FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて195

 ←昏い夜を抜けて194 →何度でも…I love you 20
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 つくしの会社からの帰宅を待って、久しぶりにマンションに訪れた道明寺邸での同僚・宇川琴美は、つくしの顔を見た途端深く深く頭を下げた。
 花沢家のメイドとしてではなく、一個人として訪れた宇川。
 つくしが中へと通そうとするのをガンとして拒み、戸惑う彼女に宇川は謝罪した。
 「もうしわけありません、牧野様」
 「…宇川さん?」
 「私…牧野様との約束を破ってしまいました」
 約束…目を瞬かせるつくしに対し、頭を深く下げたまま拳を握り込む宇川は本当につくしに対して自責の念を感じているらしかった。
 「あの、顔をあげてください。何をそんなに気が咎めてらっしゃるのか…」
 「…話してしまったんです」
 「…え?」
 つくしの言葉を遮る宇川の言いたいことが、とっさに頭に浮かばない。
 「タマさん、先日から風邪をこじらせて…肺炎になられて」
 衝撃を受ける。
 「年齢が年齢ですから、重症化して入院されたんです」
 「そ…んな、タマさんが」
 ありえない話ではなかった。
 先日も、静から聞いたばかりだった。
 タマの体調が思わしくなく…司もそれを心配して一時帰国する予定であるのだと。
 あの時、再来週の始めと言っていたから…もう週を明ければすぐだ。
 ちょうど類が出張から帰ってくる頃とも重なるから、彼が会う予定があるというのは司のことかもしれない。
 「命には別状なかったんですが、…すっかり気を落とされて」
 「そうですか」
 「ポツリ、ポツリと牧野さまに、死ぬ前にもう一度お会いしたいと気弱なことを口にするようになられたんです」
 「……」
 そんなに遠い昔のことではないというのに、妙に懐かしくあの頃のことを思い起こす。
 いつも何かに追い立てられるような恐怖も感じていたが、精一杯生きていた。
 バイトに明け暮れ、同級生たちの白眼視に耐えて、それでも輝くような恋をしていたと自分に胸を張れる。
 ホンの短い時間だったのに。
 大っ嫌いだった司を好きになり、彼を本当に愛し始めていたのだと気が付いたのが、彼との別離を決意した時だなんて。
 「タマさんには、私、本当によくしてもらって。今、こうして生きてられるのも、タマさんのおかげなんです」
 「宇川さん」
 タマは、そういう人だった。
 彼女もまた、多くの哀しみと苦しみを背負い、それでも強く生きた女性で。
 厳しい中でも、本当の優しさを知っている女性だった。
 あの小柄な体の中に、どうしてこれだけの優しさと強さを持ち続けていられるのかと、尊敬と憧れを抱いていた。
 …お祖母ちゃんみたいだった。
 そう言ったら、きっとあの元気な老女は
 『年寄扱いするんじゃないよ!』
そう言って、つくしをあの杖で小突き回すのだろう。
 けれど、本当につくしにとっては祖母にも等しい存在で。
 宇川にとっても、同じくらいに大切な人なのだと、その顔をみれば察することができた。
 「本当に、本当にすいません。あれほどお約束したのに」
 申し訳なく項垂れる宇川の両手をとって、つくしは首を振った。
 どうして、宇川を責めることなどできるというのか。
 義理を欠いて、非礼を働き続けているのはつくしの方だというのに。
 「いいんです…ただ、申し訳ない、それだけのことでしたから。あれだけタマさんに良くしていただいたのに、何も返せないばかりかずっとご挨拶にも伺えないままで…」
 「…牧野様」
 「タマさん、病気の予後はどうなんですか?」
 「順調に回復はされているそうですが、大事をとって、完治するまではもうしばらく入院されるそうです」
 「…そうですか」
 良かった、そう思うにつけ、よけいに懐かしさがこみ上げる。
 責めないつくしの様子に、一人宇川が頷き、決意した眼差しをつくしへと向ける。
 「牧野様」
 「はい?」
 「…先日は、ダメだと伺いましたが、失礼だと承知でもう一度だけ、お願いさせてください」
 「……」
 「お願いです、タマさんと会ってさしあげてください。タマさんはずっと牧野様にお会いになって、お話したいことがあるとおっしゃってました。それをお話するまでは死んでも死にきれないと」
 タマの話がなんであるか、予想もつかず、よもやあの時のことを責められるのではと恐れる気持ちもないではなかった。
 …そんなことあるわけないのに、あたしったら。
 タマはそんな人間ではない。
 つくしのあの時の遣る瀬無い気持ちも、そして司の哀しみもすべてを見ていて、許してくれていた人なのだから。
 そうと思えば、なおさらにタマに会いたい気持ちがつくしの中でも積もってゆく。
 司は来週には日本に帰国する。
 …逆に言えば、来週までは絶対に偶然にも司に出くわすことなどありえないのだ。
 「わかりました。…長年、会いに来もしないでひどいじゃないかって、怒られるのを覚悟でお訪ねしてみます」
 「牧野さま!」
 下げていた頭を上げ、パッと宇川の顔が輝く。
 「久しぶりに、先輩に叱られてみたくなりました」
 「…きっと、タマさん、先輩は牧野さまを叱ったりはなさいませんよ。良く会いに来てくれたと、喜んでくださるに決まっています」
 もちろん、つくしにもそれはわかっていた。
 そして、そうと心を決めれば、このうえなくあの優しい老婆に会いたかった。
 「宇川さんもありがとうございます」
 「牧野様…」
 「長く勇気が出ずに、不義理ばかりなあたしの背中を押してくださったこと、本当に感謝しています」
 「…そんな、私なんて」
 照れくさそうな宇川を今度こそ、半ば強引に居間へと通す。
 今日の宇川は花沢家の使用人として訪れたわけではないのだから、なおさらつくしの客としてもてなしたかった。





 「副社長、今週末予定されていた大河原との合同レセプションですが」
 「別段、首振り人形の片割れがいなくても、あの女一人いりゃなんとかなるだろ?」
 「…しかし、予定を繰り上げての渡日は、各所に影響もありますし」
 「それをなんとかするのが、お前ら秘書の役目だろうよ」
 手に持っていた書類すべての決裁を後ろから付き従う第二秘書に口頭で指示をだし、スケジュールを管理している第一秘書へは無表情の一瞥で黙らせた。 
 「とにかく、予定通り来週渡日じゃあ、その後すぐにドバイでの交渉で大してゆっくりもできねぇ。なんだかんだで駆け足になるから、これは譲れねぇな」
 「…ですが、社長がなんとおっしゃるか」
 楓の名前を出してまで食い下がる秘書に、司の逆鱗が触れた。
 「てめぇは誰の秘書だ」
 「……っ!?」
 「ああっ!?誰の秘書だと聞いてんだよっ!?」 
 司の恫喝に秘書の顔色が一瞬で真っ青に変わる。
 「…わ、私は副社長にお仕えしております」
 「わかってんなら、何度も同じこと言わせんじゃねぇ。俺は役立たずに並んで、分をわきまえねぇバカは嫌いなんだよ」
 瞬時に怒りをひっこめ、ニヤリと笑う司の目は爛々と獰猛に輝いていて、喉笛に噛み付く寸前の肉食獣の危険を秘書に思わせる。
 司は有言実行の人間だ。
 無闇なこけおどしや、実行のない脅しなど行わない。
 やると言ったらやるのだし、いらないというのなら、どんなに会社的に有益な人間であろうと簡単に首を据え変えるだろう。
 それを今まで誰よりも間近で見てきた人間である彼は、よく知っている。
 それをしてなお、会社を発展させるだけの力とカリスマを司は持っていた。
 そこにはかつて、親の七光りの無能な御曹司と呼ばれた若造の面影はない。
 確かな実力と、地位を持って、今の司は道明寺財閥にとってなくてはならない次代の指導者だった。
 「会わなきゃなんねぇ人間がいる。俺にとっては大河原とのレセプションだの、誰にでもできるくだらねぇ仕事なんかよりよっぽど重要なことなんだよ。俺を上手く働かせてぇなら、よけいな御託は控えるんだな」
 自家用ジェットのタラップに片足を乗せ、司は遠く青い空をふり仰いだ。





◇交流・意見交換 『こ茶子の部屋』へ
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2







関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【昏い夜を抜けて194】へ
  • 【何度でも…I love you 20】へ

~ Comment ~

NoTitle

いよいよ司とつくしが逢っちゃうんですね?
タマさんのところで・・・。
もうドキドキです。
司が、類が、あきらが、総二郎がどう動くのか?

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

つくしについて

原作でも桜子、カナダ、順平etcひどい目に遭ってるのに復讐しないのは、なぜこのような事をするか相手を理解してその状況を受け入れるキャパがあるからに思えます。自分が傷ついても。NYで楓の交渉を助けた時も、魔女でさえも必死で生きてるって言ってますよね。社会人になると勧善懲悪の方が珍しいリアルで、ここのつくしはそれでも自分なりの原則に則って動いてるのでは。山崎を訴えない、気がないのに気を持たせない(あきらに)、人に迷惑はかけないから類に虐められてもF3に泣きつかないetc..原作の面影があると思う私のような読者もいるということで。。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【昏い夜を抜けて194】へ
  • 【何度でも…I love you 20】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク