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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて198

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 「え?あ…」
 予想もしていなかった問いかけに、つくしの思考が固まる。
 けれど、そんな彼女の様子にぷっと噴出し、タマが「バンッ」と老婆に似つかぬ力でつくしの背中を叩いた。
 「あっ、痛ったあぁ~」
 く~と身をよじるつくしの様子がまたおかしいと、ケラケラ笑うタマの顔は、今言った言葉に対して何も否定的な感情を含んではいなかった。
 「少しは落ち着きな。まったく、見かけはずいぶん大人の女になったと思ったのに」
 「…それは先輩が」
 「琴美に聞いてるんだよ。今あんたが花沢の坊ちゃんのとこにいるってね」
 「……」
 当然、聞いていないはずがない。
 つくしも宇川から、タマの様子を伺い、つくしのことを「話してしまった」と聞いているのだから。
 だが、いざそれを突き付けられると、つくしにはなんと言っていいのか、言うべき言葉が見つからない。
 「…琴美に言われて来てくれたんだろ?」
 「宇川さんからは?」
 「特に詳しいことは聞いちゃいないよ。花沢の坊ちゃんのところに紹介したあの子が、たまたま坊ちゃんといるあんたを見かけて…一緒に住んでるようだと聞いただけさね」
 「……」
 「何辛気臭い顔してんだよ。あんたにしては上出来じゃないか」
 「…上出来ですか?」
 「ああ。あたしの好みじゃないけど、花沢の坊ちゃんと言ったら、女の憧れの的ってやつじゃないのかい?」
 もちろん、タマが冗談を言っていることはわかる。
 司を幼い頃から面倒見てきたタマにしてみれば、その司の幼馴染みの友人たちもまた、孫のような存在でしかないに違いない。
 そして、つくしのこともまた、通り一遍の玉の輿を望んでいる女だとは思っていないはずだ。
 「…あの子もね、うちの坊ちゃんに負けず劣らず、難しい子だとは思うけど、あんたなら安心だよ」
 「…そんなんじゃないんです」
 なら、どんなだというのだろうか。
 また一人、ここにも本当のことを言うことができない大切な人がいて、自分に恥じずにいることは難しい。
 「あんたはいつも真面目すぎるんだよ」
 つくしの屈託をどう思っているのか、タマが真剣な顔で言いきる。
 「真面目…ですか?」
 「そう、坊ちゃんのことにしても、親御さんのことにしても、全部自分で背負って、自分の首を絞めている」
 「…それは」
 「いいんだよ、もっと楽に生きて」
 「タマさん」
 慈愛の眼差しを注いでくれるタマの優しさの理由がわからなくて、ただ呟くことしかできない。
 どうして、そんなに優しいのか。
 どうして、こんな自分をそんな目で見てくれるのか。
 まるですべてを知っていて、許してくれるような老婆の眼差しが温かくて…痛い。
 「司坊ちゃんのことも、あんたのせいじゃない」
 「……」
 「あんたはきっと自分のせいだとずっと責めていただろうけど、これもめぐり合わせってやつなんだよ」
 「…めぐり合わせ」
 「そう、あの子はあんたに出逢って人を愛することを知って、またそれが叶わない悲しみも知った。人間としての当たり前の感情ってやつを学んだんだ」
 そんなたいそうなものじゃない。
 自分はそんな人ひとりの人生を変えてしまうほどの人間なんかじゃない。
 そうは思うのに、タマの真剣な目から目を離せず、遠く、記憶の奥底に沈んでいた日々を思う。
 不思議に…いつも思い出せば瞼の裏に浮かぶ、司の虚ろな目ではなくって。
 彼の傷ついた顔ではなく、つくしといた時の楽しそうな年相応の少年の彼の顔が思い浮かび、涙がこみ上げる。
 「あの子と、あんたが一緒になってくれれば、とあたしも望んだことがあった。その気持ちは今も完全にないとは言えないけど、それも、あんたが好きに選んでいいことなんだよ」
 「……」
 「あんたが、あの子を選ばなくてあの子がどうなっていようとも、それはあの子の責任で、けっしてあんたの責任なんかじゃない」
 「…でも」
 でも…。
 思わず口をついてでた否定の言葉を、タマは首を振って否定する。
 「人はね、自分のことは自分で責任をもつものなんだ。誰のせいだ、自分のせいじゃないと言ったところで、自分からは誰も逃れられない。そして、どんな人間も他人のことなんて本当の意味ではどうかしてやることはできないんだよ。それをできると思ってるなら、それは傲慢だ。だから、あんたはもっと自由におなり?自分の幸せを考えなよ。あたしは、ずっとあんたに言いたかった。あの時守ってやれなかったあんたの心を、せめて軽いものにしてやりたいとずっと思っていたよ」
 「タマさん!」
 「幸せにおなり。…あんたの愛する誰かと」
 つくしの堪えていた涙が零れ、泣きたくはないのに、こみ上げる嗚咽にそれ以上の言葉を遮られてしまう。

 「あんたが幸せにならなきゃ、何のためにあの時あんたたちは涙を流したんだい?もう過去のことは忘れてもいい頃だ。あんたが愛して、あんたを愛してくれる、大切な誰かと一緒に生きるんだよ。それが花沢の坊ちゃんだといのなら、あんたはもう迷うのはおやめ」
 「…っ」
 違うんです。
 類は違う。
 けれど、今自分が誰を好きなのか。
 この身の内に宿っている命があるとするのなら、その命を守りたい理由がなんのか、もう知らないふりはできなかった。 
 タマの優しい手に背中を撫でられ、ずっと胸の内に巣食っていた司の泣き顔が、いまこそ…遠く遠く、薄れてゆくような気がした。
 …笑ってよ、道明寺。
 あんたも笑っていて。





 ひとしきり泣いて涙を拭うと、そろそろ帰らないと不動産屋との待ち合わせの時間に間に合わないことに気が付いた。
 「…また、来ておくれ」
 「はい、ぜひ」
 「でも、あたしもそろそろ病院生活は飽き飽きだから、今度は家の方へおいで」
 「はいっ!一日でも早く元気になってください」
 邸を退職後、姪の家で書道の手習いをしているというタマの雄姿をぜひとも見たい。
 「…あの子もね」
 「はい?」
 司のことかと思ったのだが。
 「花沢の坊ちゃんも司坊ちゃんとはまた別の意味で、家庭的に恵まれていない子だったからね」
 「……」
 「親が不器用だと子も不幸だ」
 「……」
 「あの子の母親もあの子を愛していないわけじゃなかったんだろうけど、自分の中の不幸で精いっぱいだったんだろうね」
 つくしが知りえなかった類の背景。
 長年道明寺家の使用人頭として勤めていて、上流社会の裏表も見てきた女性だ。
 類のことも何か知っているのだろうか。
 「あんたが優しくしておやり」
 「……」
 「あんたなら、そのままのあんたで、あの子の心も救い上げてやれるだろうよ」
 「…あたしは」
 「さっき言ったことに矛盾してしまうけど、でもあんたを見ていると、ついそう思ってしまうよね」





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~ Comment ~

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ええー

うーん・・・そうか?
タマは、綺麗事を語って、つくしの心を軽くしただけと感じるのが・・・。
たとえ短い間であっても親しく付き合っていたにも拘わらず、突然切り捨てるような一方的に振る行為は、相手を傷つけたことにはかわりないよ。
結局振るならもっと早く決断するべきだし、別れを告げる機会なら過去にも何度もあったはず。
それができずに付き合っていたというのは、つくしにも責任あるだろ。
それを責任ないよ。振られた方が悪いのさってどうなの?
そもそも苦しい過去から立ち直った司がそれを語るならまだいいけど、
つくしと付き合っていた恋人は、タマではない。影で見守ってただけ。
司のことはもうほっといて良いから、過去に色々ある類の方に気にかけな。
と、受け取ってしまうのは私だけだろうか・・・。

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