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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執①

昏い夜を抜けて240

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 窓を開けると、シンとした冷気が室内に満ちて、どこまでも続く静寂に呑みこまれてしまいそうだ。
 都会育ちで、華やかな世界を愛してきた美也子にとって、この清涼とした世界はむしろ疎ましかった。
 「…いつになったら、東京に帰れるの?」
 一時は一縷の望みだと行幸に思えた、自らのわずかに突き出た腹さえ疎ましい。
 「スタイルが崩れちゃう」
 それも彼女の悩みの一つで、いっそのこと彼女の父親が密かに目論んでいる流産でもしてしまえれば楽なのにと思う。
 どこからだろか。
 不意に臭った花の香に、美也子は「うっ」と呻いて、とっさにトイレへと駆け込む。
 「…うげえぇぇ、げぇぇ…うう、あ…ぁ、ううっ」
 月齢は4か月を数え始めていた。
 まったく食べ物を受け付けないというわけではない。
 けれど、とてもじゃないが耐えるのもそろそろ限界だった。
 人によってはもう悪阻も落ち着いてくるはずだというのに、美也子にはその気配さえもなかった。
 髪についてしまった汚物に顔を顰め、不機嫌に周囲を見回し、ベッドサイドに置かれた花瓶に気が付く。
 …食べ物でなくても、強い臭いのものはダメだとメイドに言い置いておいたのに。
 よりによって、特に臭いの強いバラを生けてあることに腹立ちを覚える。
 「誰かっ!」
 美也子が呼ばう声に、間髪入れずにメイドの一人が部屋へと入室する。
 「お嬢様?」
 真っ青な美也子の顔色と、弱々しくサイドテーブルに取り縋る様子に、慌てて歩み寄ろうと身を乗り出した。
 ガッシャーン。
 「キャアッ!」
 美也子が薙ぎ払った花瓶が甲高い音を立てて割れ砕け散る。
 癇癪のままに、手に触れた破片をメイドへと投げつけた。
 「私の傍にこんなものを置くなんて、あなたいったいどういうつもりなのっ!?」
 「そ、それはお嬢様が、昨日、日頃お好きな薔薇を生けておくように…」
 口答えされてカッとした美也子が、さらに物を投げつける。
 「…お、おやめくださいっ。きゃああっ」
 部屋の外へと急いで避難したメイドが立て続けに悲鳴を上げた。
 「気が利かないったら!私の状態を察しなさいっ。あなたみたいに使えないメイドは、今すぐ首にするからッ!」
 「…すごい、癇癪だね」
 呆れたような静かな揶揄る声に、美也子がハッと顔をあげる。
 視線の先に、冷ややかな眼差しの甘い美貌の青年が、彼女を見下ろしていた。
 「…あ」 
 自分の惨めな今の姿に思い当たり、とっさにベッドの後ろへと隠れる。
 よりにもよって吐瀉物にまみれて、苦痛に病み疲れたこんな屈辱的な姿を見られるなんて。
 「俺の子を妊娠したと公言しておきながら、俺の目を逃れてこんなところに雲隠れって、ずいぶん酷いんじゃないの?」
 「類さん」





 「る、類君ッ」
 ドタドタと小太りの体を揺らして、駆け付けた高坂の顔色は悪かった。
 「…お久しぶりです。ご多忙なようで、中々お目にかかれませんでしたね」
 会えない理由が多忙などではないことをわかっているくせに、慇懃に頭を下げる類へと引き攣った笑みで返す。
 「来るなら来ると言ってくれれば、準備万端でお迎えしたのに」
 もちろんそれくらいなら、初めから美也子の居場所など偽りはしなかった。 
 互いにわかっていながらの、茶番に噴出してしまいそうになる。
 目の前の血走った眼の醜悪な男にも、自分にも。
 「…俺の用件はすでにお分かりだと思いますが」
 「久しぶりに会った舅に、失礼だと思わないかね?」
 「舅…ですか。まあ、確かにそうなることもありえたとは思いますよ。でも、こういう事態になった以上、物事は白黒つけたうえでそういう話を再開するべきでは?」
 「……君が美也子に手を出していたことはわかってるんだ」
 かなぐり捨てた建前の行方をどうするつもりなのだろう。
 「ええ、それは否定しません。手を出していた…という言い方はあまり好きじゃありませんが」
 人を食った言い方に、この若造がと、高坂の顔に憤りの朱が走る。
 「言い逃れする気か」
 「お嬢さんも俺ももういい年の大人だ。男女の関係に関して、親がしゃしゃり出るような問題でないと思いますが」
 バンッ!
 激高した高坂が、目の前のテーブルを叩いて立ち上がる。
 互いに対面側で座った、ソファへの座り方に互いの精神状態が現れている。
 組んだ長い足を組み替えて、高坂を見返した類の目はどこまでも冷ややかで、少なくても未来の舅に対するものでも…尊崇するものでもない。
 「君がそんなだから、美也子は不安に思ったんじゃないかね!本来なら、君に相談して公表すべきだが、君に任せていてはどんなことをしでかすつもりかわからない」
 「…どんなこととは?」
 「私が知らないとでも思ってるのかね。君が愛人を囲い、自分のマンションに住まわせていることをっ!」
 「…そうですね、美也子さんが殺人未遂を犯そうしたくらいですからね」
 「っ!?」 
 痛いところをつかれて、意気揚々としていた高坂の言葉が詰まる。
 だが、非は類にある。
 それを押し通さないわけにはいかないのだ。
 「それは!君が、婚約者である美也子を蔑ろにしたからだろうッ。うちの娘を傷物にしておきながらっ」
 「…婚約者がいる身でありながら、他に付き合ってる異性がいると言う意味でなら、美也子さんも、俺のことを言えないのでは?」
 「なっ!君は美也子を侮辱する気かねっ!?」
 「…美也子さんのお腹の子の父親と思われるあなたの第二秘書は、今頃、シンガポールへ高飛びですか?」 





 「話にならんっ!」
 類との話し合いは当然のことながら平行線だった。
 だが、結局のところ、類に勝機があるのは双方が認めることだ。
 …美也子が出生前DNA検査に応じないことからして、その答えが出ているのだ。
 ただその真実を明らかにするのが、今であるのか、先のことであるのか、ただそれだけのことで。
 頭から今にも湯気を出しそうな高坂が席を立ったのは、あきらかに怒りではなくその場しのぎだった。
 青ざめた顔に、進退窮まったと書かれている。
 …後はどう思い通りに物事を進めるかが問題だった。
 美也子が今後堕胎しようと、出産しようと類には関わり合いがない。
 けれど、類としては泥沼化するのは出来るだけ避けたい。
 高坂にしても、ここまで話を大きくしたからには引っ込み付かないのはわかる。
 …どこが落としどころか、後はそれだけだよね。
 もちろん結婚は論外。
 出産まで呑気に待つわけにもいかないだろう。
 第一、類の子ではない以上、高坂とて美也子が出産するのは歓迎できるはずもない。
 万が一にも類との結婚を一縷の望みにかけていたことは確かだ。
 だが、それが夢物語だわかっていないほどには、愚かではないはずだった。
 高坂との共同プロジェクトは後3カ月もすれば着工に踏み切れる。
 スタートを切ってしまった物件を、たとえ花沢物産とはいえども、個人の都合でご破算にできないのは明らかだ。
 高坂の狙いはここにある。
 そして、それくらいのことは類も承知していた。
 それならば、美也子の出生前DNA検査…ひいては婚約破棄に対する交換条件にしてもよいだろう。
 「…類さん」





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