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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走②

昏い夜を抜けて187

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 沈黙が二人の間に落ちた。
 けれど、静にしても類の顔はますます表情がわかりづらく、彼女でさえたじろぐほどの虚ろな冷たさを纏う。
 「別に…」
 「え?」
 「どうするつもりもないさ」
 その声は淡々としていて、静でさえも類の気持ちがつくしにあるとは思い難かった。
 それでも、長年彼を見てきた静のカンが、類にとってのつくしが何でもない存在などではないと告げる。
 ましてや、淡白な反応しか見せない類が、そうして表情を覆ってしまうことこそが答えなのだと思えてならない。
 「それで?それで静は俺に何を求めてるわけ?俺に別の女をあてがって、鬱陶しい俺を追い払いたいってわけ?」
 「…あなたのことを鬱陶しいなんて思ったことはないわ」
 「そう?まあ、確かに俺が離れようとすると、こういう風に絶妙なタイミングでいつも戻ってくるよね」
 「……」
 さしもの静もなんとも言えず、答えに詰まって口籠る。
 お綺麗な静。
 いつでも美しくて正しくて、強い女。
 そんな彼女がいつも誇らしかったのに、無性にムカついて、傷つけてやりたくなる時がある。
 こんな風に。
 俺がこうなったのはあんたのせいだと、すべてを彼女一人のせいにして。
 「以前、言ったよね?俺のことに静は関係ない。思わせぶりなことはやめな、って。昔からあんたはそうだよ。家を出ても、優しいご令嬢そのままに、イイ子ちゃんの顔で俺を振り回す。…あの女も、そう」
 「…あの女って、牧野さんのことを言ってるの?」
 「さんざん振り回されて、司もバカだよね。俺を見てて、何か思うところなかったのかな、あいつ」
 吐き捨てる言葉が、真実を含んでいるだけによけいに毒を帯びる。
 司を見ていると、昔の自分を見ているようで、やりきれないイラつきに彼を見ていることさえ苦痛な時期があった。
 バカじゃない。
 たかが女一人に身を持ち崩すなんて。
 誰かを信じて縋り付いて、みっともないって思わないわけ?
 面と向かって言い放ったこともある。
 あの司が殴りもせずに、虚ろな眼差しで、自嘲する姿が堪らなかった。
 司は類だった。
 表に現れるものは違ったけれど、類と司は表裏一体で。
 女を愛する時さえもが、同じように愛して、同じように捨てられた。
 本当に愚かしくて笑ってしまう。
 「…なぜ、牧野さんに近づいたの?あなたは何をしたくて、彼女に…」
 「今度は牧野の心配?」
 「類…」
 「遊びだよ。単なる独身時代の息抜きかな。女なんて自分勝手な生き物だし、俺みたいな男と遊ぶのも、一つのステータスだって喜んでくれるじゃない?」
 「ふざけるのは辞めて」
 「なんで?」
 「牧野さんはそういう人じゃないわ。それをあなたは、よく知っているはずでしょ?」
 静の嫌悪さえもが今は心地いい。
 いままで目下に見ていた類が、自分の思惑とは違う生き物だったと気が付いてくれるのがこの上なく嬉しかった。 
 「ホント、静は変わらないね。あまりに変わらなすぎて、反吐が出そうだ。でもあんたには、牧野より張り付いた偽善者の顔が馴染んじゃってるから、そうそう剥がせそうもないし、あいつなら多少はなんとかなりそうかなってさ」
 偽悪的であることに酔っていた。
 静に嫌悪されたかった。 
 いつまでもいい子ちゃんで、仔犬のようにまとわりつくだけの男だと見下げられるのに飽き飽きしていた。
 ただ…静に思い知らせてやりたかっただけなのに。
 静の視線が類を通り抜け、その背後へと驚愕の表情を向けているのに、背中に震えが立ち上ってくる。
 「…花沢類」
 湿った…そして怒りと哀しみ、さまざまな感情を含んだ震え声が背後からかけられる。 
 その声が怖くて、傷ついたその顔を見るのが怖くて、振り向くのが怖い。
 知らず知らずのうちにゴクリと唾を飲みこみ、類はことさらゆっくりと背後へと顔を向けた。
 「…牧野」
 青ざめたつくしの顔は類の予想に反して、泣いてはいなかった。
 けれど、静かな哀しみと諦観がそこにはあった。
 怒っていてくれた方がまだいい。
 憤って憎しみの視線を浴びせかけられた方が、まだ類は良かったと、つくしの傷ついた顔を直視することができなかった。
 「…あたしが憎かったの?」
 …再会したばかりの頃、類に憎まれている気がする時が度々あった。
 彼女が何かをしたとか、類の気に障ることをしてしまったとかそういう時でなく、つくしには理解しがたい理由で憎まれている気がした。
 そしてその答えが…。
 「あたしが道明寺を捨てたから、その復讐だったの?親友のあんたは、その仕返しをあたしにしているつもりだったの?」
 そうじゃないと叫んで、嘘だと言って、彼女に縋り付きたいのに、類のプライドはそんな自分を許容したくなかった。
 それも、静の前で。
 さんざん彼を惨めに踏みつけた女の前で。
 同じ愚を再び犯した、見下げはてた男だと嘲笑われることが我慢できなかった。
 「あんたたちは本当にそっくりだ。牧野も静もさ。都合が良い間だけ夢を見せて、いらなくなったらこっちの気持ちなんて考えもせずにポイ。あんたのこと、俺にとっても特別だって思ったこともあるけど、結局あんたも同じだよ。あんたも女なんだもんな」
 バシッ。
 小走りに歩み寄ってきたつくしが、類の頬を張る。
 女の力での平手なんて、しょせん類には大したものではなかったけれど、それでもその頬の痛みが耐え難いほどの苦痛な気がした。
 つくしの心の痛み。
 類に傷つけられ、泣いている心の痛みそのもののように。
 「…憎むなら、せめてあたしが原因で憎みなさいよ。言い訳して、他の誰かへの憎しみをあたしに転嫁しないでっ!」





 気が付いたらどこをどう歩いていたのか。
 類の声が制止していたようにも思ったけれど、それは静の声で、類が彼女を引き留めようとするはずがなかったのだ。
 変だと思っていた。
 なぜ、類は自分を憎むのだろう。
 どうして、自分の地位を顧みず、たかがつくしごときを囲うために、レイプや脅迫などという犯罪行為に手を染めてるのだろうと謎に思っていた。
 だが、その謎が解けた。
 類はつくしを憎んでなどいなかった。
 その肉体を奪い玩具にしたように、つくしの心さえも無視してないがしろにしていた。
 類が憎んでいたのはつくしではなかったのだ。
 司を捨てたつくしを見て、類は自分と静を重ねていたのだろう。
 つくしを見ていなかった。
 静を憎んで、つくしの向こうに見える彼女をただ傷つけたかっただけなのだと、思い知らされた。
 憎しみさえも、つくしへは抱いてくれず。
 目の前にいて、その目に映らないと言うのなら、ここにいる自分はいったい何だと言うのだろう。
 花沢類…。
 花沢類…。
 泣き噎せぶつくしの心に浮かぶ男の顔は、高校生の時に垣間見た雲間から覗いた陽の光のように明るく優しい…少年の日の彼の笑顔だった。





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