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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執①

昏い夜を抜けて247

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 類とつくしの視線がぶつかり合う。
 類の視線に実質的な圧力さえ感じて、つくしは視線を反らしたい誘惑に抗うのが辛い。
 目力…高校生の時の司と相対する時にも途方もない胆力を必要としたものだったが、類もまた彼とは異なる力も持つ人物だった。
 …吸い込まれそう。
 確か初めて、視線を合わせた高校生の日もそう思った。
 まるでビー玉みたいな綺麗な瞳。
 けれど、間近で見る類の目はどこまでも底がなく…昏い昏い闇へと吸い込まれてしまいそうに深い。
 その暗闇に引きずり込まれ迷い込んだ自分は、まるで幼い迷子のように頼りなく、流されるままにここまで来てしまったように思う。
 このまま待ち続けてゆけばやがては『類の結婚』という形で、また元の世界へと帰還を許され、もう二度とは交差することない二人に戻るばかりだったというのに、類はいったい何を今この時打ち壊そうとしているのか、つくしは動悸打つ胸を抑え、懸命に類から視線を反らさずジッと睨み返す。
 ふと先に視線を反らせたは類の方で…。
 伏せた目の薄茶色の睫毛が長い。
 つくしは思うともなくぼんやりと見送って、反応が遅れてしまった。
 「え?ちょっ!?」
 類の体が下がって、キッチンカウンターに座っているつくしの腰へと両腕が回る。
 ガッチリと抱き付かれ、身動きがとれない。
 「な、なに?類っ!?」
 つくしの腹に埋まる色素の薄い髪に手をかけ引き剥がすか迷って、手の置き場に困って狼狽える。
 「あんた、以前に、俺が静をフランスに追いかけて行ってからのことを聞きたがってたよね?」
 ぼんやりと、酔いの中で聞いた類の独白が蘇った。
 『俺、パリで静と暮らしてたんだ。パリのアパルトマンにいきなり訪ねて行った時のあいつの顔。───ずっと忘れられなかった…』
 つくしの戸惑いも斟酌せずに始まった類の独白。
 回された手がギュッと握りしめられて、今彼の感じている心許なさが伝わって来るような気がして、つくしは口を噤む。
 まるでつくしの目の前でその情景が蘇るようだった。
 訪ねてゆく薄茶色の髪をした美貌の青年を出迎える、美しい女が涙ぐみ、こみ上げる感情を抑えられずに青年の胸へと飛び込んでゆく。
 『……類』
 抱きしめあう一組のお似合いの恋人たち。
 その情景はさぞ美しく、しめやかで感動的なものであっただろうか。
 実質的な胸の痛みと息苦しささえ感じて、つくしは類の頭を見下しながら、喉元を抑える。
 「すごく…幸せだったって」
 「幸せだった」
 「……」
 類の声音には感情の揺れがまったくなくって、彼が自分の心の深淵を客観的に覗きこんでいるのが見て取れた。
 時がたったからだろうか。
 もうその時の生々しい感情は伺えない。
 それでもときおり、考え込むようにつっかえつっかえ話す言葉に、彼の真情が含まれてるのうだろう。
 いまでも静への切ないほどの彼の一途な想いが迸り出て、つくしの心を打ち砕くのではないかと恐れずにはいられなかった。
 だが…。
 「幸せで、夢みたいで…ひどく辛かった」
 類の顔がゆっくりと上がって彼女を見上げる。
 思いがけず、柔らかかな微笑みを向けられ、つくしの胸がドキンと音を立てた。
 柔らくて…儚くて、寂しそうな表情。
 「…辛かった」
 「幸せだと思えば思うほど、この幸せはいずれ終わる。いつ終わるのか、今か、それとも明日なのか、いつも怖かった」
 ふいにつくしの脳裏に20才の頃の静ではなく、自分もまた一人のか弱い一人の女にすぎないと悲痛な顔で語った現在の静が思い浮かぶ。
 類の独白が続き、再びつくしの顔から類の視線がそれ、彼自身の思い出の中へと還ってゆく。
 「…俺は、静を解放してやるつもりだった」
 「……」
 「足手まといで、あいつの未来を押しとどめようとする俺自身から逃がしてやるつもりだったのに」
 「花沢類」
 …じゃあね、類、行ってくるわね。
 そんな風に言って静は出かけて行ってしまったのだろうか。
 この気紛れな猫のようでいて、本当は怯えて泣き噎せぶ子供たいな青年をたった一人鳥籠の中に置いたままに、確かな未来へと。
 「気が付いたら、俺はまた逃げ出してたんだ。俺に逃げるなと、逃げずに追いかけろとあんたに言われたのを忘れて逃げてしまった。また置いて行かれるのが怖くて、捨てられるのが嫌で…全然納得なんてしてなかったのに、俺は逃げ出してしまったっ」
 感情がなかった類の声音が、苦痛に掠れる。
 自分の脆弱さを認めることは、この上なく苦痛だろう。
 なのに、類はつくしへとそれを曝け出した。
 つくしの腰から回していた両手を離し、項垂れた一人の青年。
 つくしよりも遥かに強靭な力と、大柄な体躯、権力、その他もろもろのものを持ち合わせているはずなのに。
 どうして、この人はこんなにも小さく見えてしまうのか。
 震える両手で頭を抱え、俯く青年はひどく頼りなかった。
 「…ねじくれた。自分で勝手に逃げたくせに、静を恨んだ。疎まれるのが怖い臆病な自分を赦して静に責任を転嫁した。追いかけてくれない静への憎しみをあんたに押し付けたんだ」
 「…どうして、あたしだったの?」
 つくしが静かに問う。
 「…わからない。最初はあんたが司を捨てたからだと思ってた」
 そうだろうとは思っていたが、実際に言われてしまえば、ひどく辛かった。
 類はどんな顔をしているのだろうか。
 つくしへの軽蔑だろうか。
 それとも、親友を傷つけた女への憎悪なのだろうか。
 けれど、案に相違してそのどちらでもなかった。
 真っ直ぐに、つくしへと向けられた顔はただ真摯だった。
 「初めて出逢った時から、あんたは他の誰とも違っていたからかもしれない」
 「……」
 「煩くって、面倒臭いのに、あんたを無視できなかった」





 「…では、今回のことは双方本人同士の感情の行き違いということで」
 「ええ、幸い結納はまだ交し合っていなかったことですし、当方が勇み足しすぎたようで申し訳ない。その…例の事業計画のことは?」
 汗を拭き拭き、高坂は落ち着かず、無意識のうちに片足を揺らさずにいられなかった。
 対して、花沢夫婦はゆったりとした佇まいで、内心はどう思っているかはともかく、微笑を絶やさない。
 だが確約する前に、通す筋がある。
 「美也子さんのお腹の子供のことは?」
 「……美也子の体調のこともありますし。近々、病院に赴かせようと思っているところです」
 チラッと花沢が志保子に視線を流す。
 それに応えて、志保子がゆっくりと高坂へと頷きかけた。
 「わかります。デリケートなことですから。美也子さんにはお母様がいらっしゃいませんものね、とても心細いことだと思いますわ。よろしければ、私が検査に付き添わせていただきた…」
 「だ、大丈夫です!あの子には姉もおりますからっ」
 「…しかし、妊娠というものにはタイムリミットがつきもの。時期を見すぎて、後の祭りというのではあまりに外聞が悪すぎる」
 柔和に微笑んでいた花沢の目が、スッと細そまった。
 「み、美也子はきょ、虚弱体質でして、こうなっては…その、むしろ幸運だったかもしれませんが、…こ、子供は諦めなければならなかったかもしれないかと案じていたところでして」
 ポロッと高坂の口から滑り落ちた言葉は、あからさまにすぎる。
 類の望む出生前DNA検査などせずとも…という暗喩を言葉のうちに秘めている。
 見返す夫婦の表情は少しも変わらなかった。
 「美也子さんの体は心配です。しかし、こちらも別のパートナーの考慮が必要になるかもしれない話題です。…1週間。1週間だけお待ちしましょう。どのような処遇をされるにしろ、美也子さんの為にも、一日も早くすべてが明らかになる必要性があるでしょう」





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