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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて178

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 「類?」
 呼びかけられた懐かしすぎるくらいに懐かしい女の声に、類は目を瞬かせた。
 空港の椅子に腰を下ろしたまま、気が付けば、どれくらい時間がたっていたのだろうが。
 「…類?」
 もう一度呼びかけられ、大きく息を掃き出し、ゆっくりと立ち上がって振り返る。
 「静」
 何年も前に別れた時のまま、あいもかわらず美しい女が両目に涙を浮かべ、類へと歩み寄ってきた。
 「ああ、本当に類のなのね」
 気が付けば走り寄るように小走りで類の傍に立った静が、かつてと同じく何のためらいもなく両腕を伸ばして彼の首へと抱き付いてくる。
 類は彼女のその体をかつてのように抱きしめることも、また拒絶することさえも出きずにいた。
 密着した静から匂う彼女自身の匂いと懐かしい温もり。
 その甘い香りを鼻腔いっぱいに吸い込み、湧き上がってくる懐かしさとも慕わしさとも…そして哀しみともつかぬ感情をもてあまし、そっと目を伏せる。
 彼女に会った瞬間、憎しみに喚き散らし、その頬をうち、髪を掴み、引きずり倒し、今更なんだと怒鳴りつけてしまうのではないかと自分を疑っていた。
 あるいは恋しさから、彼女の足元に身を投げ出し、もう二度と自分の元からどこにもいかなでくれと身も世もなく泣き縋るのではないかとさえも思っていたのだ。
 それなのに、胸に湧き上がる複雑な心の半分は、つくしへ思い馳せたままで、目の前に立つ柔らかな肢体こそ、あれほど彼が恋い焦がれ憎悪にまみれたあの静の体というのに、思っていたほども感慨が湧き上がらないことに彼は戸惑っていた。
 「顔を、顔を見せて頂戴、類」
 無言の彼の両頬に両手をあて、覗き込んでくる静は、本当に美しいと思う。
 7年前の再会を彷彿とさせるその場面は、二人が得てきた年月幾度となく繰り返し行われてきた光景だと類はふと気が付き、笑い出したくなってしまった。
 まるで、類を熱烈に愛しているかのように振る舞うこの女が、いつも己の都合次第で簡単に彼を置き捨て、そして気紛れに戻っては、甘く優しい顔で彼への愛と献身を示す。
 そして、愚かな自分はそのたびに、彼女の気紛れな優しさに惑わされ溺れ、そしてまた再び捨てられる日までを、飼い犬のごとく彼女に付き従うのだ。
 「どうしたの?類、なにか言ってちょうだい」
 だんまりを決め込む類へと、静が潤んだ目で懇願する。
 だが、類はその指先までもが美しい彼女の手を掴み、自分の頬から外させた。
 邪険ではなかったが、かつての彼のようにはそのまま握り込むことはせず、あっさりと解放する。
 そのクールな態度に、静の眉根がわずかに歪んだのは類の願望でしかないに違いなかった。
 「…類、やっぱりまだ怒ってるのね?」
 問われて自分の心を探ってみても、意外なことに類はいま怒っているわけではなかった。
 それならば、7年前に時を戻したかのような絶対的な思慕でこの場に立っているのだろうか。
 そうではなないと確信しながらも、類は今の自分がわからなかった。
 彼女を愛していた。
 確かに、それは疑いようがなく。
 だが、いまこの場に立つ、目の前の女はいったい誰なのだろうか。
 静の顔をして、静の声を持つ女。
 静のように類に微笑みかけ、彼を惑わ従わせようとする女。
 「いや、静は全然変わらないなって思ったら、なんだか感無量ってやつでさ」
 「あら、少し会わない間に、口がお上手になったんではなくって?本当はビックリするくらいおばさんになったって思ったんじゃない?」
 心の奥底にどんなに屈託を抱えていようと、二人そろえば幼馴染みの気安さと、かつての蜜月の名残が二人に去来した。
 「…いや、いくつになっても静は綺麗だし、イイ女だよ」
 「あなたは…ますます素敵な男性になったわね。高校生の時にも思ったけど、あなたは会うたびにより素晴らしい男性へと変貌してゆくのね」
 行き交う男たちの目が静へと集められ、立ち止まる女たちの憧憬が類へと降り注いだ。
 どこにいてもいつであっても、その場の中心はいつも二人。
 一対の人形のような二人は、互いの心さえも完全な一対なのだと、見果てぬ幻影を愚かしくも信じていた遥か遠い少年の日。
 目の前の女は、美しい外見と心で無意識のうちに類を隷属させ、いつも支配していただけだったというのに。
 彼女の愛情が欲しかった。
 彼女だけを見つめていたかった。
 初めて出逢った幼い日から、ずっとずっと類の世界は、物言わぬ壁と静だけがすべてだったのに。
 二人並んで歩きながら、静が潤んだ目を指先でそっと拭うのを、類は陶然と見守った。
 その美貌に相応しく美しい涙。
 だが、その一滴は落ちることなく、すでにもう静の顔に大輪の花のごとき笑顔が浮かび、類へと甘く囁く。
 「…良かった。もしかしたら、電話ではああいってたけど、本当はもう会ってくれないんじゃないかと密かに心配していたの」
 「俺が?」
 「…ええ。あの後…、あなたが高校生の時、私のフランスでの滞在先のフラットに来てくれたじゃない?しばらく一緒に暮らしたけど、突然にあなたがフラットを出てしまって、ずっと私心配してたのよ。何か、類を傷つけてしまったんじゃないかって。あの後、あなた、私と連絡を取りたがらなくなったでしょ?」
 そして7年だ。
 犬のような静にまとわりついていた年下の少年が、いつしか人の痛みを感じない男へと変貌するだけの年月。
 何が、心配していた、だと思う。
 今更、何をしに、何を言いにきたのだと類はシンと冷たく凝ってゆく自分の心を感じていた。
 「忙しかっただけだよ、静もあの頃は自分のことで精いっぱいだっただろうし。あの時は…あれがベストだった。いつまでも俺が居座って静の邪魔になるわけにはいかなったんだよ」
 静にとって。
 類にとってはどうであろうと、少なくてもあの時の静はそれを望んでいたはずだった。
 ホッとしたような顔の彼女が、その彼の言わぬ言葉を後押ししていて苦笑する。
 「わかってくれてたのね。あなたがフランスまで私を追いかけて来てくれて、本当に嬉しかったけど。そうね、あの頃の私は勉強することや馴染まなければならないことがいっぱい過ぎて、あなたのことまで考えてあげられなかったというの本当のことだったんでしょうね。高校まで途中で放棄させて来させてしまったというのに、何もすることがなく私を待つあなたが正直、重荷だったの」





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~ Comment ~

NoTitle

こんなどんよりとしたお話の時になんですが・・・。
あけましておめでとうございます。
早く先が知りたくて仕方がない時に、連続更新はすごく嬉しいです。
オリジナル小説もはまって、気になって仕方がないです。
短編も長編も楽しみです。
今年もよろしくお願いします。

NoTitle

あけましておめでとうございます
毎回楽しく読んでおります。変ですよね?シリアス物なのにね。でも、「やっぱりねぇ、あっ、そういうことだったの?」とか予想しながら読んでいるので、楽しいのです。まるでサスペンスものみたいにして!
真面目な読者とは言い難いですが、今年もよろしくお願い申し上げます。

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