FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて203

 ←毎月19日はトークの日 →昏い夜を抜けて204
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「牧野です…」
 つくしが会議室のドアをノックすると、すぐに入室するようにという高階の声がかかり、頭を下げつつ部屋へと入る。
 顔を上げた途端、高階ばかりでなく、部長を頂点に、部内の課長数名が座していて、全員の視線がつくしへと集まっていることにギョッと後退った。
 …え?ど、どういうこと?
 ドア側の一番下座。
 たぶん年功序列順に並んだ一番下にあたる高階が、つくしへと自分の傍らに座るようにと目線で指示を出す。
 おそらく、つるし上げよろしく中央に位置する場所ではなく、高階の隣へと誘ってくれたのは彼なりの気遣いだったのだろう。
 つくしが座るか座らないうちに、苦虫を潰したような顔の部長が、つくしへと重々しく確認をとった。
 「…牧野君だね」
 「はい」
 「君は、なぜ、この場に呼ばれたか、わかるかね」
 わかるはずがない。
 もっとも、今朝の社内の様子から、ある程度はまったく関係ないことではないだろうという予感はある。
 「高階君、あれを」
 「はい」
 指示を受けた高階が、簡易テーブルの脇へと置いてあったA4サイズの封筒をつくしへと手渡した。
 チラッとつくしにだけ見せた高階の顔が、呆れたような皮肉を含んだものだったのは、つくしへの同情なのか、それとも嘲笑だったのか。
 おそるおそる目の前の資料へと手を伸ばし、中を確認するつくしの手が動揺に震え、顔が青ざめるのを自覚した。
 「こ、これは」
 「…本社でのみだが、各部署に匿名で送られて来ていてね。そこに写っているのは、どうやら君だということだが、間違いないかね?」
 確認を取られなくても、その場にいる誰もが、その封筒に写っている人物をつくしだと特定できただろう。
 …つくしのアパートの部屋へと張り出されていた中傷文と、それに添付されていた写真がそのままの状態でそこにあった。
 その資料だけを見れば、つくしが複数の男性と交際をし、その果てに痴情のもつれを起こして刑事事件まで発展させたと取れるものだった。
 ことまことしやかに書かれている大半は根も葉もないことだったが、その写真は偽造などではなく、写っている女性は間違いなくつくしで、同伴している写真の男性は、類、あきら、進、山崎のものであり、ところどころには無視しえない真実も含まれていたのだった。
 予想しているべきだったのかもしれない。
 だが、まさか会社にまでという気持ちもあって。
 受け止めきれない現状に、冷や汗が背を流れ落ちるのを感じながらも、つくしは二の句を継ぐことができないでいた。
 「牧野君?」
 再び、部長の声がかかる。
 二度、三度と大きく息を吐いて、つくしが絞り出すよう返事を返す。
 「…はい、私です。でも…」
 弁解しようとしたつくしの声に被さって、一同の間に失望のようなざわめきが走った。
 見回す高階の視線が、一同の動揺を抑え、その視線に応えて何とも曖昧な顔をした部長がつくしへと頷きかけた。
 困惑だろうか。
 それとも、厄介なと言ったものだったのか。
 わかっていたにしても、肯定されたはされたで、彼らにとっても厄介な問題だったのには違いなかった。
 「君にもいろいろ言い分があることだろうね。あくまでもプライベートだと言ってしまえば、そうなのかもしれない。だが、こういうこと…中傷的なものを社内に送りつけてまで、君に対する怨嗟を晴らそう、そういう悪意的なことをされるということが問題だと私は思う」
 「……」 
 そう…悪意。
 これはまごうことなき、つくしへの悪意に他ならない。
 「…それに、この写真や添付されている文章の中の真実がどうであれ、君のプライベートでのことが結果的に警察沙汰になっていると書かれている」
 …先日の山崎から受けた暴行被害について、つくしは悩んだが、結局類からも必要ないと言われて、会社へは報告をしていなかった。
 もちろん、被害者であるのだからつくしにそんな義務はない。
 だが、警察沙汰があったことも確かな事実で、ここにいる面々にはおそらくつくしが加害者であるか、被害者であるかなど関係ないのだろう。
 ただ、彼らの中にあるのは…、
 「わが社は、世界でも名だたる大企業の一端を担っている。こうした小さなこともまた、会社の名誉を損ない、ひいてはグループ全体にも影響を及ぼすことになりかねないと、憂いているんだよ」
 大げさだと…そうつくしに言うことなどできただろうか。
 花沢の社員であれば、また彼らの見解も違ったものだったかもしれない。
 だが、つくしはあくまでも外部からの出向者の身の上で。
 「すまないが、我々の間でもまだ君への処分に関してはまだ一貫して何も決まってはいない。しかし…」
 部長が黙って俯いているつくしへと決定的な何かを言おうとする前に、高階が割って入った。
 「…部長、先ほども言いましたが、処分も何も、彼女には何も非はないことだと思われますが?」
 「…また、それか。それこそ我々も先ほども言ったと思うが、こういった問題を起こすこと自体が問題なのだよ。今は君の直属の部下だ。庇いたい気持ちもわかるがね」
 「部長もおっしゃったとおり、あくまでもプライベートなことです。それに彼女から何も我々は弁明も、詳しい説明も聞いていないじゃないですか」
 庇ってくれる高階の言葉はありがたかったが、他のメンツの顔にはすでにつくしへの同情はない。
 ただ自分たちへの飛び火を恐れて保身へと走る者たちの怯懦が見えるだけだ。
 ふいにつくしは気が付いた。
 これはことの真偽を見定めるために開かれた会合なのではない、と。
 つくしの罪をすでに欠席裁判で決めつけていて、それを勧告するためだけのものなのだと。
 「…処分というのは、依頼退職を求められるということでしょうか?」
 さっきまで黙り込んでいたつくしが口を挟んだことに、部長は驚いたような顔をした。
 おそらく、とるにたらない女子社員など、幹部たちの鶴の一声で震えあがり唯々諾々と従うしかないだろうくらいの認識しかなかったに違いない。
 つくしの声はわずかに震えていたが、感情的になることもなく、あくまでも冷静だった。
 「まあ、そこまではさすがにね。第一、君はうちの社員ではない。…最悪、君を出向させているフレッシュラインへ戻ってもらう、というくらいのことかな?」
 不名誉な形での帰社であれば、それこそ自社でのつくしの立場は悪いものになる。
 当初、栄転扱いだった出向も、逆に都落ち…窓際に追いやられることも覚悟しなければならなかった。
 だが。
 「…もし、今回の件で私の責任が問われるにしても、それこそ部長がおっしゃっられたように私個人のプライベートのことです。それを理由に我が社への責任を問うようなことだけはなさらないでください」
 ざわっとした男たちの空気には、生意気なというようなものが含まれている。
 部長にしても、逆に要求されるとは思っていなかったことがありありで、複雑な顔だった。
 「それは…ね。いまのところ、君個人のことで、それほど大きな問題になっているわけではないしね。勘違いしてもらいたくないのだが、我々としては何も臭いものには蓋的に、安易に君を切り捨ててすませようというわけではないのだからね」
 苦渋の決断になるだろう。
 そこは理解してくれ、などと。
 客観的に見て、安易以外の何物でもなかったが、つくしはあえてそれを指摘しなかった。
 自分の不甲斐無さや愚挙のせいで会社にまで迷惑をかけたくない。
 こんな理由で会社に戻されては針の筵…結局退職せざる得ないかもしれなかったが、自分ゆえに他人に迷惑をかけることだけはしたくなかった。
 「…わかりました。会社からの裁可が下りるまで、私はどうしたらいいでしょうか?」
 花沢物産を去るにしても、引継ぎなどの手続きが必要だった。
 「とりあえず、そうだね」
 そこでひそひそと周囲へと、部長が合議を図る。
 皆の意見が一致する前に、高階が再び口を挟んだ。
 「社内に出回っていたこれらの文章はすでに回収済みだから、牧野君は安心していい。すぐに緘口令は引いたんだが、何人かの人間が目にして、口の端に上ってしまったようだ。たぶん、君も気づいたことだろうが、あまり雰囲気がいいとは言えない。…とりあえず、そうだな、2,3日有給をとって、それからまた通常業務に戻ってもらいたい」
 「…君」
 「部長、彼女には直接的な非はないんですよ」
 高階の強い言葉に、部長も口を紡ぐしかない。
 『…お坊ちゃんの縁故が、偉そうに』
 部長ではなかったが、小さな囁きがつくしの耳にも届いたくらいだから、おそらく高階にも聞こえたことだろう。
 だが、高階の顔色はまったく変わらず、何事もなかったかのようにつくしへと頷きかけた。
 「その後のことは、また後だ。…どの道、このまま突き進むことはないだろう。状況は変わるよ」





◇交流・意見交換 『こ茶子の部屋』へ
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2





関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【毎月19日はトークの日】へ
  • 【昏い夜を抜けて204】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【毎月19日はトークの日】へ
  • 【昏い夜を抜けて204】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク