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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて183

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 「牧野さん?」
 ハッと我に返る。
 それでも、静の声がどこか遠くに聞こえる気がして、つくしは曖昧に首を振った。
 「大丈夫?顔色が悪いわ」
 「…あ、いえ、平気です。ちょっと、ここのところ風邪気味だったから」
 何週間も前から、同じ言い訳で切り抜けていた。
 だが、それで納得する男たちとは異なり、静の目はどこか探るようだった。
 かといって、それをズバリとついてくる桜子とは、静の性格が異なる。
 それでも何事か感じ取ったのだろう。
 何も聞かず、何も問いかけずに、ただ、思わぬことを教えてくれた。
 「タマさんの体調が良くないようなのよ」
 「え?」
 「ああ、ごめんなさい。牧野さんは知らないわよね。司のおうちの使用人頭を長年勤めてらっしゃる方でね」
 「あ、いえ、すいません。タマさんなら、知ってます。その、静さんが渡仏された後、一時期、道明寺の家で働いたこともあるので」
 「そうなの?」
 「はい。その、タマさん、どこかお体が?」
 先日、偶然再会した昔の使用人仲間のことが思い出された。
 「ん…そうね。どこがどう悪いと言うより、もうタマさんも高齢だから」
 7年前つくしが道明寺邸で働いていた時も、かなりの年齢のはずだった。
 「たぶん、今回の帰国は仕事のことがメインだとは思うけど、そのことも含まれてると思うの」
 「…そうですね」
 「それまでも機会はあったみたいだけど、あの子、日本だけは出張も避けていたみたいで、たぶんもう7年くらい日本に帰っていなかったんじゃないかしら」
 「……」
 避けていたのかどうかは本人に聞いてみなければわからない。
 それでも、その原因に思い当たるつくしは、胸がギュッと締め付けられるような痛みを感じた。
 「類に会ってみる?」
 「えっ!?」
 唐突な提案に、思わず飛び上がる。
 見返した静の顔はどこまでも優しく、何の含みも含まれてはいなかった。
 「類を通じれば、司にも会えると思うわよ」
 「……」
 「時々司の方から連絡くれるとはいえ、私も今はしがない弁護士にすぎないから、司は敷居が高い相手なの」
 どうやら、自分が間に立てないことを静が気に病んでくれているらしいことを理解した。
 「あ、いえ、大丈夫です。静さんでさえ敷居が高いなら、あたしだと異世界の人みたいなものですよ」
 「あら、そんな、牧野さん」
 「いえ、本当に。一時期…その友達っぽく…一緒にいたりしたこともありましたけど、それは学生時代の…ことで。あくまでもあの頃は子供だったというか、立場とかあまり深く考えてなかったから、かなって」
 つい語尾が小さくなってしまう。
 もう子供ではない。
 司もつくしもあの遠い高校生の日とは違うのだ。
 そして、あの頃にはわからなかったけれど、彼らが引き離されたのもまた致し方なかったことなのだと、今では納得できる。
 そしてつくしもまた、司に会いたいわけではなかった。
 「でも、牧野さんだけだったのよ、ああいう風に司たちに何か言ったりできる人なんて」
 「え?でも、静さんやF3は」
 「ダメよ、あの子たちは。お互いにぬるま湯に浸かるだけで、人に意見するような子たちじゃなかったもの。あの頃はね。私も…似たようなものだったし」
 自嘲するような静に、つくしは大きく首を振った。
 「いえ!そんな。あいつらはもうそりゃガキで酷かったですけど、静さんはそんなことありませんでしたよっ!」
 「そんなことないわよ」
 つくしの熱い言葉に静が苦笑する。
 だが、つくしは真剣だったし、自分の気持ちはせめて伝えたかった。
 「本当に!あの頃、静さんはあたしの憧れでした。静さんみたいな女性になりたいって、…そのあたしじゃとてもおこがましいけど、本当にそう思っていました」
 生まれながらのお嬢様なのに、少しも気取っていなくて。
 美しくて、賢くて、優しい、本当のお姫様みたいな人。
 お姫様に王子様がいるのは当然のことで。
 だから類がいつも彼女の傍にいても、嫉妬することはほとんどなかった。
 …ただ寂しかっただけ。
 切なくて哀しかっただけで。
 あまりにも現実は厳しくて、お姫様とは真逆にいる自分が恥ずかしかった。
 「私こそ…牧野さんに憧れていたのよ」
 「は、へ?」
 あまりに思わぬ静のセリフに、つくしは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
 それを静が本当に楽しそうに、クツクツ笑いを洩らす。
 「ご、ごめんなさいね、つい」
 「あ、いえ。…でも、憧れって」
 恥じ入って顔を赤らめるつくしを優しく見やって、静が頷く。
 「本当よ。いつも一生懸命で強くって、真っ直ぐ前を向いて頑張れる。そんな牧野さんみたいになれたらって、思ってたわ。私なんてちやほやされていたけれど、心の中はいつも不安でいっぱいだった」
 「静さんがですか?」
 「ええ。私は本当にこのままでいいのかなっとか。本当に頑張れるのかしらとかね。藤堂の家を出た時だって、迷いだらけだったのよ。だからああいう形で自分の退路を断ったの。類のことだって…」
 「それでも静さんは凄いです。人間なんだから迷うのは当然だと思います。なんの迷いなく突き進む人の方がよほど嘘くさいですよ」
 「ふふ、そうかしら?」
 「はい。迷っても強くて毅然としている。優しくて美しい、そんな静さんが、素敵なんです」
 「…ありがとう。牧野さんもとっても素敵よ」
 綺麗な人って本当に凄い。
 同性だというのに見惚れずにはいられない。
 それは外見の美しさだけではなくって、身のうちから滲みでる美しさに違いないのだ。
 話し込んでいるうちに注文したものをウェイターが運びこんできた。
 「さあ、じゃあ、ガッツリ食べちゃいましょう!」
 「ガッツリって」
 静がそういうことを言うとは思わなくって、目を丸くするつくしに悪戯っぽく微笑み返す。
 「弁護士なんて仕事をしているとね。食べられる時には食べないと、昼抜き、夜抜きとかも普通にあるの。だから、時間がある時はガッツリ食べる!いつもこんな感じなのよ」
 その言葉どおり静の食欲は旺盛で。
 さすがに所作は素晴らしく上品だったけれど、良く笑い良く食べて、いつの間にかつくしにあった遠慮も薄れ、純粋にこの憧れの女性との時間を楽しめるようになっていた。
 「そうだ、牧野さん、この後時間あるかしら?」
 「え?あ…そうですね」
 店の壁にかかっている時計を見ると、まだ20時前。
 マンションに誰がいるわけでもないつくしに、門限があるわけでもない。
 「この後、類が私が泊まっているホテルに訪ねてくる予定なの。良かったら、一緒にお酒でもどうかしら?」





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