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あの橋を渡って…8話完

あの橋を渡って…08~完

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 …バスを追って走るなんてできない。
 当たり前だ。
 そんなこと類でなくったって、誰にもできるはずがない。
 唯一できた男もまた、橋の向こうへと去った。
 遅れていたバスが、類の遥か後方、向こう側からやってきたのが、つくしの目に映る。
 「でもさ、一緒に乗ることなら、俺でもできるよ」
 「……え?」
 またこの突飛な三年寝太郎が何を言いだしたのかと、つくしが目を瞬かせた。
 「あんたが橋を渡れないなら、いいよ、俺が渡る」
 「……」
 「何度でも渡るし、俺がそっちに行くから」
 「何言ってんのよ!」
 …なに、夢みたいなことを言ってるんだと。
 憤りがつくしの胸を焼いて、目頭が熱くなった。
 「簡単に言わないでよッ!あんたみたいなお坊ちゃまに何が分かるのよッ」
 俯きがちだったつくしの顔が上がって、目の前の…かつて憧れた青年へと怒りを暴発させる。
 世間知らずの癖に。
 庶民の暮らしなんて何も知らないくせに。
 絹のおくるみを抱いて生まれて、箸よりも重いものを持つような労働をこなしたことがない男が、何を抜かすッ!?
 「…やっと、俺の顔見てくれた」
 嬉しそうな表情さえも、ムカついて、いっそ張り倒してやったら、スッキリするかと、ヤケクソな気分がこみ上げる。
 「…できるわけないこと言わないで。あんたがあたしの世界に来るなんて、ムリに決まってるッ」
 「なんで決めつけるかな」
 つくしにとっては自明の理なのに、この男は本当はバカなんじゃないだろうか。
 かつて、司にも覚えた感慨に、泣きだしたくなる。
 どうして、司にしても、この男にしても、簡単にそんな考えなしなことを言いだせるのか。
 「まあ…あんたが難しく考えるほどではないとは思うけどね」
 「類ッ」
 「じゃあさ、やっぱりあんたが俺のところに橋を渡ってきてくれればいいんじゃない?」
 「それが、できないから…」
 「……」
 振り絞るような声はまるで悲鳴のようで。
 けれど、やっと歯に衣を着せるように自分の心を隠していたつくしの本音が吐露される。
 類は黙って、そのつくしの言葉に耳を傾ける。
 つくしの苦しみの根源。
 彼女の心配のすべてをその身に引き受けるために。
 「もう、嫌なのッ。あんたたちの世界に行って、拒まれるのが」
 拒まれても戦えと言うのなら、いくらでも戦っただろう。
 なのに、戦うことすら赦されなくって、結局この世で唯一欲しかった男は彼女の指の間からすり抜け落ちてしまった。
 恨んでない。
 そう思っていた。
 けれど、司を諦めざる得なかった自分の生まれが、疎ましく哀しく思わなかったとは言えなかった。
 自分は自分にしかなれない。
 誰かを羨んでも仕方がない事なのに。
 何度となく、泣きぬれた夜に自分を卑下して、それが惨めで辛かった。
 「…それが嫌だから、もう」
 あたしは…橋を渡らない。
 そう言い捨てようとして、ちょうど、バスが到着して停車した。
 背後に止まったバスのドアが開いて、つくしに乗車を促がす。
 つくしは、クスンといつの間にか、垂れてきた鼻水をすすった。
 もしかしたら、目からも鼻水が出ているかもしれなかったけれど、今は一刻も早くこんな場所から…いや類の前から立ち去りたい。
 「嫌になったら、戻ればいい」
 「は?」
 バスのタラップに足を踏み出しかけ、突飛な発言に、振り返るまいと思っていた類をつい振り返ってしまう。
 「別に人生死ぬまでが人生なんだから、何度だってやり直しできるよ。俺はあんたと一緒なら、全然平気だよ」
 「…お客さん、乗るの?乗らないの?」
 あの時と同じ、逡巡するつくしをバスの運転手が急かす。
 …いま、分かれ目なのだとわかっていた。
 穏やかだが、妥協にすべてを隠して心を沈めて生きてゆくのか。
 それとも、傷つきながらも自分の心に正直に生きてゆくのか。
 その分岐点なのだと、つくしにもわかった。
 「俺、あんた以外とは誰とも結婚しない。花沢も離れた」
 「な…に?」
 驚くつくしに、してやったりと悪戯っ子の顔でクツクツと笑う。
 「他に何も持ってないよ、俺。それじゃあ、ダメかな?」
 「類…」
 「俺はいつまでだって待てるよ。俺はせっかちじゃないから、何度あんたにフられても、何度でも俺はあんたに挑戦する」





 「…お、今日は一人か」
 総二郎がカウンターに腰掛けると、チラッと横目でそれを確認したあきらが、肩を竦めて、手の中の琥珀色の酒を口に含んで喉を潤した。
 「まあな。お前こそ、珍しいんじゃね?」
 「ああ、この後、女と待ち合わせ。まさか、美作商事の重役様が平日のこんな早い時間から、一人晩酌とはな」
 「バーカ、俺も女と待ち合わせだよ」
 「だよな」 
 と、二人で笑う合うのは、もう何年…十何年も前からの恒例行事だ。
 「しかし、あいつらも変わんねぇな」
 「…類と牧野か?」
 「ああ、いつまでもいつまでもチンタラと。あいつらが想い合ってるのなんざ、俺らだって、もう何年もわかってることなのに。いつまでもまったく、なにやってんだか」
 なんだかんだで、お節介なのは総二郎も同じことだ。
 ただあきらと違い素直じゃないだけのことで。
 「ま、類の奴が実家を離れたからな」
 「…オーストラリアの海洋学研究所だっけ?また、ずいぶん突飛な方向転換だよな」
 「まあ、あいつ大学時代にすっかりそっちの方面にハマっちまって、海洋物理学の学位とって、けっこうその筋では名前の知れた研究者だからな」
 「さすがに、花沢物産の重役との二足の草鞋は無理か」
 「ああ、アレで案外、生まれながらに架せられた義務って奴にも向い合ってたからな」
 「牧野の影響か?」
 「だろうな。でもまあ、今回の婚約騒動で、覚悟もできたんじゃねぇの。別に、それなりに個人資産の蓄えはあるから、研究者で食えなくっても生活水準に対して変化はねぇんだし?」
 ふと、二人はその男が愛する女のことを脳裏に思い浮かべる。
 「ま、貧乏まっしぐらでも、牧野がなんとか類一人くらい、食わせていくんじゃね?」




 抱きしめる類の背中に、つくしの腕が回る。
 華奢な手に、大柄な男の体は手に余る。
 「ねえ、これって俺のところへ来てくれたってことだよね?それとも司バリに、俺の勘違いってことある?」






 見えない橋は、まだ二人の間に依然としてあるけれど、それでも類が一緒にずっといてくれるのなら、それだけでどんなことでも乗り越えられる。
 …ダメなら、何度でも渡りなおせば、それでいい。
 そんなことを思いながら、大きな手に握られた手に力を込めて、つくしは真っ直ぐに再び、前を向いて歩き出した。





~Fin~






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あとがき


皆さん、いかがでしたか?
もう、超!突貫工事?状態のこの作品。
構想を考え付いたのが前の前の日で、1話目を書き終ったのが、更新予定時間の5分前^^;
いやはや、もう予告どころか、推敲もチェックもすっ飛ばし、なんとか半徹夜状態で5話目まで書き上げ、更新予約。
所要で出かけて戻ってみたら、皆さんから「4話がない!」とのコメントが。
いやはや…やはり、寝不足の頭では何やってるかわからんですよね^^;

まあ、それはともかく。
このお話は、つくしが司と別れたら…というパラレル。
原作的には、ヒーローと別れてしまったという設定になってしまうので、切ない展開に。
つい必要もない?のに司君登場は、やはり私の趣味嗜好ゆえですかね。
ついつい引き合いに出したり、前彼のことなんて普通そんなに話題に出ないぜよ!みたいな。
まあ、でも類君の親友でもありますし、それだけ強烈な男だったということで、許してくださいませ。
長い付き合いのわりに、付き合い始めたばかりの二人(付き合い始めたんですよ!わかりにくいラストですいませんm_ _m)。
「あの橋…」タイトルついて…ですが、これは原作、25話26話のエピソードをイメージしました。
亜門がつくしとのやり取りの中で、司の世界との違いを表現した言葉。
つくしは一度橋を渡ったけれど、司の世界に拒まれてこちらの世界に戻ってきてしまった。
そして、もう二度と渡れる勇気がでない。
そんなつくしが欲しい類。
実は、もうちょっとエピソードを盛ってまして、とても8話では終わりそうになかったので、割愛。
まあ、まだまだ類つくも書くつもりですので、いずれは使えることもあるかな、と。


総ちゃん誕生日や、あきら誕生日ではRも入れたのに、もしかして期待してくださっていた皆さん、ごめんなさい。
「昏い夜を抜けて」では鬼畜風味な類君ですが、私のデフォでの類君イメージはこちらの方なので。
これからも度々、お目見えすると思いますので、よろしくです^^!


と、いうことで、「あの橋を渡って…」これにて完結です。



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NoTitle

お疲れ様でした!
途中出てきた司が切なかったです。

昏い夜を抜けてとアネモネ同時進行のところで始まった新連載だったのでちょっと心配しましたが、楽しませていただきました。
明日からはまた昏い夜を抜けてとアネモネ、楽しみにしています。

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