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あの橋を渡って…8話完

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 ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ。
 「…ううっ」
 バイブにしてはあるものの、頭上でしつこく鳴り続ける携帯の呼び出し音に、被っていたシーツから手を出し、騒音の元を手に取った。
 確認してみれば、見慣れた相手からの電話。
 以前に比べれば格段に減った迷惑だったが、やはり相変わらず他人の迷惑をいっさい考慮しない相手に、速攻電源を落とした。
 …と。
 ジャーンジャジャジャーンジャン♪、ジャジャジャジャジャ~♪。
 「…ちょっと、勘弁してよ。俺、昨日寝たの、2時なのに」
 そして現在、寝入って3時間。
 平均睡眠6時間の彼にしてみれば、殺意を抱いても仕方ないことだった。
 「…はい、俺」
 『てめぇ!いったい、いつまで、俺を待たせりゃ気が済むんだッ!』
 寝ぼけた頭にキーンとするほどの怒鳴り声をあげられ、類はもう一度携帯を遠くへ放り投げる誘惑に駆られる。
 「五月蝿い、司」 
 『煩いじゃねぇだろッ!』
 「プライベードの方にでないからって、仕事用にかけるなんて、すげぇ迷惑なんだけど」
 『居留守使うのが悪ィんだろ?』 
 「…時間確認して出直して」
 しかし、これで電話を切れば邸の固定電話の方にかけてきて、困惑した執事が取り次いでくるのは間違いなかった。
 …クソッ、あらかじめ、司からの電話は取り次ぐなと言っておけばよかった。
 真夜中、早朝の電話に迷惑する使用人たちの顔を思い浮かべ、類は仕方ないと、諦めの溜息をつく。
 『ふざけんなよッ、てめぇ、あの記事はなんだよッ!』
 「あの記事?」
 どの記事だろう?
 司ほどには経済紙に登場する機会は少なかったけれど、何かと彼らF4は会社の広報活動を兼て、表に出ることも不本意ながら少なくなかった。
 『あれだよ!丸菱の社長令嬢とかいう女とお前の婚約記事ッ!!』
 「…ああ」
 夜も明けきらぬ朝っぱらから電話をかけてきて、何をエキサイトしているのかと思ったら、そんなことだったとは。
 寝起きの頭痛がしてきて、類は携帯を耳に当てながら、再び枕へと突っ伏す。
 このデカいがなり声をBGMに寝入るのは、あまりにチャレンジャーすぎるだろうか。
 もちろん、この自分勝手な野獣がそんなことを許してくれるはずもなく。
 『おらっ、キビキビと詳しい事情を説明しろッ。まさか、本当にそんな女と結婚するとか、ふざけたこと抜かすつもりじゃねぇだろうな』
 「……それでなんでお前が怒って電話してくるわけ?俺が誰と結婚しようとお前に関係ないだろ?司」
 わかっててはぐらかすのは、これも八つ当たりなのだろうか。
 自分が上手くつくしにアプローチできず手をこまねいているのに、その彼女をかつて手に入れることができていた親友が羨ましくて、妬ましい。
 『お前、牧野のことどうするつもりなんだよ?』
 けれど、やはりこの親友は昔からストレートだ。
 類の屈託も、つくしの逃げも、何もかも吹っ飛ばして核心をついてくる。
 「どうしたもこうしたも。俺たちはなんの関係もない間柄だよ。友達?ただそれだけ。お前が頭にきてねじ込んでくるような…」
 『お前だから、任せたッ』
 「……」
 司の声は、今なお塞がらない傷のありかを顕わにするかのように、悲痛で切実だった。
 『いや、単に俺のエゴだ。それはわかってる。けど、お前がいるから、だから俺はそれでも安心できた。…納得して、アイツと別れられたんだ』





 当時、道明寺財閥がどれほどの窮地に立たされていたか、まだ社会に出たばかりの類でさえよくわかっていた。
 けれど、ただそれだけで、そんな窮地を一人背負って戦う友に力を貸してやれるだけの力がなかった。
 苦い後悔と共に、当時の記憶が甦る。
 絞り出すような男泣きに掠れた声で、今のように夜明け前の時間に電話してきた司の言葉が…。
 『牧野のこと頼む。俺のことは気にしなくていい。ただ、あいつを支えてくれ。…お前が守ってやってくれよ』
 かつて、司は誰よりも類に嫉妬した。
 嫉妬して、つくしから遠ざけたがった。
 だがそれでも親友だった。
 心の奥底では類を信じていてくれたことは、類は知っていたし、司もまた類がそのことを知っていることをわかっていたのだ。
 「…よく諦めたよね」
 『そうだな、俺もそう思う』
 自嘲気味な電話の向こうの友の声には、それでも荒廃の影がなかった。
 つくしと別れて、辛くなかったはずなどなかったのに。
 あれほど愛して、彼女のために家さえも捨てようとした男の心にいったい何があったというのだろうか。
 類でさえも、つくしと別れて、司は潰れてしまうのではないだろうかと危惧していた。
 自分を犠牲にして家や会社を残したとしても、この友自身の精神が壊れてしまうのではないかと…。
 それなのに、司が曲りなりとも結婚生活を維持している。
 あきらから聞いた話だと、それなりに政略結婚した妻とも円満にやっているようで、その結婚により持ち直した財閥が力を取り戻したのは、周知の事実だった。
 「お前が政略結婚の相手と上手くやってるだなんて、いまだに信じられないよ」
 だから零れた言葉は、類の以前からの謎で、正直な気持ちだった。
 けれど、司にとっては必然だったのだ。
 『牧野と約束したからな』
 「約束?」
 『ああ、自分と別れても自暴自棄になるな。幸せになる努力をしろと約束させられた』
 あのお人好しな女友達なら、言いそうなことだった。
 自分の都合で何年間も遠恋を強いて、あげくに捨ててゆく恋人を赦して。
 そして、司もまた司らしかった。
 『お前がいなくて幸せになんかなれるはずがない』と、そう言ったのだという。
 それどころか、『幸せなんていらねぇよ。体は財閥にくれてやるが、魂は腐って朽ちて行くんだろうよ』
 そういった司の頬を殴って、『あたしは幸せになるッ』そう言い放ったつくしは目に涙をため、あの気丈な目でキッと司を睨み上げたらしい。
 『…自分の不幸を他人にまき散らすなとも言われたな。俺の我儘で、相手の人生もめちゃくちゃにするつもりか。どんな理由があろうと、選んだのは自分なんだから、女房をその我儘で巻き込んで、不幸せにしたら赦さない…とさ』
 幸せにしてやれ。
 幸せは自分で作るものだ。
 どんな逆境でも、気づきさえすればそこには必ず小さな幸せがある。
 それらすべては、もちろん、つくしの司への愛情から出た最後の諫言だった。
 『あたしを愛したのなら、今この時、あんたのために涙を呑んだあたしを後悔させるようなマネはしないでくれ』
 そう、泣いて頼まれたのだとか。
 『そこまで言われちゃ…守らねぇわけにはいかねぇだろ。それを破ったら俺の男が廃る』
 「…そう」
 『今は…そうだな、女房のこともある意味、愛してるんだと思う。でも、生涯惚れた女はアイツだけだ』 
 抜けぬけと類に言い放つ司が小面憎い。
 類の気持ちを知っていて、そう言って笑う男の潔さが小気味よく…そして切なかった。
 自分だったら、立ち直れるだろか。
 あのつくしの愛情を手に入れられていながら、その他大勢の他人の為に、彼女を捨てることなどできるだろうか。
 「…奥さんに知られたら泣かれそうだね」
 『女房も納得してる』
 「まさか、お前言ったわけ?」
 『ああ、婚約するときにな』
 お前を愛するように努力はする。
 けれど、これからも惚れてる女は生涯つくしだけだ、と。
 『それでもいいと言ってくれたさ。たとえ別のカタチであっても、その日が来るのをいつまでも待っててくれるとさ』
 「…いい奥さんだね」
 『まあな。俺には過ぎた女かもな』
 …自分は何ができるだろう。
 いつの日か、司のように生涯惚れてる女はつくしだけだと、他の男のものになる彼女を見ていることができるのだろうか。
 …答えは決まっている。
 スタートダッシュは遅れた。
 彼女が司のものになった時の胸の痛みを。
 寂寥を…。
 もう二度とは味わえるはずがなかった。





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