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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて200

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 気が付いたら走り出していた。
 『牧野様が、エントランスのところに…』
 何も考えずこうして体が動く…そんな衝動を司が覚えたのは何年ぶりのことだったのか。
 いや、いつも彼がそうして我を忘れるのはただ一人の女ゆえにだけだ。
 誰も何も、彼にとって重要じゃなかった。
 生きていることさえどうでもよかった。
 ただ一人、牧野つくしだけがその例外で。
 「副社長!」
 エントランスで一同が降りてくるのを待機してたSPの一人が、息を荒がせ殺到してくる司を驚いて呼び止める。
 「…ま、牧野」
 「は?」
 「…いや、いまここを俺と同年代くらいの女が通らなかったか?小柄な女だ」
 司のいう特徴にあてはまる女性はあまりにもありきたりすぎて、突然問いかけられたSPを混乱させる。
 「え、あっと…その」
 その様子で、自分の求める答えを持っていないことを司は悟り、チッと舌打ちして、エントランスの自動ドアを半ばこじ開けるようにして外へ出る。
 「はあ、はあ、はあ」
 耳から聞こえる荒い息が、自分のものであることさえも気が付かずに、ただ無心にただ一つの姿だけを探して、周囲を見渡す。
 「……っ!?」
 それは6年ぶりに見た後姿だった。
 肩先より少し長いくらいの真っ直ぐな黒髪、小柄な肢体、抱きしめれば壊れてしまいそうに華奢なのに、その心に秘めたパワーは司など及びもつかぬほどに強くって。
 弾けるような屈託のない笑顔が、ずっと司の心の奥底の暗闇を照らし続けてくれた。
 牧野。
 牧野っ。
 「牧野ぉっ」
 いつの間にか、口から零れ落ちていたその名前に、頭の中にグワンと熱い何かが沸き起こる。
 あそこにいるのは、ずっと忘れられなかった女で。
 夜ごとの夢の中、何度恋い焦がれ…雨の日の記憶に苦しめられてきたことか。
 つくしの前で停車したタクシーの後部座席へと屈み込む彼女へと、司は走り渾身の叫びをあげる。
 「牧野ぉぉぉぉっ!!!」





 …今日は素敵な日だった。
 ここに来るまではずっと迷いが心を塞ぎ、あの懐かしいタマに会うことさえ怖ろしかった。
 タマの話したいということが、司に繋がる誰かに会うということが、つくしを過去に引き戻し自分の罪を再び突き付けた。
 けれど、
 『司坊ちゃんのことも、あんたのせいじゃない』
ずっと罪悪感を持って生きてきた。
 あの時の選択を今も後悔するつもりにはなれない。
 自分の為に他の誰かを犠牲にしても貫く気持ちなんて、あの時の自分にはありえないことだった。
 それでも…もっと、なにか他に方法があったんじゃないか。
 あるいは、結果、司と別れることになったのだとしても、あんな風に伝えて、彼を傷つけることなんてなかったんじゃないかと、何度となく思い苦しんだ。
 司に忘れていて欲しい。
 こんな自分を憎んでいて欲しいと思いながら、彼に幸せに笑っていてくれと祈っていることですら、そんな卑怯で残酷だった自分への免罪符なのではないかと、何度雑誌やテレビの中の彼へと懺悔したことか。
 ごめん…だなんて、そんなこと言えない。
 それでも、苦しくて、哀しくて、申し訳なくて、誰かを愛することにさえ臆病になって、そして結局、また同じことを繰り返した…山崎に対して。
 どうしてこんなに自分は進歩がないのだろうと、かつて見守り優しくしてくれたタマにさえ合わす顔がなかったのだ。
 それなのに、すべてはつくし一人のせいなんかじゃない。
 そう思うことは傲慢なことだと言って、つくしを心配していたのだとタマは言ってくれた。
 『幸せにおなり。あんたが愛して、あんたを愛してくれる誰かと』
 そう言ってくれたタマの言葉に、なにかが洗い落とされたかのような静かな開眼がつくしの心を満たし、新たな彼女へと生まれ変わらせてくれた。
 強くなりたい。
 改めてそう思う。
 もう二度と、自分ゆえに誰かを傷つけるようなことにはけっしてなりたくないと。
 願うだけでなく、強い自分を生きるのだ。
 「…ああ、ホント、今日っていい天気」
 通り道、迷子になっている患者の男の子を病室へと送り届け、結局病棟へと戻って二度手間になってしまったけれど、つくしの心は晴れやかだった。
 もうここを訪れた時のような憂鬱はつくしの心にはない。
 ただ、こんな天気のいい日に、乗り物ばかり乗っているのが残念で、目の前のタクシーに乗り込みながらそっと腹を撫でる。
 この先、何が起こることになろうとも。
 本当に妊娠しているのだとしても、そうでないのにしても、真っ直ぐ前だけを見て生きようと改めて誓いながら、運転手へと行先を告げる。
 「…駅までお願いします」
 記憶の中の司の声が彼女を引き留めた気がしたけれど、もう彼女は振り返らなかった。
 もう過去は振り返らない。





 「…はあ、はあ、牧野っ!」
 走り去ったタクシーを見送りながら、地べたへと崩れ落ちる。
 久しぶりの全力疾走に、デスクワークでなまった体が悲鳴を上げていた。
 …あれは確かにつくしだった。
 いや、つくしを知っているSPの斎藤が言うのだから間違いないだろう。
 艶やかな黒髪も、いくつになっても童顔な横顔も、すべて大人になって美しくなってはいたが、司の記憶の中のつくしそのままだった。
 「…副社長、追いますか?」
 追いついたSPが司の視線の先を共に見やって、尋ねかける。
 「……いや、いい」
 今追ったからといって、どうだというのだ。
 どのみちここは日本で、つくしと出会った東京は目と鼻の先なのだ。
 おそらく、タマに会いに来たのだろう。
 それなのにタマはそのことを司に告げなかった。
 どういう意図だったのかはともかく、司が会おうと思えば会えるところにつくしはいるのだ。
 いまさらだった。
 今更、彼女に会ってどうする?
 以前にあきらに言ったように、ただ彼女がどうしているのか知りたい…ただそれだけだったはずなのに、彼女の存在を知っただけで走り出してしまった。
 …そうか。
 そう思う。
 今日はいつもと違う気がして、妙に世界が色づいて美しいように感じた。
 「…くくくっ」
 知らず知らずうちに思わず笑いが洩れる。
 それはけっして良いものではなかったが、だが昏いものでもなく、ただただおかしかった。
 会いたい…。
 ただ知りたいだなんて、本当は嘘だ。
 そんな自分の心の奥底の真実の欲望に気が付き、自分の偽善がおかしくって笑えてしまう。
 「お前に会いてぇ。会いてぇんだ、牧野」
 真の望みが口をついて呟き、ひとしきり笑って司は立ち上がる。
 「……帰るぞ」
 「副社長?」
 「みんな、呼び集めろ。やることやって、さっさと予定を消化しなきゃな。そうでなけりゃ、いつまでもやりたいこともやれやしれねぇ」





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NoTitle

遂に200話になりましたね。
でも夏までかかるのなら、まだまだですね。
結局二人はニアミスで終わっちゃいましたね。
でも司がつくしに会いたいという本当の気持ちに気付いた。
病院に入っただけで、つくしを心の奥底で、五感で感じる司は、やっぱり凄い。

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