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「中・短編」
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桜の季節には

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 東京メイプルのロイヤルスウィートのから望む、煌びやかな夜景。
 広く温かな裸の胸に抱かれて、こうして二人時間も忘れて眺めたことは、いったい何度あったことだろう。
 初めて出会った17才の日。
 嫌って、憎んで、逃げて…そして、愛した。
 かつて冷たい蛇のような眼だと震えながら嫌悪したその眼差しが、あたしを見つけて本当に嬉しそうに、優しく柔らかく緩むのに気が付いたのはいつのことだったか。
 大好き、愛している、ずっと一緒にいたい。
 その願いは二人の永遠の真実だったはずなのに。
 「…寒くねぇか?」
 空調に完全に守られたこの部屋が、少しでも寒いなんてことはありえるはずもないのに、心の凍えが互いのものだからなのか、肩先を滑り落ちた薄いシーツを掛け直してくれる。
 「桜…、一緒に見れなかったね」
 思い起こしてみれば、8年という長い歳月をともに過ごして来たというのに、出会い互いの気持ちを重ね合わせたばかりの春は、同時にNYと東京という遠距離恋愛へと踏み入れた別れの季節だった。
 そして、4年、それぞれの道を歩みながらも、いずれは重ね合わせるはずの未来を夢見、不安と希望の間を揺れ動いた時間は、とても桜など見れるような二人の時は持てなかった。
 そして、その後の2年も、約束通りに帰国した司は多忙で、私自身大学に就職にと時間に追われて、気が付けば春は過ぎ、舞い落ちる花の終焉を眺めながら、来年こそは…と願い、ついに終わりを迎える。
 「来年、見に行こうぜ。別にいいじゃねぇか」
 自嘲するかのような司の物言いが、正直にその心情を表していて、言葉の内容を裏切っている。
 でも、あたしもそれをわかっていて、
 「…そうだね」
 と白々しくも短く頷く。
 愛している…。
 愛していた…。
 いつか、そんな風に、時は二人の想いを風化させ、懐かしい思い出に変えてくれるのだろうか。
 NYと東京という物理的な距離ではなく、司の結婚という心理的な距離がこれからの二人を永遠に分かち、友情などという紛い物の誤魔化しなど介在させることのできない二人だから、ここですべてはお終い。
 類や美作さんや、西門さん、滋さんたちと重ねる未来はあっても、もう二度とあたしは司と…道明寺との時を共有することはないだろう。
 「愛してる。愛してる、本当にお前だけだ」
 泣き出しそうな悲痛な声で、後ろから縋り付いてくる道明寺の手を握り返し、けれどそっと外して、
振り向いた胸元にギュウっと両手で握り込む。
 そして、そのまま道明寺の顔を見上げたあたしの顔は、きっと欲望に濡れた女の顔をしていたに違いない。
 だって、最後だから。
 これが、あたしと道明寺の恋の最果て。
 ジ・エンド。
 愛してた…。
 もう、これからは愛せない。
 だから、せめて今この時だけは。
 触れる男の手は湿っていて、いつもよりもずっと乱暴で容赦なかった。
 優しさなんていらない。
 忘れるんだ、と決意するその心の裏側で、忘れたくない。 
 刻み付けて。
 と、相反する願いが生まれ、あたしを惑乱してゆく。
 甘い吐息は、実は真逆に冷めていて、伝い落ちる涙が決してこの心の痛みからではなく、快楽の歓喜の涙だと信じたい。
 そうして、熱く嵐のようだったあたしたちの恋は終わりを告げた。



 吹き上げる春風に舞散らかされて、肩先にとまった小さな桜色の花びらを指でつまむ。
 春なんだな~。
 両側を囲む桜並木の街路樹を見ながら、春の陽光を楽しむように、後輩2人とあたしはゆったりと歩いていた。
 「牧野先輩~、婚約破棄したって本当ですか~?」
 会社の後輩の聡子ちゃんが、呆れたように素っ頓狂な声で叫ぶ。
 いくら社外とはいえ、昼日中の休憩時間帯。
 昼食をとりに外出しているサラリーマンやOLで溢れた、平日のオフィスビル街で、大きな声を出さないで欲しい。
 それも、ごくごくデリゲートな他人のプライベート事で。
 「ええ?それって、営業1課の出世頭、沢渡係長のことですよね!?」
 興味津々な美佐ちゃんは、人事部でも1、2を争う放送塔と言われているお喋りな女の子だ。
 こんな子の前で、よりによってその話題かよっ!
 今更だけど、ちょっと頭痛を憶える。
 「…相変わらず、早耳だね。聡子ちゃん」
 「ええ、まあ。今回はホント偶然だったんですけどね。先輩が…えっと、その啖呵切って、課長を振っちゃったホテルで、ちょうど友達が彼氏とランチとってたんですよねぇ」
 あっちゃあ、トンデモナイところを見られたものだ。
 「もったいな~い。あの顔よし、学歴よし、頭脳よし。さらに次男で小姑なし、の課長のどこが不満だったんですかぁ?」
 振ったとはいえ、一時は結婚も考えていた相手。
 その相手のことを悪しざまに言うのは気が引けて黙っていたら、聡子ちゃんは許可されたと誤解したのか、得意げに事の顛末を話し出す。 
 「…それが、牧野先輩と結婚式場の打合せにホテルでご家族と集まっていた時ね。突然、係長の元カノとか言う女が飛び込んできて、係長の子供を妊娠しているから、牧野先輩に別れて!って迫ったらしいのよね」
 「ええ~。それって、まさか、総務の?」
 「みたい。でも…」
 「聡子ちゃん。あることないこと、あんまり言いふらさないでよね?いくらなんでも相手もあることなんだから」
 さすがに放言させておくわけにもいかず、あたしが軽くねめつけると、聡子ちゃんはひゃっと首をすくめ、けれどペロッと小さく舌を出した。
 「はは、すいません。でも、この話、広めないようにするのって無理ですよ。だって、あの場所に仲人を頼まれていた部長夫妻がいらしたんですよね?部長の奥さんがまた、噂好きですもん」
 部長の奥さん自体が、嬉々として噂を広めているってわけか。
 はあ~。
 思わずため息が洩れる。
 結果的には、あたしの方から男を浮気?相手の女に熨斗を付けて押し付ける格好になったけれど、営業1課の部長夫妻を間に立てての結婚予定だったから、あの後いろいろと問題になった。
 下半身にはダラしない男だったけれど、沢渡は悪い男ではなかったし、男気もあった。
 最終的には粛々とすべての収拾をつけ、自らほぼ左遷に違いない北海道支社転勤を願い出て、身重の新しい婚約者を連れて旅立っていった。
 『悪い、牧野。こんな結果にするつもりはなかったんだけど』
 『あたしは、‘もう、いいわよ。お幸せにね’って言わないといけないわけ?』
 『相変わらず、キツイんだな』
 苦笑する男の顔が、悔しいけどイイ男だった。
 『でも、お前もどこかでホッとしてるんじゃないか?』
 『…』
 『忘れられない男、いるんだろ?俺に流されて、婚約までしたけど、お前いつもどこか遠くを見てたよな』
 男の寂しいそうな顔を正視していられず、あたしは無意識に目を反らしていた。
 ホント、ずるいよね、男って。
 自分が悪い癖に、すぐに女に罪を擦り付けて、罪悪感を転嫁するんだ。
 「あっ!あれって、道明寺司じゃないですかっ!?」
 美佐ちゃんの上げた言葉に思わず顔を上げたあたしの視線の先、通りかかった大型電気量販店のショウィンドウ一杯のテレビに、この数年見かけることさえなかった、懐かしい男の顔が幾重にも映っていた。
 「うっわあ。ホント!美形ですよねぇ~。こんな綺麗な顔の男の人がいるなんて信じられない」
 「ほんと、ほんと。これで山中や川島たちと同じ性別もった人間なんて信じられない!」
 「ぷっ、何よそれ。聡子ちゃん、それって山中君たちに失礼よ?」
 聡子ちゃんのあまりの物言いに、感慨深く今となっては手の届かぬほどに遠い男の横顔に見入っていたあたしは、思わず吹き出していた。
 「だって、ニキビの一つもないし、人間じゃないみたいじゃないですか!?」
 かつては、紙一枚さえも隔てるものがないほどに、超至近距離で何度となく、飽きもせずに思う存分眺めることが許されていた美しい顔。
 でも、あの頃のあたしには、この男の美しさよりも、手の温かな温もり、不器用な優しさ、繊細な心が、いつもあたしを酔わせ惹きつけていた。
 逢いたい…そんな風に思っていたわけではなかった。
 だから、最後に沢渡があたしに投げかけた断罪の言葉は、的を得たものなどでは絶対になかった…はず。
 「でも、この道明寺司って、既婚者なんですよね~。こんな美形なのに、結婚はやっ!」
 「顔は関係ないでしょ、顔は。でも、去年離婚してなかった?離婚してNYから日本に帰ってくるって、確か噂になってたけど」
 「え~、本当?確か、政略結婚で仮面夫婦、なんてゴシップ雑誌に載ってたけど、それでなのかな?」
 「じゃない?なんか奥さんの不倫記事とか、一時期よく載ってたものねぇ~」
 「信じられない!あたしだったら、こんなイイ男を手に入れていて、浮気なんて絶対にできないなあ」
 あたしは見るともなしに、広場の時計台を見ていて、時計の針の進みの速さにギョッとした。
 「ちょ、ちょっと!ヤバいわよ、時間。まだ、お昼も済ませてないのに、残り30分もないじゃないっ!」
 「あ!本当だ。私、今日、午後一に、会議の資料そろえるように頼まれてるんですよっ!?」
 ザザーッと血の気が引いたように顔色を変える美佐ちゃんを筆頭に、小走りにお弁当屋さんへと走り出す。
 あたし達の属する人事部の課長は、社内初の女性管理職という人物で、それだけに女性社員たちへの当たりはキツイ。
 張り切っているのはわかるんだけど、ちょっとした遅刻や怠慢にも目くじら立てて、窮屈極まりないのよね。
 かくいうあたしも、主任職をいただいて、課長に次ぐ女性社員たちの管理職を!というキャンペーンのお題目にされてしまっている。
 「…でも、先輩もこれに懲りずに、また、良い恋がやってくるといいですね」
 「恋ねぇ~。もうしばらく、男は懲り懲りかな?」
 「何言ってるんですかっ!先輩も来年は三十路入りですよっ!崖っぷちなんですからね」
 崖っぷちってアンタ…先輩に向かって何気に失礼な物言いなような。
 小突いてやるべきか真剣に悩みながらも、空腹の腹を優先して、足を速める。
 「何が、崖っぷちよ、失礼なんだからっ」
 「でも、先輩、ホント、恋は若い女のパワーの源なんですからね。諦めず、頑張ってください」
 不器用ながら、それが後輩たちの自分へのエールなのだと気が付いた。
 だから悪戯っぽく笑って、言ってやる。
 「ありがと。まあ、あたしもビビッと来る男性に出くわしたら、肉食系で頑張るかな?」
 「肉食系!ビバっ!でも、牧野先輩が肉食系って?」
 「そうねぇ~。目と目が合って、熱い何かを感じられたら…かな」
 「目と目が合ってって…少女漫画じゃないんだから。30才も目前の女がロマンチストすぎますよ」
 イタタタと、頭を押さえる聡子ちゃんの頭を、今度は本当に小突いてやろうと、私は後ろを振り返った。
 と、
 「キャッ!」
 後ろを向いた拍子に前方からやってきた人に、思いっきりぶつかる。
 相手も人ごみの間をすり抜けていた最中だったので、突然人の間から現れたようなあたしにモロにブツかってしまったのだろう。
 大きな体をした長身の男性だったから、まともに衝突したあたしは跳ね返されて、後ろ向きに転びそうになった。
 けれど、倒れ掛かるあたしの腕をとっさに掴み、男性はあたしを支えて抱き留める。
 ふわりと漂うコロンの香り。
 えっ。
 抱きとめられて上げた視線の先には。


 目と目が合って、熱い何かを感じられたら…



(~Fin~)




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ゆうあ様^^

はは、そうなんですよ。
「桜の~」
は、つくしと司のお別れバージョン。
そして何気に、最新の「嵐の中の木の葉のように」も
別れる理由は違うけど、お別れがテーマ。

携帯版への扉を発見されましたか!
といっても、必要最低限の知識しか取り込まないわたくしには、スマホの携帯切り替えは敷居が高いですが^^;
でも、このほど、いつもコメントくださる方に教えてもらったんですよ^^
いやあ、奥が?深いっすねぇ。

次回の15000打記念の携帯版は類猫バージョンをかければいいなあと思っておりますので、お楽しみに!(変えちゃうかもしれませんがw)

続きが読みたい!

はじめてコメします。ここを知って短期間に一気に何度も何度も読んでた私ですが、拍手小話をまったく!気づいていませんでした。
発見してうれしい~!!なんか秘密のボーナスもらった気分です。
小話どれも素敵で、ひきこまれました。
特にこれは続きが読みたい!!ぜひまた小話も続けてお願いします。
これからも更新楽しみにしています。がんばってください。

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