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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて259

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 風呂から上がって、パジャマを部屋に忘れてきたことに気が付いた。
 つくしは仕方なくそこに置いてあったバスローブに手を伸ばす。
 風呂を出て居間を通りかかると、すでに類はソファの上でうつらうつらしていて、つくしも好きなバラエティ番組を観るともなく聞き流していた。
 とりあえず類もパジャマには着替えていたが、まだ生乾きの髪が気になって、肩を揺すぶり、眠そうな彼にドライヤーを押し付ける。
 「…牧野、やって」
 子供か、このガキャァ。
 そうは思うものの、おねだりする類は可愛くて逆らい難い。
 仕方なくコンセントを繋いで、ソファの後ろに立ち類の髪に触れると、ポンポンと自分の隣のソファを叩いてここに来いと誘われ溜息をつく。
 「…やりにくいし」
 期待に満ちた目で甘く見つめられ続けるプレッシャーに耐えきれず、望み通りに類の隣へと座った途端に膝に抱き付かれてしまう。
 「類~」
 「…気持ちいい」
 膝に懐く姿は可愛いが、本当の子供でない類をバスローブ越しの膝にのせていると、裾が肌蹴て素肌が見えてしまうのではないかと気が気ではなかった。
 …まあ、今更なんだけど。
 今更パジャマに着替えてからというのも妙に意識しているようで、それはそれでよろしくなかった。
 「ハア~ッ」
 「溜息つくと、幸せが逃げてくよ?」
 「誰のせいよ」
 「俺?」
 「……」
 悪びれずに言われれば、相手をするのもバカバカしくて、口答えするのをやめた。
 「…留学」
 「え?」
 「あんたが嫌なら、断ってもいいよ」
 「……」
 どういう風の吹き回しかと、顔を覗き込むとつまらなそうな顔に出くわす。
 「…でも、会社からの辞令だからね、普通は断れないよ」 
 反論の余地はない。
 男性やキャリアを望む女性であれば出世の道を立たれることさえあった。
 だが、つくしは特に野心があるわけでもない。
 期待されたから応えてきただけで、仕事が嫌いじゃない…その程度のことだったので、出世など望みもしていなかった。
 「会社辞めるつもり?」
 「…辞めたいわけじゃないけど」
 「前の会社に戻るのも無理」
 「わかってる」
 「うちほどの待遇での転職は難しいと思うよ」
 それはそのとおりで、なんだかんだ言って給料においても、仕事内容の遣り甲斐にあっても、現在の待遇は身に余るもので、それが類の個人的感情による引き立てなのが辛いが、それでも両親の借金を考えれば今のつくしには安易には辞められない境遇なのだ。
 「俺の秘書でいてもらうのも日本でだけのことだし」
 意外な言葉に、つくしがジッと類を見下ろす。
 つくしに髪を梳かれて気持ちよさそうに目を閉じている類は、とてもつくしのこれからの進退を話しているようには見えないほどに安穏としていて、腹が立つ。
 それも勝利を確信してのことだと思えば、目の前のサラサラの綺麗な髪を根元から引っこ抜いてやりたい誘惑にもかられた。
 …王子様の頭に十円ハゲ作ったら、いろんな女の人から恨まれるだろうな。
 あの人とか、その人とか、あれこれ会社で類のファンを自認する女子社員たちの顔を思い浮かべて危険思想を追い払う。
 「もちろん、あんたが望むならそのまま俺の秘書やってもらっててもいいけど、それじゃあもったいないでしょ?」
 「…もったいない?」
 「うん。あんた、彰の部署でも前の会社でも頑張ってやってたじゃない」
 それはつくしを類なりに評価してくれていたということなのだろうか。
 「…あたしの仕事もそれなりに認めてくれてたの?」
 「そりゃそうだよ、そうじゃなけりゃ、わざわざうちに引き抜いたりなんかしない」
 そうは言うものの、類がつくしの会社に現れたタイミングは絶妙すぎて、何の思惑もなかったとはとてもじゃないけど、疑わないでいるのは難しかった。
 「なに、その顔?あんたをうちに引き抜いたのは、最初からなんか企んでたんじゃないかって思ってる?」
 「……」
 そのとおりなのだが、当の本人に言い当てられるのも気まずいものがある。
 「まあ、全然違うっていうのも嘘臭いから否定はしないよ」
 「やっぱり、あたしの実力を買ってくれたわけじゃないのね?」
 そうではないかと疑っていたが、肯定されてしまえばひどく憤しく、遣る瀬無かった。
 「最初はね。でも、いくら俺でも使えない人間をいつまでも留めておけないし、うちはそんな人間に仕事を任せるほど甘い会社じゃないことは、あんたが一番身に染みたんじゃないの?」
 そのとおりだった。
 さすがは世界に名だたる大企業の一つ。
 生き馬の目を抜く社員たちを抱え、そのエリート中のエリートの中へ突然飛び込んだつくしには、戸惑うことも多かった。
 力不足に悩んだこともある。
 悔しい思いで耐えたことだってあった。
 けれどそれだけにやりがいを感じて、また評価された喜びに常に努力してきたのだ。
 花沢物産内では、つくしが類の縁故を利用したとやっかむ者も多い。
 けれど、それでも徐々に重要な仕事を任されるようになって、曲がりなりにも周囲もそれを認めていたのは、確かなつくしの実力だった。
 「俺の秘書になってもらったのは、まあ、緊急避難的処置って奴?どのみち、今期の留学選抜メンバーに入ってもらう予定だったしね」
 「じゃあ、あっちでは…」
 「俺の秘書はお役御免。元さやの関連事業部に所属してもらうことになるよ」
 「…戻れるんだ」
 「どう?少しはその気になった?」
 つくしの前向きに考え出した気持ちを悟って、類が小さく笑う。
 「公私混同はない?」
 「俺がそんなことしたことある?」
 公私混同と言えば今回の秘書課への転属がまさにそうだったが、仕事に関して類はつくしに手心を加えるようなマネをしたことがなかった。
 それは秘書になってからもで、アフターファイブこそはこうしてプライベートも混在してくるが、意外にも職場での類はつくしに対してもあくまでも一線を画していた。
 だからこそ、つくしの立場で類の秘書などを務めていられた。
 居た堪れなさも、羞恥も堪えて、職務に集中することができたのだ。
 「…確か、社費での留学だから、住居は独身寮もしくは社宅が用意されてるのよね?」
 「まあ、それに関してだけは、臨機応変かな?」
 話の雲行きが変わって、つくしが抗議の声をあげる。
 「話が違うじゃないっ!公私混同しないって言ったのは、どの口よッ」
 「この口かな?」
 お道化られても少しも和む気がしない。
 それどころか、その余裕がむしろ憎々しかった。
 「どちらにせよ、日本でのように集合して暮らさせてるわけじゃない。それ相応の費用を社費で工面してそれぞれが住居を確保してるんだから、あんたがどこで暮らそうと誰も干渉したり詮索したりはしないさ」
 それはそうかもしれない。
 日本とは住宅事情が異なる。
 フランスにも現地の社員が住まう社宅的なものはあるようだったが、会社に所属していても今回のつくしら留学メンバーの場合はメインが勤務ではなかったから、住まいの扱いは別なのだろう。
 それでも…。
 「…もう、一緒になんか住めない」
 「住める住めないじゃなくって、あんたには別の選択肢はないよ」
 類の断定につくしが眼差しをキツクしたのに答えるように、ゆっくりと類が瞼を開け、つくしと視線を合わせた。
 「…どこにもいかせない」
 「それなら、会社を辞める」
 売り言葉に買い言葉だったが、それでも最悪の覚悟くらいつくしにだってある。
 「転職は難しいって言ったよね?部屋を探すのも辛いと思う」
 その言葉に、ハッと以前に不動産屋を訪ねた時のことが思い当たり、ますます類を見る目に険を含める。
 「…あんたが手を回したの?」
 「……」
 類の表情は変わらない。
 ただ静かにつくしを見上げて、まるで邪気がないようなフリをしているだけだ。
 だが、もうつくしは誤魔化されない。
 類が目的の為なら、どんな策略をも巡らす男だと今はもう熟知していたのだから。
 「そうなの?あたしが引っ越せないようにあんたが圧力をかけたんでしょ?あたしが逃げられないように、今度は就職や不動産屋にも圧力かけるって、そう脅迫するつもりなのね?」





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