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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執①

昏い夜を抜けて249

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 「何も感じなかった」
 「…え?」
 「何も感じなかった」
 二度繰り返された言葉は、不思議に、それ自体に傷ついたように聞こえた。
 恐れていたことが起こらなかったというのに、そんな自分の気持ちに、類は苦しみショックを受けている。
 「…ただ、懐かしかった。何かが終わった気がした。でも、それを認めたくなかった」
 「どうして?あんたは、静さんに束縛されるのが怖かったんでしょ?」
 類の泣き笑いの顔の意味がわからない。
 「…そのはずだった。けど、いざ、静に対して、憎悪や恋慕じゃなくって、まるでしばらく会っていなかった肉親や何か…親しい人に会った時のような気持ちしか湧き上がらなくなっていたことに気が付いた時、ひどく腹が立った」
 「……」
 「じゃあ、俺の7年間はなんだったんだろう、って」
 類の7年間。
 静を憎んで、静を恋慕して、静だけど求めて昏い闇で膝を抱えて待ち続けた年月。
 成長することすら拒んで、いったい何をしてきたのだろう。
 「人のせいにして、俺はガキのままで。…この手に」
 そこで自分の両手を広げて、類がそっと見る。
 「この手に何も掴んでこなかった。何も学んでこなかった。いざ、欲しいものができた時、俺はそれを手に入れる手段さえわからなかったんだ」
 感情が欠落しているとよく言われてきた類。
 でも感情がないわけではなかった。
 いつも求めて、求めて…やっと手に入れたと思った静。
 けれど、彼女は類の手の中には納まってはくれず、近すぎて互いの存在の意味に気が付くことができなかった。
 肩を寄せ合った同じ巣の雛はやがて、それぞれに羽ばたいてゆく。
 一足早くそれに気が付いた静は両翼を広げ巣立ち…取り残された類は自分の翼の存在に気が付くことができずにただ地の底に蹲った。
 天空に憧れながら、どうやって羽ばたいていいのかわからなかったのだ。
 「あんたは、いつも一生懸命だ」
 「…類」
 「どんな逆境にあっても、俺が苛んでも、他人のせいにしない。自分の両足で踏ん張って、泣いて笑って、怒って…でも、けっして前を見ることを諦めようとしない」
 「そんないいもんじゃないよ」
 そう、いつも一杯一杯だっただけ。
 次々に襲っいくる不運に、いつも踏ん張って前を向いていることしかできなかった。
 逃げるには不器用すぎて、そのタイミングさえも計れずに、ただがむしゃらに生きることしかできなかったのだ。
 「…最初、出会った頃、あんたのことマジでうざって思ってた。けど、気になってほっておけなかった。キャラじゃないのに、あんたを助けたりして、そんな自分が不思議だったよ」
 つくしの胸に再び、あの頃抱いていた類への甘酸っぱいような胸苦しい思いが蘇る。 
 本当に恋していた。
 淡くて、拙くて、幼い恋だったけれど、つくしなりの真剣な心をこの目の前の美しい青年に捧げていた。
 何度…裏切られても、虐げたげられてもあの頃の類への感謝と恋慕の気持ちが、彼を憎ませてくれなかった。
 まるで春を待ち芽吹く若葉のように。
 どんなに激しい嵐が来ても、葉を吹き散らされてもやがては陽を望み、青々とした葉を茂らせる。
 運命…。
 類の言動の意味がわからなくて、ただ不審と恐怖に塗りこめられていた頑ななつくしの心が綻びる。
 「…だから、高坂美也子と結婚しない」
 ギクリとつくしの肩が強張った。
 類の真剣なまなざしがつくしへと真っ直ぐに注がれる。
 「たとえ、彼女の胎の子が俺の子なのだとしても、俺は彼女と一緒になるなんてことはありえない。あんたといる」
 「…そんなこと、赦されることのはずがないよ」





 「…そう、類、あの子ったら」
 美也子の訴える一通りのことを聞き届け、志保子が一つ溜息をつく。
 その中には美也子に対して一遍の同情も含まれてはいなかったが、少なくても彼女と同じ嫌悪をつくしに対して覚えたことは確かだった。
 元々、類にはしかるべき令嬢が嫁ぐことは決定事項なのだ。
 どこの馬の骨とも知れぬ庶民の女の存在など物の数ではない。
 汚らわしいとは思う。
 だが、志保子とて上流階級の女。
 地位ある男が愛人の一人や二人囲うことに対して理解がないわけではなかった。
 結婚前のお遊びだと目を瞑ることもできる。
 だが…。
 道明寺の…。
 とんでもない名前がでてきたことに対する危機感がある。
 もちろん、いまだに道明寺の御曹司ともあろうものがそんな女に執着しているとも思えない。
 けれど、美作や西門の息子たち…名だたる名家の御曹司たちを手玉にとる女など、怖気が走る話だった。
 「お話はわかりましたわ。ありがとう、あの子のことを心配してくださって」
 「…では、牧野さんのことは?」
 「もちろん、しかるべきに計らうよう息子には諭すつもりです。お金で片が付かないということもないでしょう。…道明寺さんとはそうしてお別れになったのでしょう?」
 志保子の断言に、美也子が胸をすく。
 元々ライバルだとも見なしていなかったが、つくしのせいでこんな境遇に陥ったのだと言う怨嗟もあった。
 …そうよ、身の程知らずはさっさと退場しなさい。
 「そんな方だと知ったなら、一刻も早く手を打たなければ、子供ができたなどと悪足掻きをするかもしれませんものね」
 「……え?」
 自分の中の思惑に沈み込んでいた美也子が、氷のような志保子の声音に目を瞬かせる。
 志保子の美しい笑みがこのうえなく冷淡で、自分への軽蔑も顕わなのに今やっと気が付いた。
 最初から志保子の声は物柔らかく優し気だった。
 けれど温度のない声音に、温もりも同情もなかった。
 …類さんに似ている。
 それは血縁ゆえの顔立ちだけの相似ではなく…。
 「名家の令嬢ならば、令嬢らしい身の処置の仕方というものを学ばなければね。…あなたのお腹の子が類の子であろうとなかろうと、誕生は許されぬ子です。婚前交渉で生まれた子など、花沢のよい恥さらしになってしまいますもの」
 王子様の夢。
 美也子が幼い頃に聞かされたおとぎの国には美しい王子や、お妃がいて、…いま思えばそのどれもが冷酷だった。
 「類との婚約破棄は決定事項です。元々不釣り合いな縁だったでしょう?…当家は高坂家の人脈を足掛かりに欲しいものがあっただけ。どのみち、結婚まで到達しうるお話ではなかったのです。夢を見たなら目を覚まさなければ、過ぎた夢はいずれ悪夢へと変わってしまうものですよ」





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遅かりし野獣

司が桜子に電話で宣言してからいったい何日経ったのだろうか?
類に “牧野は俺の女” 宣言されてるのにノンビリ屋さんですね・・・。
どうせ【類xつくし】だし、司の結果は見えてますが、
また惨めな司で終わるのではなく、せめて最後くらいカッコイイ活躍がみたい。
類の非道の数々を知った司が激怒して、類を瀕死に近いくらいブン殴る。
それか、司+総二郎+あきらの3人がかりの制裁タコ殴りでもイイ!
親友として許されない非道な行為した類とは、絶交する勢いのF3。
改心した類のためではなく、牧野の幸せのためを考え、これからもダチとして見守るF3。
司も牧野の想いを受け止め、男らしく静かに身を引き、牧野から去っていく。
出番少ないし、最後くらいカッコイイ司であって欲しいなぁ。

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