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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて278

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 傲然と顔を上げて宣言するつくしの顔に見入っていた志保子が、ふっと表情を歪めた。
 そしてそのまま嘲りを浮かべたまま、ほほほ、と上品に笑う美貌は本当に面白そうで、一見和やかだ。
 「…何をおっしゃるかと思ったら、ずいぶんと自惚れてらっしゃるのね」
 「……」 
 「あなたが別れたいと言っても、あの子が追いすがるとでも?」
 志保子はとんだハッタリだと思っているようだったが、実際その通りなのだ。
 つくしは別れたい。
 けれど、類がそれを赦さず束縛している。
 類の母が、つくしに何を言い募られたとしても彼女にはどうにもできない。 
 面と向かってこういうふうに侮辱されるのは業腹なのに、あえて甘んじていなければならないなんて!
 「どう思ってらっしゃるにしろ、あたしの事情はそういうことなんで。類さんの説得はお任せしまから、お話が、それだけならあたしは失礼します」
 立ち上がったつくしを見返した志保子の顔はもう笑ってはいなかった。
 改めてつくしを見返したその顔には、意外さが隠せていない。
 おそらく金でカタがつくか、あるいは唯々諾々と従うような女だと思われていたのだとよくわかる。
 「…何がお望みなの?」
 「なにも」
 すべてを話せてしまえば楽になるのだろうか。
 しかし、ここまで侮辱的な扱いをされて、とてもじゃないが縋りつくようなマネをつくしはできなかった。
 もちろん、すべてをぶちまけたいと、そういう誘惑がこみ上げてこないでもなかったが、目の前の女性がそれを信じるだろうか。
 つくしを類にたかる害虫…あるいはとるに足らない、それこそ炉端の小石程度にしか思っていないことを隠しもしないこの人が?
 …それどころか、とんでもない言いがかりつけられそうな気がする。
 こういう人種はけっして自分たちの非は認めないし、認めたとしても素直に謝って折れたりは絶対にしないのをつくしは不本意ながら経験から熟知していた。
 むしろ傷は隠そうとする。
 隠そうとして、他人を踏みつけることに躊躇などしはしないのだ。
 「…類の将来をお考えになったりしないのかしら?」
 絡め手がえげつなくて、つくしの嫌悪感を煽る。
 「いい大人です。お母さまがそれをお考えになることではないでしょう?」
 『お母さま』のところで、お前に言われる筋合いはないとハッキリ顔に書いてあって、逆に溜飲が下がった。 
 「それにもう一度言いますが、いまの私と類さんの関係は私も望むところではありません」
 「……言うわね」
 「本当のことですから。むしろ、お母さまの方から、類さんを諭してくだされば私からも感謝いたします」
 「あなたから類と別れるつもりはどうしてもないと言いたいわけですのね?」
 念を押す志保子の声音には、どこか不気味に恫喝を含んでいる。
 「…別れないんじゃありません。別れられないんです。とにかく!詳しいことは息子さんと直接話されてください。こういうふうに呼び出されるのも、ねじこまれるのも…正直、迷惑です」
 言いすぎかと思わなくもないが、けれど貧乏人だからと言って卑下される筋合はないだろう。
 一礼して、踵を返すつくしの後ろ姿を見送りながら、志保子が平坦な声音で誰に言うともなく独り言ちる。
 「そう、そういう方なのね。人ひとり、死に追いやって、平然と過分な待遇を守ろうとなさる方でしたの」
 …死に追いやって…?
 それが自分に向けられた刃だとわかっていながら、聞き捨てならない言葉に振り向かずにはいられない。
 見下ろした美貌は類によく似た、アルカイックスマイル。
 いっそ優し気だったが、もちろん言葉には棘と毒が含まれていた。
 つくしへと真っ直ぐに投げられた刃が彼女の胸を刺し貫く。
 「高坂美也子さん、あなたが自殺に追い込んだようなものなのに、よく平然としていられるものですのね」
 「っ!?」
 「正式な婚約者でありながら、あなたのせいで類に蔑ろにされて可哀想に…」
 「こ、高坂さん」
 「ご存じ?あの方、ずっとあなたと類の関係に悩んでらして、あなたの為に類が婚約を破棄してしまったものだから、思い余って睡眠薬を大量に摂取して」
 胸が詰まったような痺れが湧き上がってきて、小さな耳鳴りがする。
 震える手を無意識に握り込んで、胸元へと寄せた。
 つくしもまた、美也子の自殺未遂を桜子から聞かされたその日から、彼女の悲痛な目が忘れられず、声が耳から離れず、心が晴れずにいたのだ。
 「一命を取り留めたと…聞いています」
 「そうね。美也子さんは幸い命に別状はなかったようだけれど…。お腹の子供はダメだったのですよ。流産してしまったの。自分のせいで人ひとりの命…類の子がが失われたと言うのに、あなたには罪の意識というものがないのかしら?」





 スッと目の前が暗くなった気がした。
 気が付いたら、床に手をつき俯いたまま、口を押えていた。
 「あなたの元婚約者…」
 のろのろとつくしが顔を上げると、いつの間にか類の母親が間近まで歩み寄っていた。
 先ほどまで冷たい嘲りを浮かべていた顔が、不思議に同情に満ちているようにさえ見えて、それが逆に白々としてつくしは怖ろしかった。
 つくしの罪を断罪する美也子の生霊にさえ思える。
 「とても優秀なビジネスマンだったそうですね」
 「……なにを」
 次に出てくる志保子の言葉に、つくしは知らず知らず怯え口ごもる。
 「未来を閉ざされてさぞ口惜しかったことでしょうね」
 ただその一言だけ。
 だが、その一言がまるで鉄槌を下されたかのように、つくしの体を打ちのめし震えさせた。
 …正輝さん。
 彼の母親が持ってきた手紙。
 いまだに怯懦が邪魔をして読むことができずいるあの手紙には、いったい何が書かれていたのだろうか。
 つくしへの恨みか。
 将来への嘆きだったのだろうか。
 類などは本人の自業自得だと切り捨てていたが、つくしにはとてもそうだと思えない。
 いまだに自責を感じていた。
 それなのに…。
 また一人。
 つくしと類の関係が一人の女の心を深く傷つけ、彼女を死の淵へと追いやったのだ。
 そして、類の母が言う様に、その結果…一つの命が失われた。
 「類はとても冷たい子」
 淡々と呟かれる言葉には心情が含まれていて、志保子が我が子を真実そう思っていることが伺える。
 「父親にそっくり、人を人とも思わない子です」
 「……」
 「あなたはあの子がどれだけの女性を今まで囲っていたかご存じ?」
 「……それは」
 「それでもあの子が今まで愛したのは静さんだけ。あの子にとって、静さん以外はしょせん、たんなる孤独を癒すための玩具でしかないのよ」





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