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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて274

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 「…うん、…わかった。とりあえず、もう少しだけ待ってもらってて」
 進からの電話は、先日からお試し期間にと、ベベを預かってもらっている進の知人からの伝言を伝えるための物だった。
 ベベを預けた当初、つくしや類を恋しがって元気がなかったベベも、だいぶ環境や家主に慣れてきたようで、餌も通常通り食べるようになっていた。
 純粋な和犬であれば、もしや他の人には慣れないのではないかと心配していたが、混血した洋犬の血ゆえにか、それなりにやっていけそうだ。
 安堵とともに、それはそれでつくし的には寂しく、切ない気がした。
 類のマンションを出れば、犬を飼えるような環境を作れるとは思えない。
 それでもベベが他人に慣れないようであれば、無理をしてもペットを飼えるアパートを探すつもりでいたのだ。
 つくしの選択肢は多くはない。
 借金の件もある。
 類が保証人となって、ほとんど借金を肩代わりした形であることを知ってしまってはなおのこと、安穏と暮らすわけにはいかず、がむしゃらに働かなければと改めて決意を固めてもいた。
 相手からは、ベベをぜひとも貰い受けたいと返答を受けている。
 可愛がってもらえるのなら、このまま手放してしまった方がいいのだろうか。
 そうは思うのに、思いきれないエゴがつくしの中にも存在する。
 トントン。
 ノックの音に今の状況を思いだす。
 「…牧野さま?」 
 「あ、すいません。今、行きます」
 類に連れられてきたエステティックサロンで、全身を作り替えられるのではないかと思えるほどの施術を受け、後はドレスを身にまといメイクをしてもらうばかりの合間の、進からの電話だった。





 「ついたよ」
 類に言われて顔を上げると、すでにエントランスに横付けされた車は運転手によってドアを開けられる。
 秘書として類のパートナーを勤めるのは以前から決められていたことだったが、晴れやかな場所は気が重かった。
 「……?牧野、出て?」
 手を差し出しているのに、つくしが外へと出ようとしないのを不審がって、類が首を傾げている。
 「あ、ごめん」
 慌てて手を伸ばすと、手を取られて、外へ出るのを優しくサポートされる。
 ほぅっと、どこかで女性の声がいくつも聞こえてくるのは気のせいではないだろう。
 ホテルに入った瞬間から、女性たちの目は類に注がれ、誰もがうっとりと見惚れていた。
 つくしもついつい隣に立つ美しい男性に目を奪われ、いつの間にか見惚れていた。
 そんな彼女の視線に気が付いたのが、ふと類が視線を合わせてくる。
 優しく微笑みかけられ、顔に熱が集まるのを感じて俯いてしまう。
 「…やっぱり、そのドレス似合うね。凄い綺麗」
 今日のつくしの装いは、クルージングデートの時に類が買ってくれたうちの一着だった。
 淡いピンクのジュエルネックのAラインシフォンドレス。
 露出が少なく可憐なデザインが、つくしの清楚な魅力を引き立たせ、本人は気が付いてなかったが、会場内の男性陣の注目を集めていた。
 「なんだか、妬ける」
 「なにがよ…」
 「…見られてるよ」
 「まあ、あんたはいつもでしょ?」
 相変わらず自覚のないつくしの鈍さが愛しくも、おかしくって、クスクス笑いを抑えられない。
 「やあ、花沢君じゃないかね」
 さっそく類を見つけた第一陣がやってくる。
 「お久しぶりです」
 類も完全武装の営業スマイルを顔に張り付け、待ち受ける。
 …顔がイイってほんと、得だよね。
 傍らに控えながら、つくしも感心する。
 どうみても類は愛想がいいとは言えないのに、ほんの少し口角をあげただけで、好感を覚えずにいられない。
 「素敵なお嬢さんをつれられているけれど、そちらの方は?」
 ぼんやりとやり取りを見ていたら、つくしにもお鉢が回ってきて、慌てて頭を下げる。
 「今、僕の秘書をしてくれてる牧野つくしさんです」
 「初めまして」
 「よろしく。いいね、こんな可愛らしい女性と仕事ができるなんて羨ましいよ」
 社交辞令だろうが、耳慣れないお世辞に恐縮してしまう。
 「ええ、おかげさまで、僕の仕事も捗ってますよ。彼女は恋人としても素敵な人ですが、仕事のパートナーとしてもとても優秀なので」
 「……は?」
 「恋人?」
 驚く紳士と目が合って、つくしの方が仰天した。
 何かの聞き間違いかと耳を疑いながら類を見るも、当の本人は自分が爆弾を落としたとは微塵も感じさせぬ微笑を浮かべて何食わぬ顔をしている。
 「もうすぐうちでも創立記念パーティを開催する予定ですので、ぜひ、そのおりにはいらしてください」
 「あ、ああ。ありがとう」
 相手の戸惑いもサラリと流し、類はもう次の相手へと向き直っている。
 「ちょ!花沢る…」
 「こんばんは!花沢さん」
 先ほどの発言はどういうことだと問い詰めようにも、すでに類へと押し寄せる人々の順番待ちの列が出来上がっていた。





 つ、疲れる…。
 そろそろ笑顔もだいぶ引き攣ってきているだろう。
 慣れない格好、慣れない社交辞令、慣れない雰囲気に、すでにつくしはクタクタだった。
 それでも、今日は類のパートナーという立場。
 それが秘書の職分の一部である以上、弱音を吐くことも出来ない。
 「…疲れたよね?」
 「え?ううん」
 さすがに見かねた類が心配して、つくしの顔色を伺ってきた。
 「どうしようか、もうちょっと付き合ってもらわないといけないし…」
 「平気」
 しかし、つくしの強がりを無視して、類が壁際のソファへと誘導して、座るように促す。
 「少し休憩してて」
 「いや、大丈夫だって」
 「足も痛いんじゃない?」
 実はその通りで、曖昧に微笑んで誤魔化そうにも類にはお見通しのようだった。
 ふうっと溜息を疲れるのに少しだけ傷つく。
 「気が利かなすぎた」
 言われた言葉が痛くて、自分の自業自得なのに、それでも辛くてじんわり目尻が熱くなってくる。
 が…。
 突然足元に額ずかれ、驚愕して思わず涙が引っ込んでしまったつくしの足を、類が手に取りシゲシゲと観察しだす。
 「る、類?」
 「…ちょっと、靴擦れてる。ごめん…気が付いてあげられなくって。牧野はパーティに不慣れなんだから、もっと気にしてあげるべきだった」
 類の言葉は、つくしを非難したものではなかった。
 彼女を気遣う言葉に、今度は違う涙が浮かびそうで、目を瞬かせた。
 ここのところ、乙女よろしく涙もろい自覚があった。
 …ガラじゃないつーの!
 自分で自分にツッコミを入れて、そんな自分の感傷を振り払う。
 「だ、だから!大丈夫だってホント!…そりゃ、不慣れで類にも迷惑をかけてると思うけど、これも仕事だもん。そうでしょ?」
 「…そうだね」
 「まだ、挨拶終わってないんだよね?行こうよ」
 強がりだったが、役目を途中で放棄したくない。
 そんなつくしの気持ちがわかるのか、類が困った様に微笑んで立ち上がった。
 「とりあえず、少し休んでな」
 「でも…」
 「女性連れの方が会話が弾むのは本当だけど、まったくビジネスだけの相手もいるから、そっち先に挨拶すませてくるよ。あとでまた呼びに来るから、ここで大人しく待ってて?」
 「あ、…うん」
 そう言われてしまってはつくしも強くは言い募りがたい。
 ビジネスの話となっては、つくしではあまりに立ちそうにもないのは確かだ。
 通りかかったウェイターからソフトドリンクを受け取ってつくしに手渡し、類は小さく手を振り人混みへと戻っていく。
 その後姿を見送るともなく見つめていると、
 「…牧野さんですわね?」
 横合いから鈴を鳴らすような美しい声が、つくしへと声をかけた。





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