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「陽のあたる処でシリーズ(短編集)」
家族編

02月23日は財布の日(後編)

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 金魚すくいの屋台の前で真っ青になるあたし。
 一方、当の本人はいたって平然、のほほ~んとしていて信じられない。
 「おい、何焦ってんだよ、つくし」
 「アホッ!焦らないでどうすんのよっ!」
 こいつのカードなんていったら、金額無制限ブラックカードというやつで、財布に入っている現金だって、マトモな金額のはずがない!
 「まさか、スられたんじゃないでしょうね」
 「そりゃねぇよ、この俺様からスろうとする命知らずがいるわけねぇだろ」
 そりゃそうか。
 正体なんて知らなくったって、こいつのオーラは只者じゃない。
 鋭い一睨み、殺気でも浴びた日にはスリの方が寿命を縮ませる。
 あ~、でも、落としたなんて!
 なんてマヌケなの。
 しかも、この余裕。
 本当の本当はこいつって、やっぱりバカじゃないのかと、あたしは心配になった。
 「お母さん、イライラしないで」
 「…尊」
 幼い息子にまで心配されて…ってあたしじゃないだろう!?
 「ちょっと、司!」
 「…だから平気だって。お前が心配してるのはカードの方なんだろうけど、普通の奴が使おうとしたって、俺のカードなんて使えるはずがねぇだろ?」
 「…まあ、そりゃあね、ブラックカードなんて並の人間が使おうとしたら怪しいもいいところだとは思うけど」
 そうは言っても、現金だってきっと何十万単位だ。
 と、
 「あーっ!」
 素っ頓狂な声が背後からかけらて、後ろを振り向くと、尊より少し年上っぽい男の子が、走り寄ってきた。
 「財布!さっき、財布落としたおじさんっ!」
 「……」
 「……」
 司を顔を見合わせていると、その子が肩から掛けたショルダーバックを探って、中から取り出した分厚い財布を差し出した。
 見覚えのある黒皮の財布に、
 「…あ、お父さんのお財布だ」
 尊が反応して、男の子の手からお財布を受け取った。
 「俺のじゃねぇよ」
 「は?」
 何言っちゃってんの? 
 「お父さんのお財布だよ」
 尊まで怪訝そうに司を見上げた。
 「俺んじゃねぇって言ってんだろ?」
 「えー、絶対おじさんのだよ!僕見てたもん。さっき、焼きそば買った時に、1万円札出して、おつりいらないって言ってたよね?」
 よく覚えてるなと感心していたら、
 「おじさんずいぶん大きい人なのに、横にいるそこの奥さんにその時思いっきり頭叩かれてて、痛そうだなって思ったから、僕、憶えてるもん」
 「……」
 「……」
 気のせいか、司の視線がとっても痛い。
 それはともかく、
 「ありがとう、僕、とっても助かったよ」
 御礼を言おうとしたら、尊の手から財布を取り上げた司が、改めて男の子に財布を押し付けていた。
 「…え?」
 「司?」
 尊までもキョトンと司を見つめている。
 「俺のじゃねぇって言っただろ?」
 そんなはずはない、どう見ても司の財布だよ。
 「…だって、司」
 「四の五の言うんじゃねぇ。確かに俺は財布を落とした。けど、落としたものはもう俺のじゃねぇんだよ」
 「…はあ?」
 何を言い出す、この男。
 「もう、それは拾ったお前のもんだから、持って帰れ」
 「…え?そ、そんな困るよ、僕」
 びっくりした顔をした男の子が、手の中の財布と司の顔を交互に眺めて困惑している。
 そりゃそうだ。
 どこの世間に、「一度落としたものは自分の物じゃない、お前のものだ」とかいうバカがいるって言うのよっ!
 …ここにいたか、世紀のバカが。
 呆れた顔をしたのは、あたしだけじゃなくって、ジッと司の顔を見ている尊も同様に見えるのは気のせいなのか?
 それでも、バカにした感じなんかじゃなくって(いや、幼児にその表現は間違いか)。
 バカはバカなりに可愛いと思ってるって言うか、なんなの、その慈愛に満ちた眼差しは…。
 時々、この子が空恐ろしいっていうか、おいおいって言いたくなっちゃう時がある。
 作る表情の一つ一つが妙に大人びていて、小生意気なんだよね。
 実際、かなり出来のイイ子みたいで英才教育の先生たちが大絶賛だ。
 まだ、幼稚舎にも入っていない子だから、先々のことはわからないけど。
 「いいから、持って帰れ」
 「…無理だよ、このお財布は僕のじゃないもん」
 司に凄まれて、半泣きになりながらも耐える男の子も大したものだ。
 どうしたもんだか…これ、どうしよう。
 普通にあたしがとりなしたって、司のことだから、素直に引き下がらないだろうし、さすがにうん十万円も入っている財布をいくらお礼だからって、こんな小さな子供においそれとあげるのは間違ってるよ。
 「…ねえ、お母さん」
 一歩も引かない司と男の子を見守っていると、傍らの尊がつぶらな目であたしを見上げていた。
 「僕、おばあちゃんにもらったお年玉持ってくるの忘れちゃったから、お金貸してくれる?」
 「え?いくら?」
 確か、お義母さん、尊に50万くらい渡してたよね…。
 さすがにそれは私がなんとか死守して、1万円だけ残して貯金させたけど、それだってこの年の子供には多すぎるくらいだ。
 まあ、尊も今までそれで得にダダをこねるような子じゃなかったけれど。
 「とりあえず、100円でいいかな。お父さんのお財布の小銭300円入ってるんだよね?」
 「…たぶん?」
 小銭なんて普段はもってるような男じゃない。
 さっき焼きそばを二つ買った時に、やむなく1万円札を崩してたから、たぶんきっかり300円入っているだろう。
 それだって、あたしが殴って止めなければ、釣りはいらないとか言って置いてきちゃっただろうし。
 どこの世間に、350円の焼きそば二つ買って、1万円の残り全部あげてきちゃうアホがいるって言うのよ!ってこのセリフ、もう司と知り合ってから何度言ったかな…あたし。
 「とにかく、後は知らねぇから、その財布は好きにしろ」
 「…そんな、どうしよう」
 半泣きの男の子の背中を尊がツンと突っついた。
 「え?」
 「ねえねえ、お兄ちゃん、金魚すくいやろうよ」
 「「は?」」
 戸惑うあたしたちと、男の子をよそに、尊があたしへと100円を寄越せと手を伸ばしてくる。
 とりあえず、言われるままに100円玉を尊の手の上に落とした。
 「お兄ちゃんも、僕にお父さんの財布を渡してくれる?」
 「う、うん」
 尊より大きな子なのに、尊に呑まれて唯々諾々と従っている。
 尊は財布の小銭入れの部分から300円を取り出した。
 「良かった、きっかり300円だ。お母さん、後はお母さんが預かって?」
 「…わかった」
 「おい、尊。それはもう俺のもんじゃねぇって言ってんだろ?」
 「そうだね、だからお母さんに渡しておいたよ。とりあえず、ちょっと変則的だとは思うけど仕方ないか」
 …変則的ってあんた、なにげにお父さんより難しい言葉使ってない?
 わけがわからず凝視する大人や男の子を無視して、尊は小さな手を差し出した。
 「手を出して、お父さんとおにいちゃん」
 「…え?あ、…うん」
 「なんだよ、尊」
 ぶつぶつ言いながらも、つい司まで指示通り動いてしまっている。
 「じゃ、これ僕の100円ね。それでこっちにあるのがお父さんの小銭入れに入っていた300円だよ」
 そう言ったかと思うと、その100円と300円を混ぜて、司と男の子の手の上にそれぞれ200円づつ落とす。
 「…は?」
 「え?」
 「……」
 思わず怪訝に尊を凝視する一堂に、尊がにっこりと微笑んだ。
 「お父さんは…まあ、大きいお金とかカードみたいなのはおいておいて…300円落として200円帰ってきたから、差し引き100円の損。で、おにいちゃんもお父さんの言う通りもらってたら300円もらえてたのに200円しかもらえなかったから100円の損だよね?」
 あっ!
 閃いた。
 って、まさか、本当?
 「で、僕も本当はあげる必要なんかないのに、僕のお小遣いから100円出したから100円の損」
 その途端、成り行きを見守っていた金魚すくいのおじさんがポンと両手を打ち合わせた。
 「なるほど!三方一両損ってやつだな!」
 尊がニッコリと微笑んだ。
 「…散歩、一路損?」
 「……」
 司のボケはほって置いて、いつの間にかあたしたちを取り囲んで見ていた人たちからヤンヤの拍手喝さいが沸き起こる。
 「って、ことで、200円で二回金魚すくいができるよね?」
 「おお!坊やのとんちにはまいったよ!まさかその年で大岡越前とはな!」
 「お父さんの200円は僕にくれるよね?」
 「…あ、ああ」
 まだ戸惑ったような司が手の中の200円を尊の掌へと落とし込む。
 200円を手にしたまま棒立ちになっていた男の子の手をひいて、尊が喜び勇んで金魚すくいの水槽へと屈み込んだ。
 「…司、一本取られちゃったね」
 「散歩してどうしようって言うんだ?」
 「……」
 まだ首をひねっている司に引き攣り笑って、あたしも尊の手元を覗き込む。
 「よし!おじさんも一両損だ!坊やたち二人に一回づつ金魚すくいオマケするよ」
 「…おじさん、それじゃあ200円損するから、一両損じゃなくなっちゃうよ」




注)このお話は、『三方一両損』という落語から題材をお借りしています。と、いうかまんまでごめんなさい^^;名奉行・大岡越前の名裁きの一つで、有名なお話なので興味がある方は検索してみてください^^





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