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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて194

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 表向き、つくしの生活に平穏が戻ってきた。
 だが、平穏だというのは、類との表面上の関係だけで、一歩外に出れば逆に無風ではないのは明らかで。
 類と一緒にマンションに帰ったその日…二人には静の前であきらかになった事柄に対する何の会話もなかった。
 もちろん、その後、類と静がどのように会い、付き合っているかなどつくしが尋ねることもない。
 まるで水の中から外の世界にいる類を見上げているかのように、あるいは外の世界から水の中にいる類を見下ろしているかのように、幾重にも形のない壁に阻まれ、類の心の奥底はつくしには見極め難かったし、見たくもなかった。
 なんのために、自分はこの閉ざされた囲いの中に戻ってきたのだろう。
 愛とか恋とかそんな甘やかなものではないのは確かだ。
 いつものように日常を再開したつくしと類の間には、一時期あった柔らかな空気さえもいまは間遠かった。
 少なくても、あの日から3日たった今日まで、類は毎日マンションには戻って来る。
 だが、食事を共にすることはなかったし、もちろんベッドに引きずり込まれることもない。
 そして類もまた、なんのために律儀にマンションに戻って来るのだろうか。
 つくしには類の思惑がまったくわからなかった。
 「…ただいま」
 自室で寝支度をしていたつくしの部屋の入り口で、ノックもなく類が佇んでいた。
 大柄な男のくせに、不思議に類の動きは敏捷で、猫のように気配を感じさせないことが多い。
 最初のうちは、それに驚きもしたが、いまのつくしには何の感慨もなく。
 「…お帰りなさい」
 俯いて、そう返すのが精いっぱいだった。
 「きゃんきゃん、きゃん」
 足元の仔犬のベベが、そんなつくしに代わるように類の足元にまとわりついて、尻尾を振りまくる。
 人間たちの思惑がどうであろうと、小さな生き物の愛情は変わることなく、無心にその好意を表し、懸命に慕う。
 そんな時、類の表情もわずかに和らぎ、そっと撫でる仕草が優しいと思うのは、つくしの気のせいではないのだろう。
 ここのところ、そのやり取りだけで、類も黙って部屋を立ち去るのが定石だったのに、今日だけはそれが違った。
 「…明日から、出張に行ってくる」
 「そう」
 類が海外、国内問わず、出張に行くことなど珍しいことではない。
 そしてそれをいままで一々、つくしに告げたことはない。
 なのに…。
 「…その間、俺がいないからって、あんたはどこにも行かないで」
 「は?」
 どこに行くと言うのか。
 今まで言われたことのない言葉に、気まずさも忘れて、類の顔を仰ぎ見る。
 類の表情に別段変化はなかった。
 いつものように涼しい顔で、淡々としている。
 だが、どこか言葉じりに懇願があるように思えたのは、つくしの気のせいだったのか、それともなにかの予兆だったのか。
 「…どこに行くって言うのよ。それとも、好きにしていいわけ?」
 「だから、どこにも行くなって言ってるじゃない。大人しく会社とここと往復してなよ」
 正直、そこまで束縛されたくない。
 ここに住んでいることさえ、本来なら不本意なことなのだ。
 それでも、いままで一々外泊を咎められることなどなかったから、窮屈さを感じてはいなかったのだが、類の不在時まで束縛されるというのか?
 つくしの憮然とした気持ちを類も察しているのだろう。
 語調を和らげる。
 「…強制じゃないよ。ただ、あんたは危なっかしいから、俺の不在になんかあると対処できないでしょ?」
 「何があるって言うのよ。意味わからない。特に行くところもあるわけじゃないから、あえて逆らうつもりはないけど、強制じゃないなら約束はしない」
 「…いいよ」
 言葉の通り、あっさりと引く。
 不審げなつくしに類は緩く首を振り、片手を振って退出の意を示す。 
 「…あ」
 思わず声をあげたつくしに、意外にも類が反応して、
 「なに?」
 ジッとつくしの顔を見つめた。
 相変らずビー玉みたいに綺麗な目。
 間近に見ていなくったって、容易に想像できる。
 その目の美しさだけは変わらないのに、どうしてここまで自分たちの関係は変わってしまったのだろうか。
 あの時の…初恋に胸をときめかせていた無垢な少女の日の自分であれば、こんな関係であったとしても類の傍にいれることを喜んだだろうか。
 そう自問して、自嘲とともに瞬時に否定する。
 …喜ぶはずがない。
 かつてのつくしの類への気持ちは、このうえなく純粋だった。
 その想いが大切すぎて、綺麗すぎて、類を自分のものにしたいと思うことすらできなかったほどに。
 「なに?牧野?」
 黙り込んでしまったつくしに、類が再度問いかける。
 まるで、なにか他の言葉を引き出したいと、少しでも会話を長引かせたいと願っているかのように。
 …やだな。
 そう思う。
 何も類に期待していないと自分に言い聞かせながら、類の言葉を待っている。
 そんな自分の愚劣さが、嫌で嫌で仕方がない。
 「…なんでもない」
 「そう」
 何か言いかけて、だが結局類もまた、何も言わずに背を向ける。
 「い、いつ!いつ帰るの?」
 「…」
 「その…出張、いつ戻るの?」
 類が小さく微笑んだ気がしたのはきっと気のせいで、本当な何も変化などないに違いないのに、なぜかつくしの胸がわずかに温もった。
 「1週間。来週の半ばには帰るよ」
 「そう、か。今回は短いんだね」
 「……東京で人に会う約束があるからね」
 柔らかく緩んだ空気が、一瞬だけ堅く強張った。
 けれど、本当にそれは一瞬のことだけで。
 「今、牧野も仕事忙しいんでしょ?」
 「…うん」
 「ゆっくり休みな。おやすみ」
 ひそやかな声音に、つくしも素直に返す。
 「おやすみなさい」
 水の中の類が、少しだけ顔を覗かせた気がした。
 一週間…その期間は短いのか長いのか。
 類が出張から帰った時、自分たちの関係はなにか変わることがあるのだろうか?
 わずかな期待のようなものが胸に生まれていることに、つくしは自嘲する。
 何を期待するのか。
 どうしたいというのか。
 何も望まぬといいつつ、自分の欲の深さに、つくしは呆れ果てる。
 愛されたいわけじゃない。
 優しくされたいわけじゃない。
 そう思いつつ、どこかで小さく願い続けることをやめられない自分の愚かしさが憤ろしく、そして哀れだった。





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~ Comment ~

う~ん、日常に戻ったといっても、お互いにオブラートに包まれたような生活。
話したいけどできない。
そんな感じがあるのかな?
つくしは、まだ妊娠の確認をしてないけど、どうするつもりなのか、気になります。

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NoTitle

類はサイコパスもどきの性格異常だと思いながら読んでいます。もどきというのは本物の性格異常ではなくあくまでも環境に起因している。もし、本物なら「悪の聖典の主人公 蓮実聖司」のように一目置かれる人間として生活しているはず。でも長いこと、他人に心を許さなかった男が静に裏切られ?世界に失望した。そんな時つくしに再開して静のように美しくもなく平凡なつくしに惹かれたのは、類の心の底に欠片のように張りついている魂もしくは良心がつくしを離さないのだと思う。それを確信したのが、高階では?高階が以前、あんたなら類を変えられると言ってましたね。高階の目にはつくしが単なる若い女ではなく、彼女に菩薩を見たのでしょう。今度は女にだらしない総二郎がつくしと接触することでどのように変わっていくのか楽しみです。


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