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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて205

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 倉敷老人との会話は、つくしの心を和ませるものだった。
 立派な風采や地位にも関わらず、気さくな老人は意気消沈しがちなつくしを笑わせてくれた。
 「牧野さんは、本当によい笑顔をしているね」
 「えー?そうですか?いつまでたっても、子供っぽいのかなって自分でも思ってます」
 ちょっと憮然とした顔が、まさに少女じみていて、老人にしてみれば可愛らしく微笑ましい。
 「…私に孫がいればな、と今ほど思うことはないよ」
 「お孫さんですか?」
 何度かランチを一緒にした時に、倉敷老人は愛妻と二人暮らしで子供がいないと本人から聞いていた。
 それでも妻と愛し合う日々は彼にとっては後悔のない人生で、老人が幸せだと思っていることは疑うべくもない。
 いいな、と思う。
 こんなふうに、愛し愛される人と巡り合えて、ずっと一緒にいられたなら。
 「そう、孫息子がいれば、ぜひ牧野さんにお嫁にきてもらうんだったんだけどね」
 思わぬことを言われて、つくしの目がまん丸くなる。
 けれど、すぐに嬉しそうに笑み崩れて、クスクス笑いを洩らした。
 「ははは、すっごい光栄です!でも、…あたしみたいに取り柄もない普通の女じゃあ、会長のお孫さんにはあまりに不釣り合いすぎますよ」
 「いやいや、そんなことはないよ。家柄だ、血筋だなんだと言っても、結局のところは人となりだよ。人と人との関わりを大切にできない人間は結局のところどこででも信用されない。ダメだね」
 「……そう、ですかね」
 司とのことで、自分自身の人格などの全部を否定され、人間の価値はすべて生まれなのだと叩きのめされたつくしにとって、老人の言葉は素直に頷きにくい。
 もちろん、つくしにはつくしなりの矜持があるし、踏まれても蹴られても譲れない一線はある。
 「君は美しいよ」
 「え?」
 「いやいや、口説いてるつもりはないんだけどね」
 「…ははは」
 悪戯っぽく笑う老人の真意はともかく、もちろんそんなことは思っていない。
 「人として美しい。私みたいに長く生きていても、中々そう思える人間は少ない。特に私のような立場の人間になるとね、おもねって私に媚びて何かしらの美味い汁を吸おうという輩ばかりだ」
 「……」
 「だが、だからと言って他人を信じないと言うのはあまりに寂しすぎると思う」
 「そうですね」
 それは強く思う。
 世の中には確かに汚いことも満ちていて、そういった人間も多いのだろう。
 けれど、一歩裏側から見れば、自分もそうした社会の中の一人で、ある人にとっては薄汚く、もしかしたら憎しみの対象にもなりえる存在なのだろう。
 人は誰しも愚かしく…そして弱くて、愛しい存在なのだとふと思う。
 「…さっきも言ったけれど、悩みがあるなら言ってみなさい。私にでも力になれることがあるかもしれないし…まあ、なれないかもしれないけれどね」
 「恋の悩みはダメだったんですよね」
 「なんだね?類君のことなのかね?」
 意外に鋭い老人の問い返しに、つくしがドキッと胸を波立たせた。
 「え?い、いえ。は、花沢る、類は、その…会社の上司というだけで…その」
 「…君たちにもいろいろあるだろうね、そこは詮索しないよ」
 老人には誤解されているようだったが、つくし的にもだからと言って具体的な説明などできるわけではなかったから、それを承知の上で俯く。
 「人は一人では生きられない生き物だ」
 「…はい?」
 「どんなに強く、タフな人間に周囲に思われていても、しょせん人間なんて、一人で苦しみに耐えられるようにはできていない。そうは思わないかね?」
 「…会長」
 老人が優しく微笑む。
 「弱さを自分に認めてやれるのもまた強さなんだよ。私には言えなくても、君が信頼する誰かに相談してみるといい。きっと何か打開策が見いだせるはずだ」







 「…本当にここでいいのかね?」
 車の窓の向こうからもう一度念押ししてくる老人に、つくしが屈み込んで改めて礼を言う。
 「はいっ、ありがとうございました。あたしの住むアパートはもうすぐそこ、目と鼻の先なので」
 「そうか。では、またランチでも一緒しよう。いや、今度はディナーがいいかな。うちの家内にはまだ紹介していなかった。きっとうちのとも牧野さんは気が合うとは思うんだが、今度夕食の招待をしてもかまわないかね?」
 「嬉しいです。ぜひ」
 噂の倉敷の愛妻に紹介してもらえると聞いて、つくしの顔が輝く。
 倉敷を見ていれば妻の品性が伺え、また、こんな素敵な男性に愛される女性にも興味があった。
 世辞ではなく、また何か邪な目論見を含まない純粋な喜びを見せるつくしの反応に、倉敷は満足を持って大きく頷く。
 「では、また。私に力になれることがあったらいつでも連絡してきなさい」
 「はい、ありがとうございます」
 実際には連絡することはないだろうが、それでも老人の気遣いが嬉しい。
 懐にある倉敷の名刺が、確かな温もりとなってつくしの身の内に力を与えてくれる。
 走り去ってゆくリムジンを見送り、振り返るつくしは溜息一つ。
 アパートとは逆の方向…駅へと向かって歩きだした。





 「…牧野が?」 
 携帯からの高階の報告に、類が眉根を寄せる。
 『なんだ、知らなかったのか?お前のことだから、一人や二人お前の目や耳を社内にも紛れ込ませてると思ってたのに、片手落ちだな』
 高階の揶揄る言葉も、いまの類には腹が立たない。
 もっとも、どう嘲られようと、類にとってどうでもいいこと、どうでもいい人間はどこまでもどうでもいい存在で、何を言われたとしても腹が立つことは滅多になかった。
 「で?まさか、幹部あげて吊し上げとか、そんなバカなことしたってわけでもないんでしょ?」
 一社員のプライベートのことで、そこまで大騒ぎする愚者ばかりだと思いたくはない。
 だが…。
 『まあ、さすがに部長クラスが集まってどうのってところまでは行ってないけど、いまはいろいろと世間でも煩い時期だ。臭いものにはフタ。牧野さんはしょせんは他社からの出向だし、早々に出向元に送り返して事なきを得ようって空気があっても仕方ないことだろ?』
 そのとおりだ。
 たとえ、その当人が元会社に戻ったことで、どんなに立場が悪化しようと企業という一つの歯車の中では取るに足りないことであり、強者に位置する花沢の幹部たちが一女子社員のいくすえなど案じるはずもない。
 「お前は?」
 『…俺?』
 「お前の部下じゃない。第一、俺の目と耳…ついでに手は?と聞かれたら、お前のことだと俺は思ってたんだけど?」
 わかっていたことだが改めて平然と言われると、さしもの高階でも苦笑が禁じ得ない。
 今更それに腹を立てるほど青くもなかったが、唯々諾々と類のパシリ然と扱われるほどにはプライドが低いわけでもなかった。
 …ただ、類と同じく、自分にとって大事なもの以外のことに対しては許容範囲が広く、ありていにいえばどうでもいいだけのことだ。
 いまは類に従属しているように見えても、それもまた高階にとっては目的のための必然でしかない。
 『とりあえず、2,3日自宅待機ってことに落ちつかせておいたよ。お前もう、明日くらいには東京に戻って来るんだろ?そしたら、お前の鶴の一声でどうとでもするだろうし、無駄に右往左往して社内の指示系統を混乱させることもないかなってさ』
 「…わかってんじゃない。牧野がうちの社員じゃないってことで軽んじられてるっていうなら、社員にすればいいことでしょ?」
 こともなげに類は言い放つが、それは果たして本人の意思を確認してのことなのか。
 『フランスへの留学に関してもそうだけど、お前ちゃんと牧野さんにそれ承諾させてるわけ?』
 「ううん、まったく」
 『……』
 冷血漢を自認する高階でも、つくしが気の毒になってくる。
 「まあ、どの道、牧野にもいろいろ事情があるから、いまのところ会社を辞めさせられたり、社内での立場が悪くなるのは困ってると思うよ」
 『…そりゃそうだろ。て、いうか、誰のせいなんだか、って気が俺にはするけどな』
 「て、ことで、明後日から俺も出社するから戻ったら辞令出しとくよ」
 さりげなく高階の嫌味はスルーして、一方的に言い放つ。
 『そりゃいいけど、お前、根本忘れてるんじゃないか?』
 「根本?」
 『そ、誰が、牧野さんに嫌がらせをしているのか。彼女を窮地に陥れる目的は何なのか。お前ちゃんとわかってるわけ?』
 手元に送られてきた高階からのファックス用紙を斜め読みに眺め、バサリとゴミ箱へと投げ込む。
 横に控えている秘書に目で指示して、シュレッダーへとかけさせた。
 「まあね、心当たりはあるし。面倒臭くなって来たから、そろそろ決着のつけどきなのかもしれないな」





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~ Comment ~

類と高階の会話を聞いてたら、高階が至極真っ当に思えてしまった。
今までなら、悪役に近い感じだったのに。
鶴の一声で社員にして、留学。
つくしは、その話を受けるだろうか?
収入源のためをかんがえると、辞められないだろうけど。
妊娠してたら、難しいし。
これから倉敷会長がどうかかわってくるのか
つくしから頼らなくても、 手を差し伸べてくれそう。
総二郎も気になるし。

毎日あれもこれも更新ありがとうございます。
続きお待ちしています。

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