った様に見やって、老人は小さく溜息をつく。
 「おい、類」 
 「いいんだよ、総二郎君。わしもそういったものが力になることを心得ていないわけではないし、利用したこともある。ただ…類君、君は少し性急だとは思うけどね」

 「そうでしょうか?…でも手をこまねいていては、こちらの方が外堀を埋められて、気が付いたら身動きとれなくなっていた…なんてこともありそうですし?」
 つくしは何のことを話してるのかわからない。
 ただわからないなりに、そこには自分も関わっているようで身震いをする。
 気が付けば蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように、この場所にいた。
 それならば、いま類が何を画策していて、どこへ彼女を連れて行こうと言うのか。
 「…とにかく、牧野さんはあまり気分が良くないようだ。今日のところは早めに引きあげてあげたらどうかね?」
 老人の提案に、つくしを見て類が同意する。
 つくしも老人の優しい気遣いに、今日はもう意気地もくじけて、ただ目を伏せ反論することはできなかった。
 そんな彼女を総二郎が怪訝に見つめる。
 …いったい何があった?
 けれど、疑問の矛先に向けた当の類は、無表情のまま総二郎に何の答えも返さない。
 つくしの不調の原因を知っているのか、知らないのかさえも。
 「じゃあ、類君、総二郎、また」
 「…はい。また」
 「初風炉(※5月になって初めて開かれる茶会。夏季行事)にはぜひ、いらしてください」
 「ああ、ぜひ伺わせてもらうよ」
 老人は総二郎や類に頷きを返し、つくしにも隔てなく愛想を言い置いてくれる。
 「牧野さん、中澤さんや最上さんも、またランチを一緒にしたがってたから、また時間がある時にでも付き合ってくれるかね」
 「はい、ぜひ」
 薄らと微笑むつくしに手を振り、老人は踵を返した。
 「じゃ、帰ろうか、牧野」
 「…一人で帰るよ」
 「ダメ。ホント、顔色悪いよ。俺も、必要最低限はあらかた挨拶してきたし」 
 「類、でも、お前、もう一か所、挨拶した方がいい人が来てるみたいだぜ?」
 あくまで固辞するつくしの背に手を置き、強引に連れ帰そうとする類に、総二郎が声をかける。
 総二郎が顎をしゃくった先、嫣然と微笑む志保子の笑っていない目が、冷然とつくしとその背に手を置く自分の息子を射抜いていた。
 「避けては通れないんじゃねぇの?」
 「…そうだね。総二郎、牧野についてやっててくれる?俺、ちょっと挨拶してくるから」






 「また…邸に帰っていないそうですね」
 開口一発目の言葉は、息子にするにしては冷たいものを含んでいた。
 「別にいい年をした息子が、いつまでも実家にいなければならないという謂われもないでしょう?」
 しかも、いまさらだ。
 妻…母親でありながら、その夫の傍にも息子の傍にもいたことがないくせに、よくも言うものだと類の内心に冷笑が浮かぶ。
 別段、恨んでいるわけではない。
 むしろ、この母と共に過ごす方が苦痛だった。
 美しく、貴婦人然とした物柔らかな佇まいとは裏腹に、支配的なこの女が昔から苦手だったから。
 「まだ日本にいらっしゃるとも思っていませんでしたけど?」
 「あなたの不始末をご挨拶に伺ったわたくしに、ずいぶん失礼な物言いですね」
 頼んだことではなかった。
 だが、親が出てきた方が礼儀や対面に適っているのはそのとおりのことで。
 「そのことに関しては、お礼を申し上げますよ」
 それでも前の婚約者との婚約破棄の際には出てこなかったのだから、そこには意図が見える。
 「…まり子さんにも同行していただいているの」
 「藤堂さんですか?」
 「ええ」
 言わずもがなな質問だった。
 静が嫌いだったくせに、母はなぜかその静の従妹の令嬢がお気に入りだった。
 見た目はなるほど、血縁を感じさせる程度には似ていた。
 けれど、雰囲気や性格、人格そのものに似ているところは微塵もない…ありていにいえば可もなく不可もないまり子は、類にはなんの興味も抱かせない女だったのだ。
 「そうですか」
 一言で終えた返事に、志保子の眉根が寄る。
 もちろん、婚約破棄した婚約者を歓迎するとも思っていなかったが、さりとてあまりに類の反応は無関心だった。
 「それだけですか?」
 「ええ、俺には関係ありません。お母さんがどなたとお付き合いされようと、俺が口を出す筋合いじゃありませんから…でもまあ、普通息子が婚約破棄した女性とその母親が交流を続けていると言うのは、世間的に奇異なことだと思いますけどね」
 「…私は認めてないわ。今も、あなたにはまり子さんが良いと思っているの。私の意見を蔑ろにするから、あんな破廉恥な方と醜聞を振りまくことになってしまったのよ」
 吐き捨てる志保子の言葉の裏には、その縁談を息子に勧めた夫への憤りと不満がある。
 息子の子を宿していたかもしれない女性が、その息子ゆえに自殺未遂を引き起こして流産したことに対する憐憫は欠片も含んではいなかった。
 …それは類も同じことだ。
 むしろ、志保子にはさらに恥の上塗りをしでかした美也子への憎しみがあったかもしれない。
 自分の責任などではないのに、無用に自分を追い詰め、罪悪感と責任を感じているつくしとあまりに対照的だった。
 「…何を笑っているのです?」
 「いえ、俺、笑っていましたか?」
 無意識のうちに浮かべていた笑みは、あまりにその母親とそっくりだった。
 そんなところに、母子だと自覚する。
 ホンの幼い頃を除けば、母親などと思うことも稀だった目の前の冷たい女との相似を自分に見つけて、類は自嘲した。
 「何を牧野に言ったんですか?」
 あるいは、何を渡したのか?
 大方予測は可能だったが、あえて類は母へと問いかけた。





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~ Comment ~

NoTitle

さすが、類。
SPからの報告でか?母親の姿を確認したからなのか?
つくしが何かを言われ、渡されたことを知っている。
そしてつくしが強く動揺していることも。
このお話で女王に君臨する志保子と類との対決が始まりましたね。
きっとつくしの力になってくれる倉敷老人もでてきて、その存在をアピールしているし。
続きが楽しみです。

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