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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて267

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 定時から1時間。
 会食がある類は、もう今日は会社へは戻らないらしい。
 つくしも早々に会社を出るつもりだったけれど、第一秘書の三田村から任せられた資料のマトメが予想外に時間がかかって会社を出るのが遅くなってしまっていた。
 …まあ、進も定時ピッタリに帰れるわけでもないだろうし。
 先日から新社会人として就職していた進が、いよいよ来月からシンガポール駐在となることが決まり、忙しくなる前に姉弟でたまには食事でもしようということになったのだ。
 時計を見ながら会社を出て、タクシーに乗ったところでちょうど進からのメール。
 どうやら、進の方はほぼ定時で終わったらしく、先に待ち合わせの店で待っているとのことで、弟との久しぶりの会合に、つくしの顔に自然に笑みが浮かぶ。
 先日、改めて正式に紹介された進の恋人も良さげな子だった。
 進の入院中、さんざん世話になったと言うのに、こちらもゴタついてて中々ゆっくりと顔を合わせられなかったのだ。
 待ち合わせている店の近くで降ろしてもらい、店に入るとすぐにわっと言う賑わいが耳に届く。
 会社の同僚と行くような大衆酒場ともまた違うが、さりとて類や総二郎たちに連れられて行く高級店とも趣が違った。 
 店員に案内されてゆくと、4畳ほどの小さな個室風の座卓席で、一人チビチビと飲んでいた進が、つくしを認めて嬉しそうに笑う。
 「…お疲れ」
 「うん、待たせたね、ごめん」
 照れ照れと、なんとなくこんなところで待ち合わせて会うことに照れあう。
 小さな頃から一緒に育ってきた姉弟と飲む機会なんて初めてで、互いになんだか落ち着かない。
 掘りごたつ式になっている席に座ると、進がすぐにメニューを差し出してくれた。
 「簡単には注文しておいたけど、姉ちゃんも好きなのとれよ」
 「…なんだか、あんた慣れてるわね」
 「まあ、大学時代もけっこう飲み会とか参加したし、バイトでもあったからさ」
 それはそうだ。
 つくしも社会人である以上機会はあったけれど、弟と飲んだことはなかった。
 あの小さかった弟が…という感慨に口を噤んで、メニューに目を通して酒を選ぶ。
 「へえ、すごい種類あるね」
 「うん、この間会社の先輩に連れてこられてさ。料理も上手いし、オシャレだし、これでけっこう安いんだぜ」
 「だね~。あたしも今度会社の人と来ようかな」
 今まで機会はなかったけれど、ここのところ眞子とも仲良くなり、眞子と仲が良かった総務課の永井かなえを交えて今度一緒に飲みに行こうと誘われていた。
 お互い多忙で会えていない、フレッシュラインでの同僚・香帆を連れてきてもいい。
 …あるいは、まだゆっくりと交流を深められていない優紀とでも。
 「由宇ちゃんも連れてくればよかったのに」
 「ん、俺も誘ったんだけど、久しぶりなんだからたまには姉弟水入らずで行って来いってさ」
 「…そっか」
 確かに、他人の由宇がいては話せないこともある。
 由宇に会いたいのも本当だったけれど、今回は彼女の気遣いに感謝する。
 「出立前に父さんたちのことも話しておきたいし…」
 「うん。あんたにもいろいろ気苦労かけて、本当にごめんね」





 眠れない…。
 ただでさえつわりと精神的疲労で辛いと言うのに、美也子はそろそろ限界だった。
 夢の中に類の母と、彼女自身の姉が交互に現れて…、美也子の浅はかさと愚かさを嘲笑う。
 『やめて!』と叫んで目が覚めることも度々だった。
 そして…この雑誌。
 わざわざ枕元に置いてあった意味を考える思考能力もすでになかった。
 表紙に載った類の顔と、ぼやかしてはあるもののあきらかに自分の後ろ姿に震える手を伸ばしてしまった。
 …いやよ、見ちゃダメ。
 頭のどこかで警告する言葉が呟く。
 『世紀の政略結婚報道の影に泣いた二つのラブ・ストーリー』
 タイトルの意味がわからないのに、涙が溢れてくる。
 もちろん、この涙は嬉し涙のはずもない。
 ページを繰る指が、我ながら骸骨のようで厭わしかった。
 震える指先が、その一枚を捲った途端…。
 「ああっ…うぅッ」
 嗚咽が零れて…見たくもないのに、読みたくもないのに、頭の中に入ってくる情報に美也子は呻いた。
 こんなに会いたいのに。
 絶対に婚約解消になど応じてはいないのに。
 すでに世間では類と美也子は婚約を解消したことになっている。
 そして、当の類は自分ではない女と晴れ晴れとデートを繰り返し、自分との過去はすでにもうなかったもののように振る舞い、世間でもそれが通用している。
 それとも…それとも、すべては王子様の夢だったのだというのだろうか。
 姉の言う通りに、類を手にしたと思ったのは彼女自身の妄想の産物だったのか。
 だとすれば、類の子、彼との未来を繋ぎとめる存在だと、この苦痛を堪えて愛しんできたこの腹の子はいったい誰の子だと言うのだろうか。
 『高坂美也子さんには、花沢氏と婚約前に交際している男性がいて、彼は父である高坂氏の第二秘書のA氏。彼と美也子さんの出会いは…』
 さもあったことのように綴られたラブ・ストーリー。
 こんなの嘘っぱち。
 そう思うのに。
 『夢を見たなら目を覚まさなければ、過ぎた夢はいずれ悪夢へと変わってしまうものですよ』
 『あなたはシンデレラではなくって、愚かな姉娘。あなたの夢はもう終わってしまったのよ』
 …いやよ、夢なら醒めないで。
 たとえ悪夢でも、いま、この目の前の現実よりはずっといい。
 美也子は衝動的に引き出しの瓶を取り出し、そのまま口に入れ飲み下す。
 飲み切れなかった錠剤がいくつも、いくつも口の端から零れて、喉が詰まった。
 …助けて。誰か助けて。お母さま、私はどうしたらいいの?

 ずっと叫び続けていた気がする。
 助けを求めて、求めて…結局こうすることが一番良い事だったのだと、やっと気が付く。
 「…もう目を覚ましたくないの」
 ゆっくりと眠りたい。
 壊れた蛇口のように流れ続ける涙にもうんざりだ。
 これでやっともう目が覚めることを心配することもない。
 類の母の声も、姉の声も、父も…類でさえも、もう彼女を苦しめることなどなくなるのだ。





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