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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執①

昏い夜を抜けて251

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 「…本日のスケジュールは」
 第一秘書の告げるスケジュールを耳に、高階は腕時計を確認する。
 時間に余裕はないが、昨日よりはマシな今日になりそうだった。
 …人は野心を満たせば幸せだと言うが、それにつれて自分の時間がなくなってゆくことに対してはどう思うのだろうか。
 溜息をつきつつ、それらの凡人たちとは異なる時の流れを生きる男に出くわす。
 わざわざ他人の執務室で居眠りなどせずとも、自分の執務室に戻ればいいだろうに…。
 その男が蹲っているソファの横の席でパソコンを叩いている女が、困ったように高階へと視線を向けた。
 「お疲れ様です」
 「ああ、変わりはなかった?」
 「…ええ、まあ」
 変わりがないと言えば、変わりがない。
 彼女の横で居眠りする闖入者は考慮外とすれば。
 元々、ソファは執務室の中央にあったもので、おそらく当の居眠りしている男がズラしたのだろう。
 毛足の長い絨毯の毛並が、まるで道筋のように倒れ伏しているのが妙に珍妙だった。
 「…寝るなら自分の部屋へ戻れ、類」
 「ん?…戻ったんだ」
 高階の声に、伸びをしてやっと類が起き上って来る。
 「あふぅ、ちょっとすっきりした」
 「…どうせまた勝手に抜け出してるんだろう。三田村が泣くぞ、せめて専務室にいるぐらいはしてやれ」
 「だって、ここの方がリラックスできるんだもん。彰、お前に俺の部屋貸すから、チェンジしようよ」
 子供みたいな言い草に皮肉に高階は唇の端を歪めて、自分の執務椅子へと腰かけた。
 そして、間髪入れずに第一秘書が手渡す書類に目を通し始める。
 「牧野、俺には紅茶ね」
 高階にコーヒーを入れるために席を立ったつくしに、類がちゃっかりと雑用を頼む。
 「…はい、かしこまりました。専務」
 公私をわける第二秘書は、公私を完全に混同している専務に対して思うところもあるのだろうが、素直に頷いて退出した。
 目くばせを受け、高階の第一秘書も席を外すと、臆面もなく「ふわわわわ」と大きな欠伸をして、ソファの肘かけに片肘をおいて寄りかかる
 面白そうな視線が自分を観察しているのを無視して、彰は仕事を続けた。
 「お前も、取締役常務の役職が板についたじゃない?」
 「ま、お前よりはな。で、…何の用だ。わざわざここに来るなんて、まさか牧野さんに紅茶を入れてもらうためだけではあるまい?」
 尋ねる高階も案外それだけかもしれないと思っているのは明らかで、類の目が悪戯っぽく輝いた。
 「それもいいかも。俺もここに間借りしていい?」
 「……同居して守られる秘密もへったくれもないぞ」
 「別にいいよ、俺は守らなければならない秘密なんてないし」
 揶揄る言葉に、高階の纏う空気わずかに緊迫する。
 が…、飄々として少しの緊張感も伴わない相手にマトモに対するのもバカバカしいと、息を吐く。
 類は油断ならない人間ではあったけれど、今のところ類の利害に反することをしているわけではない高階に対して過剰な敵対行為をするわけがないのはわかっていた。
 畢竟…むしろ、類の望みを叶えないでいる方が虎を起こす危険性もある。
 「婚約破棄が決まった途端か?あからさまじゃないのか?」
 「…別にいいでしょ。お前だって、どうしても牧野じゃないとダメな理由ないんじゃない?」
 「そうでもない。彼女は真面目だし向上心もある。明朗快活で社交性にも問題がない。お前とのことがなければ、元の部署でだって、居づらくなるようなことはなかっただろう。秘書としても使いである優秀な人材になってくれると期待してるから、このまま俺が引き取ってもなんら問題はないな」
 コンコンと、ノックの音とともにコーヒーと紅茶を乗せたトレイを持ったつくしが部屋に戻って来る。
 口を噤んだ男たちのテーブルへと順に配膳して、再び席へと戻ろうとして、ふと首を傾げる。
 「あの…すいません、席を外していた方がいいでしょうか?」
 類と高階が顔を見合わせ、類が立ち上がる。
 「…お前、話しておいて。頭に血が上ると殴られちゃうから」
 「は?」
 怪訝なつくしにバイバイ、と手を振って、類が部屋を出てゆく。
 「…あの?」
 「いいよ、ありがとう。専務のことは気にしないでくれ。それより、君に話があるから、座ってくれるか」
 高階は課長時代から、一方的に部下を立たせて威圧するようなマネはしなかった。
 もっとも、それが必要な時もある。
 だが、今回はつくしを目の前のソファへと促し、自分も対面側に座った。
 「…4月一期づけてで、君はフレッシュラインから花沢物産に正式移籍される」
 そこにつくしの意思は反映されておらず、つくしも思わず上司の前だと言うのに盛大に溜息をつく。
 「あ、すいません」
 「いや、君の気持ちもわかる。命令する立場だとはいえ、君の境遇は同情に値する」
 「…はい」
 おそらくほとんどすべて高階には知られているのだろう。
 第二秘書として傍近く仕えるようになっても、高階は一線を引いてくれていた。
 それでも、今までの言動を鑑みるに、かなり高階は類に食い込んでいる。
 それは公私ともにだろう。
 …高階常務、類と従兄弟だって言ってたものね。
 実際、類と高階の容姿はよく似ている。
 作りよりむしろ雰囲気とでも言うべきだろうか。
 つくしにも従姉妹はいたが、ここまで似ているのも珍しいのではないだろうか。
 「元々、君を俺の第二秘書につけるのは暫定的だった」
 類の父親である社長の指示だということはあらかじめ聞いていたし、聞いてみればさもあらん。
 むしろ、首になって遠ざけられなかったのが不思議なくらいだ。
 「…社長の指示がなくっても、君には我が社に来てもらう予定だった」
 「え?」
 寝耳に水とはこのことだろう。
 「誰の意図かは言わずもがな、君には来期の海外留学メンバーとして、花沢フランス支社に赴任してもらう予定だ」
 「っ!?」






 マンションに帰ると、珍しく類が先に帰っていた。
 ここの所美也子との騒動が発端で、あえて激務に身を投じていた(自分からの)ご褒美にと、秘書を泣かせて就業時間も早々に帰宅していたのだ。
 玄関に置いてあった靴と人の気配に、探すまでもなく心得たつくしは一発で類を発見する。
 「…まだ、20時にもなってないのに寝てるとか、大人の生活でありえないでしょう?」
 ベッドの端に腰かけ、類の寝顔を見ながら呆れて呟く。
 が、無意識に伸ばした手を握られ、ギョッと身を反らせた。
 「お帰り、牧野。遅かったね」
 「…遅かったって、この時間じゃ、遅いうちに入らないわよ」
 「なに?彰の奴、そんなにひどく仕事フッて来るの?」
 「前の部署より断然楽過ぎて、残業代が出なくて困ってるくらいだよ」
 今の地位の方が前の地位よりも給料は上がった。
 それでも残業時間が減っただけ、総体的に収入が減ったとも言える。
 正直なところ、できれば残業でもして稼ぎたいが、必要がない残業は会社に対する搾取で、さすがに生真面目なつくしには気が咎めてできない。
 「お金、必要なの?」
 「…そういうわけじゃないけど」
 親の借金など、口が腐っても類には言えない。
 「それより!」
 「ん?」
 眠そうだった目が瞬いて、半分起き上がる。
 「どういうことよ!なんで、あたしが、フランスに留学だの、転勤だのしなくちゃならないのッ!?」





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