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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執①

昏い夜を抜けて226

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 『この電話は電波の…』
 無機質な音声の告げる言葉に、通話を切る。
 よもや、この番号にかけることがあるとは、類も思ってはいなかった。
 無造作に手の中の携帯電話を、背後のソファへと投げ出す。
 なんだかこうやって起きているのさえバカバカしくなって、執務机へと突っ伏す。
 …今頃、つくしも同じ建物の中でチョコマカと動いているのだろうか。
 独楽鼠のように働いている女の姿が脳裏に蘇って、クスリと微笑んだ。
 「…専務」
 1週間前の父親との通話を思い出して、ふて寝を決め込む。
 「専務、申し訳ございませんが、この書類の決裁をお願いいたします」
 怖々と遠慮がちに願い出る秘書を無表情に見上げた。
 「眠い」
 「…は?」
 「俺、ちょっと30分ほど仮眠とるから」
 そう言って一昨日も、ゆうに2時間は寝こけられてしまった。
 仕事自体は早いし、確かに睡眠後の効率は良い。
 だが、重要顧客幹部との会食をドタキャンするハメに陥り、その理由をつけるのに秘書である彼が冷や汗をかくハメになった。
 それでも類の場合はかなり確信犯で、やってもいいこととマズいことの区別をつけている。
 確かに会食はドタキャンしていたが、昨日のパーティでその相手とのコミュニケーションを積極的にとり挽回はしていた。
 「とにかく30分。今日はちゃんと起きるから。別にいいでしょ、邸にも帰らず、仕事してんだからさ」





 高坂は類と美也子の婚前交渉の事実を全面に、早期の入籍を要求していた。
 類としては避妊は完璧だったし、彼の子供を妊娠とは片腹痛い。
 コンドームの避妊率は97%と言われている。
 残り3%という事例があるのだとか言いながら、高坂は出生前DNA遺伝子検査に応じようとしない。
 『…だが、絶対はないだろう。お前が高坂家の娘と関係を持っていたことは証言されている』
 証言…前回ヨーロッパ出張のおり、美也子の別荘での出来事を引き合いに出された。
 さすがに、素っ裸の美也子を纏わりつかせて屋敷内を闊歩したのはマズかっただろう。
 つくしのことしか頭になかったとは、我ながらどんな愚か者なのだと思う。
 面倒を避けたいなら、一応は婚約者の美也子の要求を受け入れて抱いてやればよかったのだ。
 あるいは適当に丸め込めばよかったものを、その手間を惜しんだために、この有様だ。
 まるで、興味深い昆虫でも見るような目で自分を見ていた父親を思い出す。
 父にとって大事なのは類の婚約者が誰なのかではない。
 いかに花沢の対面を守り、花沢の利益を生み出すか、なのだ。
 現在、高坂家の事業は窮地に陥っている。
 元々花沢が期待していたのは高坂の事業ではなく、その血縁的バックボーン。
 有益な政治家との縁故を保っていることなのだ。
 だが、いよいよ高坂が危ないとなれば、親族とはいえ見向きもしないだろう。
 そして、この短期間に、高坂家を通じて類はそうした政治家たちと縁を通じていた。
 あくまでも名目ときっかけが必要だっただけで、相手も花沢と近づきたいのだ。
 …まあ、あわよくば自分の娘をという思惑もあるんだろうけどさ。
 それは別に美也子でなくとも、その政治家自身の娘でも良いということなのだろう。
 美也子の胎児との血縁関係の有無を確かめようにも、本人が雲隠れし、一族が口を噤んでいる。
 だが、どの道、それは放置していても明らかになるだろう。
 高坂は不貞の子の誕生など歓迎しないだろうし、類の子供でないのなら誕生が許されるとも思えない。
 …つくしだったら、それを哀れだというだろうか。
 こうしていても、ついつくしへと思考が流れてゆく。
 もし、ありえないことだが、美也子の胎内にいるのが類の子だとして。
 …それでも結婚はありえない。
 だが、問題は美也子の子が誰の子よりも、このままではつくしが離れてゆくことが確実なことだった。
 つくしの大切な人々で作った檻は、脆く儚いものだと彼女は気が付いているだろうか?
 彼女が望めば、類に対抗できる力を容易に手にすることができる。
 それだけの人脈を、つくしはとうの昔から持っていた。
 「バカだね、あんた。…どうして、わかんないんだろう」
 類を利用しようとしない彼女が、他の誰をも利用しないのは当然のことなのかもしれない。
 とにもかくにも、類がマンションに帰ることは父親から禁じられていた。
 『婚約者が妊娠しているというのに、他の女性と暮らすなど外聞が悪すぎるだろう』
 その言葉を思い出して、つい失笑する。
 外聞がどうのというのなら、婚約者がいる身で他の女と暮らしている時点ですでに外聞などありはしないではないか。
 その矛盾をわかっていて口にする父の意図はわかっている。
 この窮地をどう彼が切り抜けるか、父はそれを見ているのだ。 
 類が果たして花沢の後継者として相応しいのか、それともそうでないのか。
 目の前に置かれた辞令の書類に薄らと微笑む。
 高階彰を取締役へと抜擢する辞令だった。
 本人にはすでに打診されているだろうから、これはあくまでも形式的なものに過ぎない。
 取締役に就任と同時に、常務へと昇進する。
 父親が動き出したのは遅すぎるくらいなので、別段驚くこともなかった。 
 だが…。 
 「…牧野を彰の秘書にだって?」
 類自身、つくしを自分の秘書へと部署転換するつもりだった。
 今の社内の状態では針の筵なのはわかっているし、どうせ噂になっているのなら当の類の傍にいた方が守ってやれる。
 だが、父親から横やりが入った。
 名目は、『愛人』を傍に置くなど言語道断だとか言うものだったが。
 高階が望んだのか、それとも父親の策略なのか。
 どちらにせよ、今度の人事は類の母親が黙ってはいまい。
 「面倒くさ~」
 正直、うんざりだった。
 だが、つくしのことまで今の類は投げ出すことなどできはしなかった。





 「おばさま、お茶のご用意ができたそうですよ」
 にっこり微笑む笑顔が美しい。
 かつて、類とともに静が邸へと遊びに来ていた頃を彷彿とさせる。
 ただ、あの頃はまるで対のフランス人形のようだった、当の類が今はここにいない。
 邸にいる時も、ほとんど顔を合わせることなどなかったのだが。
 聞くともなしに聞いていたNHKフィル交響楽団のコンサートの中継を切ろうとリモコンに手を伸ばし、誤って違うボタンを押してしまって、テレビのチャンネルが変わる。
 「……」
 見慣れた美貌の青年の映像が映し出され、ついでここ数日世間を賑わしている親子の記者会見の模様が映し出される。
 何度となく放映されたというのに、いまだ世間は飽きてはくれていないのかと眉根を寄せた。
 即座にプツリと電源を切ってソファを立つ。
 食い入るようにテレビに見ていた娘がハッと我に返る。
 静が大輪の白バラならば、目の前の女性は白百合だと、静の大胆さとリベラルな考え方が苦手だった志保子は、女性…藤堂まり子に満足の眼差しを注ぐ。
 「大丈夫よ。必ず私があなたをあの子の妻にして見せるわ」
 あんな恥さらしで破廉恥な女など嫁にしようか。
 そして大人しそうな顔をして、婚約者を寝とるような女にも、大事な息子を渡すわけにはいかなかった。
 そんなことになったら、…きっとすべてをあの男に奪われてしまう。





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