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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて179

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 重荷…それは静の本当に正直な吐露だったのだろう。
 だが、わかっていてもそれは類にとってはショックで辛かった。
 自分の無力を知り、彼女を諦めたはずだった。
 彼女の為に何もできない自分が嫌で逃げ出しておいて、ショックを受ける女々しい自分が死ぬほど気持ちが悪かった。
 「…でもね、類、誤解しないで欲しいんだけど」
 「わかってるよ」
 「類?」
 「静の気持ちわかってるし、俺もいまさら昔のことを穿り返したいとは思えないんだ。それより、これからのことを話そうよ」
 「え?」
 「静、結婚のことで親父さんに会いに来たんだろ?」
 類の話題変換は唐突だったが、彼ら幼馴染みの間ではよくあることで。
 ツーと言えば、カーというだけあって、それでもお互い不便なく通じ合っていた。
 それだけに、言葉を尽くすことがなかった。
 互いに知りすぎて、それがすべての悲劇と原因だったのに。
 「…ええ、なにか父から聞いている?」
 「いや、俺もずっとフランス勤務で恥ずかしながら藤堂の小父様にはご無沙汰していたからね」
 「類はずっとフランスにいるものだと思っていたわ」
 確かに、彼女への報われぬ愛に苦悩しながらも、少しでも彼女と離れたくなくってフランスに留まっていた。
 無意味で無為な時間を過ごして。
 気が付けば、7年音信不通でも、あの頃のまま自分を慕っていると思っているような傲慢な女のために。
 「まあ、それもいいかなって思ってたけどね。会社から日本勤務を命じられたから、それに抗うのも面倒じゃない?」
 「ふふ、類らしいわね。…日本に帰って婚約したって聞いたじゃない?」
 またも何を言いだそうとしているのだろう、この女は。
 類がすべてを捨ててくれと頼めば逃げ出す癖に、彼が引けば、まるでその気持ちを忘れさせまいとするかのように近づいてくる。
 「…それが、私の従妹にあたるまり子ちゃんだったじゃない?あなたが私のことをまだ好きでいてくれるような気がして、嬉しかったのよ」
 確かに高坂美也子の前の類の婚約者は、面差しが静によく似ていてた。
 「別に…静の従妹だったから婚約したわけじゃない。母の推薦だったんだよ、父親が静の叔父さんでもあるけど、母方が旧華族の摂関家の流れを組んでる。財力や権威というより血筋で選ばれた」
 「そう…だったわね。それでもあなたの私の縁はこれで切れないってそう思ってしまったのよ」
 「……」
 残酷な女。
 類を愛せないのなら放っておいてくれればいいのに、それさえもしてくれず。
 それなのに、この場にいるこの女は、類以外の男と結婚するためにここに戻ってきたのだ。
 「…あなたにはわかってもらえてると思ってた。私にとってあなたがどれだけ大切な存在なのかって」
 「どんなに大切でも、夫にはしてくれないのに?」
 「…結婚したい人がいるのよ」
 真っ直ぐに類を見て言い切るのは静が潔いからなんかじゃない。
 その根底に、類が彼女を切り捨てられないのを知っていて、彼に対して何をしてもいいと思っているからなのだと、彼もわかっていた。
 そして、おそらく静自身も。
 誰に対しても慈悲深く、優しく、完璧な令嬢の裏側で、類に対してだけは静はいつも残酷だった。
 「あの人とは違うところであなたのことも愛してるの」
 「そういうところも変わってないよ、あんた、相変わらず。それで、どうしたいの?今更、結婚もできない俺なんかを呼び出したりしてさ」
 「電話でも言ったでしょ?ただ会いたかったの。まり子ちゃんでもダメだったあなたが愛した人を一目見たいって、そう思ったのよ」





 「…愛してる女なんか、いないっていっただろ?」
 「類」
 「俺が愛してるのは、今も昔も静だけだし、これからもきっとそうだろう」
 依怙地になっている。
 そんなこと、類だって自分でわかっていた。
 だが、あいも変わらず根底で彼を拒絶して、それでも抜け抜けと彼への愛を語る静が憎かった。
 姉のように愛してる…そんな言葉が欲しかったことなどなかった。
 弟のように思っている…偽善者の彼女が、この上なく憤しかった。
 「…それでも、あなたの幸せを祈らずにいられないって、私も言ったでしょ?」
 切なく憐れんで類を見る静の表情は、それでも昔にはなかったもので。
 類を大切にも思っていただろうけれど、それでも少女の頃の彼女は類に対してもっと冷酷な非情さももっていた。
 「どうする?このまま藤堂の邸へ送る?」
 「…ああ、いえ、私は勘当された身だし、私自身も藤堂の家とは国際弁護士になるって決めて家を出た時に袂を分ったつもりだから」
 「そう、じゃあ、ホテル?」
 「ええ。メイプルにお願いできるかしら。一介の弁護士の身としては敷居が高いんだけど、司が融通きかせてくれたのよ」
 「…へえ」
 静の口から出ても別に不思議ではない。
 司もまた、彼ら二人と幼馴染みの親友なのだから。
 それでも、いま、この時、司の名前を聞きたくなかった。
 自分もまた静に会ったことで心を揺さぶられ落ち着かない気持ちを抱いてイラついているというのに、司の名前はカンに触りすぎたのだ。
 それは友への感情ではなく、一人の女の心の奥底にいまも住み続ける存在として。
 司の存在は、類にとって大きな脅威でもあった。





 「…司、再来週初めに日本に戻ってくるんだ」
 今日は会社をズル休み(腹痛で早退)した関係上、類自身が(彼的に)目立たない車を運転していた。
 その助手席で久しぶりの日本の風景に魅入っていた静が振り返る。
 だが、意外ではなかったらしく、鷹揚に頷いた。
 「ええ、そうみたいね。私も会いたかったんだけど」
 「会えばいいだろ?」
 「それがそうもいかないのよ。たぶん、行き違いになるんじゃないからしら。私も仕事があるから、来週末までにはフランスに帰るつもりだし」
 わかっていても、サラリと類に対して宣言する静が小面憎くも、ブレないところがいっそ清々しかった。
 物柔らかに見えても、静は一本筋が通った女だ。
 こうだと思えば、たとえ類がどう縋ろうとも決して意思を曲げない。
 勉学の為の留学、弁護士という職業選択、そして今となっては結婚さえも、類の意思をさしはさむ余地を与えてはくれなかった。
 ならば、静にとって自分の存在価値とは何なのだろう。
 夫となるべき男とはまた別の意味で愛しているなどと、偽善者で詭弁もいいところだった。
 「タマさんにも会いたいんでしょうね」
 「…え?」
 「タマさん、いま千葉のご親戚のお宅にお世話になってるらしいけど、体調が思わしくないらしいの」





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