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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて279

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 何かを反論したいのに、上手く思いつかない。
 つくし自身もそうなのではないかと度々思うことがあったからだ。
 冷淡、冷徹、冷酷…言い方はいろいろあれど、時々類はひどく他人の心に無関心だった。
 しかし、それを実の母が言うのだろうか。
 ショックを受けて茫然とするつくしの手を取り、志保子が作った声で優しく諭す。
 「誤解しないでくださいね。私もあなたを誤解していたのかもしれないわ。…でも、あなたはとても賢い人だと聞いています」
 誰から?
 類からではないだろう。
 志保子の言動から、とても類とその母親は親しく言葉を交わすような間柄ではないのが伺えた。
 「私の申し出を受けることは、あなたの為であり…類の為でもあるんですよ」
 「……」
 結局そこに帰結するのだ。
 我が子を冷たいと言い切り、お前など息子にとって塵芥にすぎないのだと宣告しながら、その当の男を思いやれと命じられる。
 この目の前の女性の傲慢が可笑しかった。
 けれど、彼らの世界ではそれが当然のことで、彼ら上流階級の人間たちは尊重され、しょせんつくしたち庶民は踏みつけられても仕方がないと思っているのかもしれなかった。
 …まるで異星人と話してるみたい。
 「あなたもいったいどうすることが一番いいのか、本当は気が付いていると信じています」
 「本当に、私の意志ではどうにもできないんです」
 「…類自身も失脚するかもしれないのですよ」
 思わぬ言葉に、つくしが目を瞬かせ、一心に志保子を見つめ、その意味を図ろうとする。
 「あの子の花沢での地位は盤石ではないのです」
 「…それは」
 「内輪の恥をあなたに話す必要はありません。けれど、これだけは知っておいて欲しいのですよ」
 ねっとりとした慈愛じみた笑みは、優しげなのに少しも温もりがなかった。
 「あの子は絶対に名家の令嬢を娶る必要があるのです。類の後見になれる家、花沢の利になる女性。…そしてあなたはそうじゃないわ」
 私はそんなこと望んでない。
 そう言い募る無益に、つくしは口を噤む。
 志保子の中であくまでも悪役はつくしで、彼女がすべてを…類の進退までをも握っていると信じている。
 グッと両手を握られる。
 スベスベの手指は一度も家事をしたことがないのだろう。
 とても美しくて、その美貌同様一点の染みさえもなかった。
 つくしの荒れた肌とは全く違う。
 違う世界に住まう人間。
 違う思考、育ち、何もかもが志保子とつくしでは重なることがない。
 その人生のように。
 「あなたは…自分の世界にお帰りなさい。夢だったと、すべては忘れて」





 「…牧野?」
 つくしが志保子から解放され、パーティ会場に戻ると、なぜか総二郎までもが居合わせ、二人で彼女を不審げに見ていた。
 「どこ行ってたの?探したんだよ?」
 非難しているようではなかったけれど、どこか探るような目だと思うのは気のせいだろうか。
 類の美貌が、その母親に重なって見えて、つくしはつい顔を背けた。
 「牧野?なにそれ?」
 つくしは手に持った茶封筒を、類や総二郎の目から反らすように背に隠し持つ。
 あきらかにドレス姿に不似合な代物だったが、つくしの揺れる目が聞いてくれるなと訴えていて、男2人は口を噤む。
 「どうした、顔色あんま、よくねぇな?」
 「ああ…うん、西門さん、昨日は御馳走様でした」
 「いや、気分悪いのか?」
 「…ちょっと慣れない場所で疲れたのかも」
 「帰ろうか?」
 これも仕事のはずだった。
 どこからか彼らを見ている志保子の視線を感じて、つくしは頑なに首を振る。
 …負けない。
 何にだろう。
 類の母と戦うつもりなんかない。
 もちろん、そうだ。
 いまのつくしは高校生の時の向う見ずな少女なんかではなかった。
 けれど、心が挫けてしまえばもう二度と立ち直れそうにもなかった。
 「…おや、牧野さんじゃないか。気分が悪いのかね?」
 聞き覚えのある老人の声が、男たちの壁の向こうから聞こえて、つくしが顔をあげると類と総二郎がサッと道を開ける。
 「…倉敷翁」
 驚いたようにつくしと老人を見比べる総二郎に比して、類は薄らと親しげな笑みを浮かべた。
 「お久しぶりです」
 「ああ、本当だね、類君。総二郎君ともずいぶん、久方ぶりかな?」
 総二郎も子供ではない。
 内心、つくしに対して親しく声をかける経済界の重鎮の態度に不審を感じたにしろ、自分の疑問は後回しにする技量くらいある。
 「ええ。…後援会へのご厚意に対するご挨拶にも、僕が直接伺えなくて失礼いたしました」
 「いいよ、正月は私の方も何かと飛び回っていたからね。正月は特に何かと多忙な君とではすれ違っても仕方がない。初釜もうかがえなかったことだし。それでも、代理で挨拶に来てくれた孝三郎君に会えて嬉しかったよ。彼もずいぶん立派になっていて驚いたがね」
 鷹揚に頷く老人は好々爺としていて、仕事の面では冷徹な面も発揮することもある人物とはとても思えない。
 「しかし、牧野さん。ずいぶん、見違えたね。若い女性は装い一つでずいぶん変わるものだ」
 言葉ほどには驚いている風ではなく、慣れないところへと引き出されたつくしに対する世辞なのだろう。
 そこには温かい気遣いがある。
 「はは…ありがとうございます。馬子にも衣装でお恥ずかしいんですが」
 「いやいや、そんなことはないよ。さきほど、田野倉君にも会ったけど、類君が綺麗なお嬢さんを連れていて羨ましいって言ってたよ。先日も彼のところのツアーに参加したんだってね?」
 老人の言葉に、総二郎が片眉をあげて類を見る。
 「俺がいないところで、いろいろ噂が飛び交ってるみたいですね」
 平然と苦笑する類は確信犯だった。
 「…田野倉さんて、田野倉コーポレーションの昴さんだろ?なんだよ、類。牧野と昴さんとこのツアーに参加したって?」
 「そ。週末ね、クルージング・デート。俺の神戸出張のついでに、二人で遊んできたんだ」





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