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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて211

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 「こちらに、お茶をご用意いたしました」
 「ありがとう」
 三条家の使用人に応えて嫣然と微笑む静のたたずまいは往年の姿を彷彿とさせて、いまの簡素な姿との対比に、不思議な感慨をつくしに与える。
 たとえ洗いざらしのジーンズに、シンプルなカットソーだけの装いであっても、あくまでも彼女は凛として美しく、いやよけいな装飾を身に着けていないだけに静自身の美しさがむしろ際立ち、人の真の美しさとは家柄や虚飾のなせる業ではないと体現しているように思えた。
 「ごめんなさいね、連絡もせずに」
 「あ、いいえ。でも、あたしがこちらに寄せていただいてることを聞かれたってどなたに?」
 「あきらよ」
 「え?美作さん?」
 意外な人物の名前に、ソファに腰を下ろしながらつくしが、目を瞬かせる。
 あきらが静と幼馴染みで、気の置けない間柄なのはよくわかっていたが、それにしてもつくしはあきらに今回のことを話した覚えがない。
 そもそも、あきらには悪かったが、結婚を前提に交際を申し込まれていて、それを受けることができない以上、どう言い繕っても彼の好意に甘えるわけにはいかないと心に決めていた。
 「三条さん…桜子さんとおっしゃるのよね?こちらのお嬢さんは」
 「あ、…ええ」
 「桜子さんも牧野さんを通じて、あきらと友人だと聞いてるわ」
 「…もしかして、桜子が美作さんに?」
 ありえないことではなかったが、桜子がどこまであきらに自分のことを話しているのか知れず。
 桜子のことだから自分に内緒でつくしが知られたくないと思っていることを他人に洩らすはずがないとは思っていても、目の前の静が何を知ってここに自分に会いに来たのかと、脅かされ動悸打つ胸をソッと抑えた。
 そんなつくしの動揺をよそに、静は優雅な仕草でテーブルのカップを手に取り、温かな紅茶を一口すする。
 「…美味しい」
 「……」
 「もう少し、日本に滞在するつもりだったのだけれど、フランスの事務所で受け持っているクライアントがトラブってしまっているみたいで、明日明後日には帰らないとダメなようなの」
 「…そうだったんですか」
 そういえば、静と先日の一別以来、今日まで結局会うことが叶わなかった。
 つくしの疚しさもあっただろうが、目的があって日本に帰国した静も多忙で、中々そんな機会をもてなかったのだ。
 「いま、別れたら、もう牧野さんとこうしてお話する機会もそうそうないと思うの。だから、帰国する前に、もう一度会っておきたかったのよ」
 「静さん」
 「…類とお付き合いしているのね?」
 それは確信だった。
 知られているとは思っていても、ショックを隠せないつくしの顔を見なくても、すでに静はわかっていて、あえて問いかけているのだとつくしにも知れた。
 「…ごめんなさい、こうして不意打ちで問いかけるつもりなんてなかったのよ」
 「……あたし」
 唇を噛みしめ、俯くつくしは、自分がこの事態を予測していなかったことを改めて自覚する。
 あんな風に、静の目の前で類との相克をあらわにして、この聡明な人にバレないとでも自分は思っていたのだろうか。
 そして、知られて、自分の無様で醜い生き方を、この生き生きと誇りに満ちた人生へとチャレンジし続けている女性にどんな顔をして相対することができるというのだろうか。
 「牧野さん」
 その声は、叱咤するようなものではなかったが、そんな自分への嫌悪と羞恥に縮こまりかけていたつくしをハッと我に返らせるほどの力に満ちていた。
 「…牧野さん、私はあなたを責めるためにここへきたわけではないの。それだけはわかって欲しい」
 「静さん?」
 「むしろ…責められるべきは私の方で、恥ずべきなのも私だとわかっている」
 苦悩と、悔恨と、悲哀と…愛情と、それらすべてを含んだ複雑な女の顔。 
 かつてつくしが女神のように思い、憧れた完璧なる女性の姿はそこにはない。
 ごく普通の、人生に悩み、手探りで生きてきた一人の女がそこにいた。
 「今の類を見て…そして、その類の異常が、すべて私が原因だったと今の私にはよくわかってる。私は…その現実を見に、ここに、日本に戻ってきたのかもしれないの」





 「あの頃の私は、いろいろなことで悩んでいたわ」 
 当時を静が語りだす。
 つくしが幻想を抱いていた完璧な令嬢である静とは別の一面。
 「将来の夢、家族との関係、類のこと。…国際弁護士となって貧しい人々を支える人間になりたい、そう思う一方で、家族の反対を押し切ってまで家を出て、狭い世界しか知らず苦労をしたことがない自分がどこまでやれるのか、本当は不安だった」
 当時、つくしは17才だった。
 英徳という奇妙な世界に迷い込んだつくしにとって、その世界でもひときわ輝いていた静が、自ら土に塗れてもいばらの道へと突き進む姿は、自信に満ちてこのうえなく力強いものに思えていた。
 けれど…。
 「怖くても、時には自信を喪失してしまいそうになっても、…それでもかなえたい夢がある以上、けっして弱いところをみせられない、そう思っていたのよ」
 「…静さん」
 自嘲の笑みを浮かべ、静が再び紅茶をもう一口口に含む。
 紅茶を口に含む静の唇はわずかに震え、喉を潤すと言うよりもその温みで自分の弱い部分を他人に晒す自分への勇気へと変え、どうかすると凝ってしまいそうな自分の舌先を湿らせ、落ちつこうとしているようにも見える。
 「そんな自分に精一杯で…正直、類のことまで考えてあげられる余裕がなかったのよ」
 「……」
 あの頃のつくしにはわからなかった。
 だが、今のつくしには当時の静が少しは理解できる気がした。
 …つくしが挑戦したティーン・オブ・ジャパンの前のウィナーであるのだから、おそらく静はまだ20才前後だったはずだ。
 少女とは言えない。
 だが、女性というにはまだ未成熟で。
 今、24才のつくしですら迷うことばかりで、大人になりきれている気がしなかった。
 そんな若い女性が、自分の人生の岐路に立たされて、ただ一人戦おうと目に見えない不安へと立ち向かっている最中、自分以外の人間のことなど考えている余裕があっただろうか。
 自分が静であってさえ、そんなことができたとはとても思えなかった。
 「あの子…類に言われたわ。気紛れで傷つけて、弄んでるって。…今も昔も、私はあの子を傷つけてばかりで振り回しているのね」





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