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「アネモネ…全171話完+α」
第一章 Change the World①

アネモネ014

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 「なんだよ、散々、ここ狙って手刀繰り出してやがった癖に、いまさらビビんのかよ」
 フンと嘲笑って、それでも包帯に手をかけるのを辞め、司はさっさとシャワー室へと入ってゆく。
 見るともなしに司が消えるのを見送って、固まってしまっていたつくしの体から力が抜け、いまさらながらに震えが立ち上ってきた。
 12年前、実際に、つくしは司の怪我を見てはいない。
 というか、司は死の淵を彷徨った昏睡から目覚めて以来、その傷跡を見ることができるような傍近くにつくしを近寄らせてくれなかった。
 あえてその傷跡を見たかったわけではなかったけれど、見なかっただけに、その傷への恐怖が年々つくしの中で強まって、一種のそれが彼女の強迫観念となって心の奥底に立ちはだかった。
 司の死。
 ある意味、つくしにとって、司の背中にあるだろう傷跡は、彼女を愛した司の死を意味するものだったのか。
 もちろん、当時の傷跡などもはや痕跡を残すのみだろう。
 もしかしたら、道明寺家の威光を使って、跡形もなく整形手術か何かで綺麗に消してしまっているのかもしれない。
 けれど、白い包帯がその悪夢を蘇らせる。
 悪夢の中だけで登場した司の死の痕跡が、今現在の怪我と重なり、つくしを怯えさせた。
 …もう二度とは見たくなかったのに。
 血の海に沈んだ愛する男の残像が、過去、何度も何度もつくしの脳裏を埋めつくし、眠れぬ夜に絶叫させた。
 伸ばされた手を掴もうと、何度手を伸ばそうと、けっして掴み返すことができず、繰り返される惨劇。
 …本当に見た現実なのか、それとも繰り返し見る悪夢に作り出された虚像だったのか。
 つくしへと微笑む司の背後に迫る影は、…つくしから彼を奪い去った凶行の主だった。
 「…もう見たくなかったのに」
 逢いたかったわけじゃない。
 だが、あの赤い夢の再現をもう一度、けっして見たくないとただそれだけで…。





 鏡で見る自分は、いつも不思議に現実のものに思えない。
 12年前からもそれ以前も、自分の環境は何も変わらないはずなのに、いつの頃からか、酷い虚無感を覚えるようになった。
 「ハッ、バカバカしい」
 鏡の向こうの司は、彼自身をいつも嘲笑う。
 …今の俺は本当の俺じゃない。
 …自分の内側を探れ。
 そう訴えかけているような気がして、イラつきを覚えるのに、そのイラつきを忘れしまう恐怖に鏡を見ること辞められない。
 いつもその闘争だ。
 いつしか、自分を探る戦いに疲れ果て、あえて何も考えないようにしているうちに、鏡と同じように『何か』を訴えかけていた夜毎の悪夢も遠のいていた。
 そうしたら、楽になった。
 楽になったが…生きている実感がしなくなった。
 何を食べても美味いとも感じず、何を見ても何の感動も覚えず、女を抱いても満たされなかった。
 それでも心臓は動いているのだから、生きていると言うことなのだろう。
 ならば、少しでもスリルを、生きている実感が欲しいと時々わずかに生き残っているまともな感覚が悲鳴を上げた。
 けれど、いったい何だというのだろうか。
 もうわけもわからず悶える苦しみも、空しさも、…それらを覚える感情さえも凍らせた今になって、なぜ、こうも心が騒めくのか、と。
 いつも彼自身がそうであるように、鏡の向こうの自分の目は何も映さず、それさえもどうでもよかったはずだったのに、それなのに、今日の自分はどこがいったい違うというのか。
 不思議に世界が色づいて、眩しく感じて落ち着かないような気持ちにさせられる。
 …色?そんなものを感じたのはいつ以来だ?
 …感情?そんなものが自分にあったか?
 あの女が現れたから?
 ふいにそんな馬鹿な考えが湧き上がってきて、司は戸惑う。
 なんてことのない、特に特徴のない女だった。
 ただ、ある意味、司がストライクゾーンだと好む女の集大成のような女。
 どれか一つを特徴としている女は今までも掃いて捨てるほどにいた。
 どの女たちも、司がわずかに口角をあげるだけで、まるで尻尾を振る雌犬のようについてきて、尻軽な性根も顕わに纏わりついてきた。
 長い真っ直ぐな黒髪。
 勝気に睨み付ける大きな目。
 小柄で華奢な肢体。
 まるで今まで傍に寄せていた女たちの理想形そのものであるかのように、司の前に突如として現れた女。
 …だからといって、どうだっていうんだ。
 外見などたかだか皮一枚、骨や肉のパーツ一つ一つのことに過ぎない。
 それなのに、あの女が無性に気になって仕方ないのは、やはり自分も所詮人並みの人間の雄に過ぎないということなのか。
 そう感じることは、無性に不愉快で、だが同時に小気味よいほどに愉快なことでもあった。
 「…思い出した」
 ずっと喉の奥、小骨でも刺さっていたような違和感が、ふいに解消して記憶が甦って来る。

 失われたと言う彼の長年の苦痛の基などでなく、小さな小さな過去の出来事。
 確か、司が遭遇した少年の日の事件。
 そのために入院していたおり、たびたび、見舞いに来ていた少女があの女だったのではなかっただろうか。
 「類の女だったか」
 訴えかけるような…睨み付ける大きな目ばかりが印象に残る。
 けれど、多くの女たちが司の前に現れ、通り過ぎていたから、その記憶さえも曖昧だった。
 だが、あの時の焦燥だけはハッキリと憶えている。
 イラついてイラついて、あの女が顔を見せるだけで妙にカンに触って、…それなのに、彼の前から彼女が完全に姿を消した時に襲われた、闇の底にどこまでも堕ちてゆくような絶望感までをも思い出して、司は知らず胸を抑えた。
 そんなことを考えていたせいだろう。
 ふいに馴染んだ空耳が蘇って眉根を寄せる。
 『…なにやってんのよ』
 次いで聞こえる女の泣き声。
 女が泣く声なんて大っ嫌いで虫唾が走るはずなのに、その声を聞きたくなくって…それなのに慰めてやりたくって、いつもその二律背反に司は悶え苦しんだ。
 「クソッ」
 いつものように、酷い頭痛の予感に司は顔を顰める。
 いや、ここ数年、それさえも間遠くなっていたはずなのに。
 それなのに、割れ鐘が鳴るような凄まじい痛みが襲い掛かってきて、司は呻き、洗面台に縋って蹲った。
 ガラガラガッシャーンッ。
 バリン、ガシャン。
 崩れ落ちる司の腕になぎ倒された、洗面台のガラス瓶が次々に床に落ちて、甲高い破砕音を立てる。
 けれど、床に突っ伏す司には、もはや脳裏を埋め尽くす女の悲痛な泣き声しか聞こえない。
 『天下の道明寺司なんでしょ!?いつまで、寝てんのよッ。さっさと目をあけなさいよっ。死んだら、一生、許さないから』
 …お願い、道明寺いかないで。





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