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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執②

昏い夜を抜けて257

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 類のリードで、踊るダンスは楽しかった。
 社会人になって、一度友人の香帆と一緒に行ったカルチャースクールでのダンスの講習が多少は身になっているだろうか。
 けれど、優雅なステップを踏む類に巧みにリードされ、踊らされていることにふと気が付く。
 最初は類の足ばかり見ていたつくしも、いつの間にか楽しめるようになっていた。
 「…いいの?」
 「なにが?」
 さっきから気になっていたことを聞いてみる。
 食事くらいならともかく、いかにもデートなこんな場面を婚約者がいる男が堂々としていてもいいのだろうかと、先ほどからずっとつくしは人目を気にしていた。
 「雑誌とか、テレビとか、まずいんじゃないの?」
 「ふふ、いまさらだと思うけど」
 「……」
 もちろん、今までだって気になっていた。
 ただ類が気にさせてくれなかっただけで。
 それでも、美也子とのことが取りざたされている渦中なのだ。
 婚約者が身重だと言うのに、他の女とデートなどとはあまりにも不謹慎な行いを堂々としすぎてやいないだろうか。
 倫理観がどうというつもりはない。
 そもそも婚約者がいながら、これまた婚約者がいるような男と肉体関係を持っていた自分が…なのだから。
 けれど、一庶民の自分とはまた違う次元で類だとてスキャンダルはまずいだろう。
 自分でさえ、会社内で身の置き所がなくって高階の元へと引き取られたのだ。
 関係者の中では公然の秘密であっても、世間的に暴露されては花沢物産的にもダメージだろう。
 あくまでもプライベートなこととはいえ、企業にはイメージというものもあり、また類は、ただ一経営陣の一人というよりも、あのF4の一人として私生活も注目されている男なのだ。
 「俺は司ほど注目されてないよ」
 「…道明寺じゃなくってもあんたは人気者だよ」
 首を傾げて、類が視線を周囲へと向ける。
 「ほら、誰か俺のこと注目している?」
 注目しているかされていないかといえば、チラホラ見ている女性たちはいる。
 けれど、英徳時代や、会社内でのように彼をあの『花沢類』だと認識しているわけではないように思える。
 「この船はまあ、いわゆるエグゼクティブと言われる人たちをターゲットにした観光船なんだけどさ」
 「うん、すごい豪華だものね。一般庶民のあたしには、敷居が高いよ」
 クスッ。
 「司の船とそう変わらないでしょ?」
 「…道明寺の船はすごかったものね」
 「そうじゃない。司なら世界中に何隻も所有してるだろうし、俺もこのクラスの船なら所有してる」
 「……そ、そうなんだ」
 彼らの金持ち具合は、昔から身に染みてよく知っていたが…。
 「つまり、そういうこと」
 「…なにがそういうことなのよ」
 「俺たちの階級の人間は、わざわざ観光船に乗らなくっても自分で所有してるから、ここにはいない」
 「ああ、なるほど」
 つまり類を見知ってるような人間は乗ってはいないだろうし、何食わぬ顔をしていれば彼の正体を見破れる人間などいない、そういうことなのだろう。
 …そういえば、さっきから、『カッコいい人がいる』みたいな黄色い声は聞こえたけど、寄ってこないものね。
 類を類と認識すれば、そのバックに花沢を見て挨拶くらいには訪れるはずだった。
 安心…というわけではなかったけれど、とりあえず納得して、それ以上は言い募るのを辞める。
 どの道、類がこうしたい、ああしたいと思えば、つくしには逆らえない。
 …けっこう強引っていうか、我が道を行く男なんだよね。
 いかにも俺様な司とタイプは異なるのに、結局類も、自分のやりたいようにしか動かない。
 つらつらとそんなことを考えていたら、すぐ横を通り過ぎたカップルに接触しそうになった。
 けれど、類が肩を抱き寄せコースを変えてくれる。
 つくしがステップを間違ってよろめきそうになっても、力強い腕で支えて態勢を整えてくれた。
 「…ダンス上手だね」
 「好きじゃないけどね」
 確かにアクティブでもなければ社交的でもない類にしてみれば、他人と密着して延々と動かなければならないダンスは不向きだと言えた。
 「でも、フランスに行ったら日本にいるより、こういう機会は増えるよ」
 当たり前のようにサラリと言われ、勝手に自分の進路を決められてしまう閉塞感に唇を噛みしめ類を睨みつけた。
 「…怖いよ」
 「あたし、行くなんて言ってない」
 「ステップ飛ばしたよ。辞令だもん、あんたに選択の余地なんてあるはずもないでしょ?」
 たとえ辞令で、選択の余地がないにしろ断る権利くらいはある。
 その後、会社での立場がどうなろうと強制力などありはしないのだ。
 それなのに、つくしには初めからその道以外は示されなかった。
 辞退するなら退職するか…それさえ示唆されることもない。
 「とにかくあんたは拒否できないから」
 「…会社を辞めればいい」
 「……」
 またも例の画像の存在や家族を盾に脅迫されるだろうと思いつつも、唯々諾々と従うのは業腹だった。
 「なんで、拒むの?この前も、あんたには損がない話だと説明したと思うけど?」
 「…損得を言ってるんじゃないわ。あたしの意思を無視して勝手に進められるのが許せないのよ!」
 怜悧な目でジッとつくしを見下ろす類の顔には表情が乏しくて、こんな時彼が何を考えているのかつくしにはわからず、落ち着かない気持ちにさせられる。
 「冷静に考えてみな?俺への意地や個人的感情ではなくってさ。日本にこだわる必要ないでしょ?会社の経費で成長させてもらえると言うんだ。それを断って会社を辞めるとか、それってあまりに愚かすぎる選択だと俺は思うけど?」
 実際そのとおりで、いまのつくしには日本にこだわる理由はない。
 山崎との婚約も壊れ、両親はともかく弟の進も海外赴任を視野に入れた就職を選択している。
 「……そんなに簡単に言うけど、外国だよ?」
 悔し紛れに口にした言い訳はいかにも子供じみて、すでに負けを認めている。
 「構えるほどじゃないよ。…俺もいるんだし、ほとんど会社と大学、住まいの往復になるから住んでる場所が変わるくらい?」
 「……ハアァ、フランスでもこのままやっていけるとか思ってるわけじゃないよね?」
 「なんで?」
 類の平然とした物言いが信じられない。
 「ありえない」
 「…難しく考えすぎだよ」
 「契約では」
 そこで周囲の状況を思い出し、つくしが声を潜める。
 「…あんたが飽きるかあんたの結婚までは、あんたの言う通りにするって言ったけど」
 「俺は牧野に飽きてない」
 「……」
 「飽きてないし、他の女と結婚しないっていったじゃない。…問題ないでしょ?」
 もちろん大問題に決まってる。
 どこの世間に自分の海外赴任に『愛人』を同伴する人間がいるのだ。
 地位ある男のすることじゃない。
 「…だから、結婚しよ、って言ったじゃん」
 「っ!?」
 「夫婦同伴なら…」
 「おや、もしや花沢専務ではありませんか?」
 横合いからかけられた声に、類とつくしが立ち止まり、横合いからきたカップルにつくしの背が押しのけられかける。
 つくしを腕の中に囲い込んで向きを変えることで、類がそれを回避した。
 「…PS重工の?」
 「ええ!」
 そこから一通りの挨拶へと移行し、つくしの話が中断させられる。
 類の所属する階級の人間ではないようだったが、彼を知る人間もいたわけだ。
 おそらく仕事で会ったことがあるのだろう。
 当たり障りのない会話の後、それぞれプライベートだからということで何事もなく別れた。
 社交辞令の付き合いを終えた後には、音楽も変わり、濃密なチークダンスタイムへ。
 「…踊る?」
 「もういいよ、疲れたし」
 いくられっきとしたダンスの演目だとはいえ、人前で類とそこまで公然と密着する気にはなれない。
 「そう?じゃあ、休もうか。それとも、ビリヤードでもする?」
 「ビリヤード?」
 船の中でそんなにもさまざま娯楽があるのかと、驚いて聞き返す。
 「うん、やる?」
 「…やったことないし」
 「興味あるなら教えてあげるけど」
 どうやら類はビリヤードまで得意らしい。
 基本、寝てばかりいる印象の男だったし、実際に残念ところ満載ではあったが、王子様的要素も同時にあわせもっている。
 …これで成績も優秀だったらしいし、スポーツも万能なんだよね。
 天は二物を与えずというが、彼に関してはそれはあてハマらず、それでいて野心や欲がないのだから嫌味この上ない。
 むしろ、類の残念なところ…見かけによらず物臭なところとか無神経さは、足して二で割ればちょうどいい兼ね合いなのかもしれなかった。
 「いいよ、もう帰ろう。あたしは明日休みだからいいけど、あんたは明日も仕事でしょ?」
 「明日は休み、明後日もゆっくり目だよ」
 類のスケジュールはともかく、気が付けばもう22時を回っている。
 「なに、本当に疲れちゃったの?」
 「…うん、かなりここのところハードだったから」
 それは肉体的なものより精神的なものが大きかっただろう。
 畑違いの仕事はきつかった。
 また、慣れぬことわからぬことで他人に迷惑をかけたくないつくしの気性が彼女の疲労に輪をかけ、さらに仕事でも類と関わることがよけいな心理的圧力となってしまっていた。
 「じゃ、もう部屋に行こうか」
 身を寄せ合い踊る人々の間をすり抜け、連れ出されてホールからデッキへとでれば、潮風が髪をなぶり、潮の匂いが鼻腔をくすぐる。
 「ええっ!?」





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