「中・短編」
秘密の司君…22話完
何度でも…I love you 13
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次の日の早朝。
面会時間になるや否や、タマが訪ねてきた。
前日の司とつくしの婚約パーティは主役不在のまま、単なる司の誕生パーティとして開催された。
事件は伏せられていたものの、ホストの司は体調不良ということで、椿がその代理を務め、陰ながらF3や滋らがサポートした。
そして、遅れて到着した楓が卒なく閉会させ、外部には一切詳しい事情は悟らせぬまま、無事事なきを得たらしい。
「…本当に、坊ちゃんは困ったお人だよ」
眠っている司を横目に、タマが大きく溜息をつく。
「でも、道明寺も好きでこんなことになったわけじゃありませんし…」
つくしとしても、言いたいことはいろいろだったが、人に言われてしまえば庇わずにはいられなかった。
そんな彼女の心情を見透かして、タマがふふふと小さく含み笑う。
つくしが首を傾げるのに、首を振って、あれやこれやと司の入院用具を運び込んだ荷物の中から整理しだした。
「あ、手伝います」
「そうかい?あんたのも持ってきたから、そっちから先にやっておしまいよ」
「はい、すいません」
一人っきりでは重かった気持ちも、こうして頼れるタマの存在に、ホッと心が和む。
なんだかんだ言って、気が張っていたのだろう。
昨日はあまり眠られなかった。
司が眠ったのを見届け、隣に用意された付き添い用の部屋のベッドに横になったのだが、何度も悪夢を見ては目を覚まし、ついには眠ること自体を諦めて、結局司のベッドの脇で夜を明かしてしまった。
「あんたも苦労するね」
「…まあ、こういう男ですし」
「それもそうだけど、それ以上に、いろいろあるからさ。さすがに嫌気がさしたかい?」
そうじゃないとわかっているくせに、問いかけるタマの憐れむ眼差しが痛くて、優しくて、涙が滲みそうになる。
「…平気です。あたしは雑草ですもん。これくらいじゃあ、へこたれたりしません。今は我慢しますけど、元のこいつに戻ったら、心配ばかりさせてって、殴ってやりますし」
「はは、そりゃいいね。好きなだけ、お灸をすえておやり」
そんな容易く記憶が戻るとも思えない状況なのに、タマに同意してもらうだけで気持ちが軽くなる。
「しかし、坊ちゃん、本当に子供に戻っちゃってるのかい?」
「…ええ、本人も違和感感じてたみたいで、一応は一通り説明したんですけど」
たぶん、ほとんど理解されなかった。
…そりゃそうだろう。
子供でなくっても、記憶にもないのに、あなたは実はあなたが記憶しているよりずっと年を取っていて、周囲も当然成長したり、年老いたり。
そんなことを急に言われて理解できるはずもなく。
当然、司も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして(司だったら鳩がマメ食ったとか言いそうだが)、ポカンとしていた。
そして、何度説明しても、
『…言ってる意味がわからない』
まったく拒絶しているというわけでもないのだろうが、ついには再び背中を向けて、うんともすんとも言わなくなってしまった。
「…坊ちゃん、私のこともわからなくなってるのかねぇ」
「あ、それは…」
椿のことがわからなかった。
そして、幼い頃からの親友である類や、あきら、総二郎のことも。
「しわも増えたし、腰も曲がってすっかりおばあさんになってしまって。あたしも20年前とはだいぶかわってしまったからねぇ」
「先輩」
司の頭を撫でながら、涙ぐむタマが切なかった。
「そういえば、あんた、説明したって、今のこの状態、いったいどういう風に坊ちゃんに言ったんだい?」
「…えっと、どう言っていいのかわからなかったので、とりあえず事実だけ。道明寺が今25才で、昨日、階段から転げ落ちて頭を打ったせいで、大人になっているってことを忘れてるんだよ、て伝えました」
「まあ、そこらへんが妥当だろうねぇ。じゃあ、階段から落ちた理由も話さなかったのかい?」
「…ええ」
どこまで話したらいいのか迷った…事件のこともその一つで。
昨日の司の話の中で、どうやら司の記憶は、ある一つの事件を以降に途切れていることがわかったのだ。
それは…。
「えっと、道明寺、子供の頃、誘拐されたことがあるんですか?」
「ん?坊ちゃんから聞いてたのかい?」
特にタマもつくしには隠すつもりはないのだろう、聞けばあっさりと答えてくれた。
「えーまあ、中学生の時のことはずっと以前に聞いてましたけど。小さな頃のことは、聞いてたっていうより、昨日、聞きました」
「ああ。じゃあ、今の坊ちゃんは、誘拐された時より後の坊ちゃんなんだね」
「…みたいです。道明寺の話だと、当時の運転手さんに誘拐されて、その時に殴られた頭をぶつけた時があるみたいで」
その話に、タマの顔が一気に暗くなった。
「タマさん?」
「山岡だね」
「…ええ、そう言ってました」
タマが司の顔を見やり、そっと息を吐く。
そして、幼い頃からそうしていたのだろう。
そっと、その額を撫で髪を梳いてやる。
その仕草が、幼い頃からのタマと司の関係を彷彿とさせ、やはり使用人と主人というよりも睦まじい祖母と孫のような交流を感じさせた。
「山岡はね、当時、坊ちゃんがずいぶん懐いてた運転手だったんだよ。子供好きだったのか、我儘な坊ちゃんにもよく付き合っててね。何人かいる運転手の中でも、特に山岡を指定して幼稚舎の送り迎えや、お出かけに使ってたよ」
「…そうですか」
司の話でも、特に彼に信頼されていたらしく、SPや他の使用人同行でなく、山岡だけで外出することも多かったらしい。
実際、山岡は実直な男で長年仕えていて、事件を起こすまで道明寺家自体の信頼も厚い男だった。
それが裏目に出た。
「…ことが誘拐だからね。山岡も家族にいろいろあって追いつめられていたらしい。大した怪我じゃなかったけど、親にも叩かれたことがなかった坊ちゃんが、大の男に怪我するような暴力を奮われて相当ショックだったみたいだよ」
「そうですよね」
怖くないはずがない。
無力な子供が、命の危機を覚えて、それをショックに感じないはずがないのだ。
「しかも、よく懐いていた山岡だったからね。素人の犯罪だ、幸いすぐに警察に保護されてね。無事に帰ってきたものの、しばらく大人を怖がって、その後も、ずいぶん警戒心の強い子になっちまった」
「…そうだったんですか」
司は基本的に今でも警戒心が強い。
気を許せば、情愛も深い男だったが、身内とそれ以外の人間を明確に分けていて、おそらく司が信用しているのは、姉の椿と、タマ、幼馴染みの親友たち3人とつくしくらいなものだろう。
滋や桜子たちにも最近では気を許しているようだが、究極的には、つくし以外の人間を切り捨てることもできるような気配を感じることもある。
たぶん、何も感じないわけではないだろうが、白と黒をしっかり切り分けて考える男だ。
必要とあれば、つくし以外の人間を排除することも辞さないだろう。
…ただし、以前の司であれば、で。
現在の司の場合はわからない。
幼い頃そのままに、椿やタマ、幼馴染みの親友たちがすべてで、新参者のつくしに対しては拒絶感さえ持っている。
「…ん」
小さな声に、話し込んでいたつくしとタマが司を振り返る。
目をこすり擦り、半身を起こした司が大きく伸びをして、ベッド脇の女二人を振り返った。
「あ!タマッ!?」
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「…本当に、坊ちゃんは困ったお人だよ」
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つくしとしても、言いたいことはいろいろだったが、人に言われてしまえば庇わずにはいられなかった。
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つくしが首を傾げるのに、首を振って、あれやこれやと司の入院用具を運び込んだ荷物の中から整理しだした。
「あ、手伝います」
「そうかい?あんたのも持ってきたから、そっちから先にやっておしまいよ」
「はい、すいません」
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「…まあ、こういう男ですし」
「それもそうだけど、それ以上に、いろいろあるからさ。さすがに嫌気がさしたかい?」
そうじゃないとわかっているくせに、問いかけるタマの憐れむ眼差しが痛くて、優しくて、涙が滲みそうになる。
「…平気です。あたしは雑草ですもん。これくらいじゃあ、へこたれたりしません。今は我慢しますけど、元のこいつに戻ったら、心配ばかりさせてって、殴ってやりますし」
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そんな容易く記憶が戻るとも思えない状況なのに、タマに同意してもらうだけで気持ちが軽くなる。
「しかし、坊ちゃん、本当に子供に戻っちゃってるのかい?」
「…ええ、本人も違和感感じてたみたいで、一応は一通り説明したんですけど」
たぶん、ほとんど理解されなかった。
…そりゃそうだろう。
子供でなくっても、記憶にもないのに、あなたは実はあなたが記憶しているよりずっと年を取っていて、周囲も当然成長したり、年老いたり。
そんなことを急に言われて理解できるはずもなく。
当然、司も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして(司だったら鳩がマメ食ったとか言いそうだが)、ポカンとしていた。
そして、何度説明しても、
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まったく拒絶しているというわけでもないのだろうが、ついには再び背中を向けて、うんともすんとも言わなくなってしまった。
「…坊ちゃん、私のこともわからなくなってるのかねぇ」
「あ、それは…」
椿のことがわからなかった。
そして、幼い頃からの親友である類や、あきら、総二郎のことも。
「しわも増えたし、腰も曲がってすっかりおばあさんになってしまって。あたしも20年前とはだいぶかわってしまったからねぇ」
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司の頭を撫でながら、涙ぐむタマが切なかった。
「そういえば、あんた、説明したって、今のこの状態、いったいどういう風に坊ちゃんに言ったんだい?」
「…えっと、どう言っていいのかわからなかったので、とりあえず事実だけ。道明寺が今25才で、昨日、階段から転げ落ちて頭を打ったせいで、大人になっているってことを忘れてるんだよ、て伝えました」
「まあ、そこらへんが妥当だろうねぇ。じゃあ、階段から落ちた理由も話さなかったのかい?」
「…ええ」
どこまで話したらいいのか迷った…事件のこともその一つで。
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それは…。
「えっと、道明寺、子供の頃、誘拐されたことがあるんですか?」
「ん?坊ちゃんから聞いてたのかい?」
特にタマもつくしには隠すつもりはないのだろう、聞けばあっさりと答えてくれた。
「えーまあ、中学生の時のことはずっと以前に聞いてましたけど。小さな頃のことは、聞いてたっていうより、昨日、聞きました」
「ああ。じゃあ、今の坊ちゃんは、誘拐された時より後の坊ちゃんなんだね」
「…みたいです。道明寺の話だと、当時の運転手さんに誘拐されて、その時に殴られた頭をぶつけた時があるみたいで」
その話に、タマの顔が一気に暗くなった。
「タマさん?」
「山岡だね」
「…ええ、そう言ってました」
タマが司の顔を見やり、そっと息を吐く。
そして、幼い頃からそうしていたのだろう。
そっと、その額を撫で髪を梳いてやる。
その仕草が、幼い頃からのタマと司の関係を彷彿とさせ、やはり使用人と主人というよりも睦まじい祖母と孫のような交流を感じさせた。
「山岡はね、当時、坊ちゃんがずいぶん懐いてた運転手だったんだよ。子供好きだったのか、我儘な坊ちゃんにもよく付き合っててね。何人かいる運転手の中でも、特に山岡を指定して幼稚舎の送り迎えや、お出かけに使ってたよ」
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実際、山岡は実直な男で長年仕えていて、事件を起こすまで道明寺家自体の信頼も厚い男だった。
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「…ことが誘拐だからね。山岡も家族にいろいろあって追いつめられていたらしい。大した怪我じゃなかったけど、親にも叩かれたことがなかった坊ちゃんが、大の男に怪我するような暴力を奮われて相当ショックだったみたいだよ」
「そうですよね」
怖くないはずがない。
無力な子供が、命の危機を覚えて、それをショックに感じないはずがないのだ。
「しかも、よく懐いていた山岡だったからね。素人の犯罪だ、幸いすぐに警察に保護されてね。無事に帰ってきたものの、しばらく大人を怖がって、その後も、ずいぶん警戒心の強い子になっちまった」
「…そうだったんですか」
司は基本的に今でも警戒心が強い。
気を許せば、情愛も深い男だったが、身内とそれ以外の人間を明確に分けていて、おそらく司が信用しているのは、姉の椿と、タマ、幼馴染みの親友たち3人とつくしくらいなものだろう。
滋や桜子たちにも最近では気を許しているようだが、究極的には、つくし以外の人間を切り捨てることもできるような気配を感じることもある。
たぶん、何も感じないわけではないだろうが、白と黒をしっかり切り分けて考える男だ。
必要とあれば、つくし以外の人間を排除することも辞さないだろう。
…ただし、以前の司であれば、で。
現在の司の場合はわからない。
幼い頃そのままに、椿やタマ、幼馴染みの親友たちがすべてで、新参者のつくしに対しては拒絶感さえ持っている。
「…ん」
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