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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて197

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 「つくし…」
 タマのつくしを呼ぶ声に、明るく挨拶を返そうと思っていのに、言葉が詰まる。
 強く優しい眼差しも、かくしゃくとした様子も変わりはないのに、病の為か、タマの姿はやはり昔に比べて一回りも二回りも小さくなってなって見えた。
 「…何辛気臭い顔してんだよ。そんなところに突っ立ってないで、早くお入り」
 言われて頭を下げながら、タマのすぐそばに立つ。
 「おやおや、あんたの孫かい?いつも来る姪っ子さんはまだ結婚してないんだろ?」
 「…孫みたいなものさね。さあさ、あんたは確かこの後、検査なんだろ?さっさと言っておいでな」
 追い払うような邪険な仕草で、たった今まで話し込んでいたタマと同じくらいの年頃の老婆を追い払う。
 「まったく、ご挨拶だね。自分から、イイ男だろって自分の亭主の写真見せて来てさ」
 「ふん。あんただって惚気まくっただろ?お返しだよ。ほら、行った行った」
 「…あの、すいません」
 つくしのせいではなかったが、それでもつくしが訪問した故だとわかったので、思わず頭を下げる。
 「いいんだよ、この人はいつもこんな感じなんだから。でも、おかげで退屈しない入院生活だったさ。もう一人は医者に呼ばれて診察に行ってるし、もう一ベッドはいま空だから、遠慮しないでいなさいよ」
 「ありがとうございます」
 優しく微笑んで、去ってゆく老婆にもう一度頭を下げる。
 しばし、そのまま沈黙しあい、ついにつくしが口を開こうとした先制を制してタマが口火を切った。
 「久しぶりだねぇ。あんたもずいぶん女らしくなって」
 「…本当に不義理してまして、すいません。タマさんにはあれほど良くしていただいていたというのに」
 ずっと、思い出すことさえ拒んでいた。
 タマを思い出せば、道明寺邸での日々を思い出さずにはいられず、やがては司へと思いは至る。
 苦しい思い出ばかりではなかった。
 タマと過ごした日々、出会ったことは、いまでも大切な思い出の一つであるというのに。
 「…いいんだよ、それより、ちょっと散歩しないかい?」
 「え?でも…」
 タマの腕から伸びた点滴を見て、躊躇する。
 「大丈夫。もうほとんど体の方はいいんだ。年寄なのと、一緒に暮らしてる姪が昼間は働いてるから、大事をとっての入院なんだよ」
 「…そうなんですか」
 「ほら、行くよ。あんたも暇じゃないんだろ?今なら外来も終わって下は閑散としてるだろうから、込み入った話をするにはちょうどいい」
 「はい」
 そうはいっても、病み上がりのタマを気遣い、傍に置いてあったカーディガンを手に取り、タマの背中に着せかける。
 「…ありがとうよ」
 微笑む老婆のしわ一杯の顔が慈愛に満ちて優しい。
 孫みたいなものだと言ってた彼女の愛情が温かくて、ありがたくて、つくしの心に深く染み入る。





 「あれから、何年だろうね」
 タマの言った通り、外来の終わった各診療科の待合室は閑散としていて。
 その中でも、タマが選んだ脳外科の待合、病院内の最奥は人っ子一人いなかった。
 「…6年になります」
 「そうかい。あんたはあれからどうしてたんだい?」
 もうそんなになるのだろうか。
 改めて口にすると、そんなにも長い年月がたっていたのだという感慨に驚いてしまう。
 「両親が住んでいた漁村にしばらく住んで、地元の高校を卒業しました。その後、いろいろあって、東京に出てきて、短大からとずっとこちらです。就職も東京で」
 「そうかい。せっかく通っていた英徳だったのにね。辞めることになって、あんたもさぞ悔しかっただろう?」
 どうだろうか。
 元々、性に合っていなかった学校だ。
 それでも母親の見栄と、家族の期待を背負って通い続けていた。
 司とのことがあって逃げ出すように去った学園だったが、いまでもそれを懐かしいと思うことはまったくなかった。
 ただ、英徳を思い出す時、引き攣れるような痛みを同時に思い起こす。
 すべては司に通じて、司に終わる。
 自分はどれだけ司に囚われていたんだと、自嘲の笑みが零れた。
 それでも、そう自覚し、自分を振り返ることができるようになっただけ、自分は成長したのだろうか。
 かつての自分は司に繋がるもの、繋がる人、すべてを拒んで、彼を完全に思いきり、忘れたフリをしていた。
 自分の心の傷を認めなければ、克服することなどできない。 
 そうとなれば、こうしてタマに会うことを決意した一歩こそが、真実過去を過去のものにできる兆しだとも言えるのだろう。
 「…タマさんは、道明寺のお邸を辞されたとか」
 「ああ、そうだね。あんたをあんな形で追い出すことになって…なんだかね、空しくなったというか」
 「先輩…」
 「あ、勘違いしちゃいけないよ。あんたのせいだって言ってるんじゃない。ただ、自分の無力やさまざまなことがね。もういい年寄りだ、潮時だと思ったのもあるかもしれないねぇ」
 しみじみという言葉には、タマのいうとおりつくしへの非難は含まれてはいない。
 それでも、タマといえば道明寺邸が思い浮かぶつくしにしてみれば、あの場所にいないタマにはひどく違和感と遣る瀬無さを感じた。
 「…離れもいただいていたし、先代から伊豆に別荘も譲られてたからね。仕事は退いても残ることはできたんだけどね」
 「ええ」
 「あんたがお邸を去った後、すぐに坊ちゃんもNYへと旅立って、あのお邸は本当に誰もいなくなっちまった。…空っぽになっちまったんだよ」
 「……」
 不思議に、タマもまた、あえて司の状態を語ろうとしていない気がした。
 タマに会えば、司の消息を聞かないわけにはいかず、司の友人たちが口をそろえて言い募る司の心の荒廃をタマからも聞かされることになるだろうことを覚悟していた。
 それなのに、タマは一通りのその後の道明寺邸の人々を語るだけで、司のことだけに言及しなかった。
 「で、椿お嬢様も、時々は顔をだしてくれてね」
 「お姉さん…お姉さんにとっても先輩は大事な人ですものね」
 「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいね、あたしごときがおこがましいとは思うけど、あの方もあたしにとっては孫みたいなものだからね」
 「…わかりますよ」
 タマがつくしを見て、少しだけ切なげ顔をした。
 「先輩?」
 「…いや、あんたもお嬢様とは姉妹みたいな感じで、本当の姉妹になってればね、とか。年寄の繰り言だよ」
 「……」
 触れそうで触れない、そんな会話が続き、つくしが意を決する。
 「…あの話したいことって」
 「あんた、花沢の坊ちゃんと暮らしてるんだって?」





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