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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて265

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 しめやかなジャスの音が、客の少ないバーの中にゆったりとした時間を作る。
 定期観光船ではないこのクルーザーでの宴は、船内の客たちに一晩の夢を提供する。
 眠らない人々の為に、不夜城となったこの船で、類が共寝の夢の相方として選んだ女は、一人テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
 「…こんなところで寝るなんて、相変わらず迂闊なんだから」
 何度騙されても、何度失敗してもこの女は懲りることを知らない。
 自分を苦しめる元凶である類を憎悪して、辛くあたってもおかしくはなのに、目の前の小さな女はどうしてその優しさを損なうことなく前を向いて歩いていくことができるのだろうか。
 この女の温もりに触れていると、冷たく凝って闇に沈んだ自分さえもが体中に温もりが染み入る気さえする。
 けれど、けっして拒絶しないのに、受け入れられないジレンマに、類は身悶え…小さく苦笑した。
 人間なんて基盤の上のチェスみたいなもので、決まった手順を踏めば簡単に望み通りの結果を手に入れられた。
 それなのに、どうして、この女の時には上手くいかないのだろう。
 つくしを陥れようとした時にはなるほど、上手くいった。
 けれど、自分が囚われ、彼女の心を手に入れようとすればするほど、熱いのは身体ばかりで欲しいものが手に入らない。
 「…どうすればいいわけ?」
 小さくごちる。
 顔に掛かってむず痒そうにしている髪の毛を払ってやって、つくしの頭をそっと撫でる。
 類なりに『王子様』を演じた。
 ほかの女なら容易に落ちただろうに、それじゃあダメだと言われてどうすればいいというのだろう。
 「…くしゅん」
 つくしが小さなくしゃみをして、かけてやっていた類の上着が床へと滑り落ちた。
 溜息をついて類は立ち上がると、その上着を手に取り再びつくしの肩へとかけ、上着ごと横抱きに抱きあげる。
 肩を寄せ合い顔を近づけて自分たちに世界に入り込んでいた他の客の何人かが、薄闇の中でもそんな彼ら二人に気が付き、注目していた。
 けれど、注目されるのなんて類にとっては今更なことで。
 むしろ…それこそが今の彼にとっては望ましく、注意深くつくしの顔を自分の顔に伏せ悠然とバーを歩く。
 バーを出しな、出入り口のすぐそばで一人座っていた男と視線を絡ませ、類が店を出ると、男もまた彼を追うように席を立った。





 夢だと自覚している夢がある。
 ボソボソと小さな声で誰かが呟いている。
 耳に心地よい声。
 『…あんただけ』
 …お前だけ。
 どこかの誰かにも言われた。
 でも、その彼を自分がふり捨ててしまった。
 寂しがり屋で、バカで愚かで…でも一途な男。
 『いらないものは、全部捨てる。でも、あんただけは離さない。逃がさない』
 怖いのに、どこか官能的で。
 逃げたいのに…、逃げたくなくって。
 いったい、どこへと連れていかれてしまうのだろう。
 …起きなきゃ。
 けれどあまりに気持ちよくって、起きる気になれない。
 頬に触れる温もりに顔を寄せ、ほぅっと一つ大きな吐息をつく。
 「起きたの?」
 夢の中の声と同じ声が耳から聞こえて、つくしはイヤイヤと首を振る。
 「…寝ぼけてるね、あんた。もう少し寝てな」
 優しい声音に安心して、手の中に触れたものを手繰り寄せ、眠気に身を任せる。
 「おやすみ、牧野」





 「…牧野さんと、おっしゃるんでしたね、そういえば」
 「名前は伏せておいて。あと、顔も」 
 男は肩を竦める。
 「道明寺さんとも関係のあった女性だと公表できれば、大した記事になるんですがね」
 「俺を敵に回してもいいなら」
 薄ら笑った類の顔は、その年齢に見合わぬ凄みを帯びていて、この道で生きて様々な人間に出会い、また威迫されることも度々あったと言うのに、背筋にゾクリと寒気が走る。
 男がこの世界で海千山千の人間たちの中泳ぎ切ってこれたのは、けっして逆らってはいけない…敵に回してはいけない相手を嗅ぎ分け、上手く世渡りをしてきたからで。
 「…わかってますよ。魚心あれば水心といいますからね。これからも、耳よりなことがあれば私に任せてくださるのでしょ?」
 「いい記事を書いてくれたらね。…カメラマン連れてないみたいだけど?」
 「スクープのたびに、一々カメラマンを同行できているとは限りませんからね。写真も私が自分で撮れます。その体勢のも一枚撮らせていただいて構いませんかね?」
 類に抱き上げられたつくしの顔を覗き込もうとした男から、さりげなくつくしの顔を庇うように類が体の向きを変える。
 「どうぞ」
 パシャ、パシャッとフラッシュがたかれ、類とつくしのツーショットが何枚か撮影される。
 カメラのファインダーに今撮影したばかりの画像を映し出し、男が満足げに大きく頷く。
 「タイトルももう決めてます。世紀の政略結婚報道の影に泣いた二つのラブ・ストーリー」 
 類がフッと嗤う。
 「陳腐だね」
 「大衆は陳腐なものが好きなものですよ。それとも企業のエゴを乗り越えたシンデレラ・ストーリーの方がいいですかね?」
 「いいよ、任せる。できるだけ綺麗にマトメてくれればいい。場合によっては…違うテイストの記事も書いてもらうことになるかも」





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