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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて177

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 「ふっ……うう、あうううっ……うっ、ううううっえ、え、ええ。ううっ」
 小さな子供のように泣きじゃくる女が、あられもない姿のまま、虚ろな目で横たわっていた。
 どんなに辱められ傷つけられても、キツイ目で立ち上がってきた女が、まるで小さなよるべもない子供のように、ただ力なく泣き噎せている。
 酒と…嫉妬のもたらす狂乱はいつのまにか失せていた。
 つくしの哀しむさまに、我を取り戻してみれば、そこには苦い後悔と後味の悪さだけが残る。
 震えた弱々しい女の華奢な胎内から、彼女自身の手を引き抜き、傍にあったティッシュで拭い、体の汚れも手早くふき取ってゆく。
 されるままの彼女はまるで人形のようで。
 彼が親しみ好んだ温もりはそのままなのに、少しもそのことに満足を憶えなかった。
 つくしの涙が、類の心に冷たい刃で切り付けられたような痛みを感じさせる。
 彼女を泣かせ、傷つけることなどいまさらなことなのに。
 苦いしこりが凝って、やがては類に耐えがたい焦燥とつくしへの憐憫の情を湧き立たせた。
 目の前の女を泣かせ、哀しませているのは自分だった。
 笑顔が似合う女だと知っていて、あえて泣かせる自分の愚を思い知る。
 …だが、人を拒絶し、欲しがるばかりで与えることを知らない男にはどうしていいのかわからなかった。
 どうすれば犯してしまった失敗を贖い、償い…慰めることができるのか。
 類が涙にくれるつくしに手を伸ばすと、壊れた人形のようだったつくしの肩がビクリと慄き震えた。
 まだ全身に残る紅潮が、類によって強要された自慰による欲情を残していることを知らせた。
 途中で放り出した体が絶頂を求めて、まだくすぶり彼女を苛んでいるだろう。 
 けれど、急速に冷えたつくしの心が、体の反応を優先することを求めていないことなどさしもの類にもわかる。
 あえて直接触れることを避け、立ち上がってクローゼットの中から新しいバスローブを取り出し、無抵抗のつくしの体に着せかける。
 その間、ただただ嗚咽を洩らし泣き続けるつくしは、けっして類を見なかった。
 逆らうでもなく、従うでもなく…本物の人形のように心を閉ざしていた。
 だから、つい零してしまった言葉は、自分でも思いもよらぬもので。
 「……ごめん」
 小さな声での謝罪は、それでもつくしにも届いたのか、ひくひくと泣いていた彼女の声が驚きで途切れた。
 「俺が悪かったよ。…俺は出ていくから、今日はお前、このままここで寝るといいよ。酒臭いのが嫌だったら、少し落ち着いてから自分の部屋に戻ればいいし…」
 意外なほど、類の声は自分のしでかし、つくしを傷つけたことに対いてショックを受けていて、後悔していると正直につくしへと伝えるものだった。





 どれくらい泣いていたのだろうか。
 気が付いたら、寝入ってしまっていた。
 ペロペロと涙の痕を舐める温かい感触に、深い眠りを貪っていたつくしの目を覚まさせた。
 「…べ、べ」
 絞りだした声は、叫びすぎたゆえかしゃがれた老人のようで。
 涙でパリパリになって睫毛が目の下に張り付いて、瞼が上げずらかった。
 もしかしたら、泣きじゃくったまま寝てしまったことで、顔がひどく浮腫んでしまっているのかもしれない。 
 ソロリと起き上がったベッドの周囲は、昨日寝入ったままに酒瓶がまだ転がっていた。
 「…類」
 不思議に、口からついてでた名前に怒りは湧かなかった。
 哀しみも絶望も、今は麻痺してしまったかのように遠い。
 なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
 ここのところ、情交も間遠くなっていたが、それでも類との関係は比較的良好だった。
 時々…類との契約や肉体関係は悪い夢だったのではないかと思えるほどに、甘く優しく、どうかすると普通の恋人同士のような錯覚をしていまうことすらあった。
 そのたびに自分を厳しく律することが難しかった。
 仮初の関係に夢を見るなど、愚かなことだとわかっていたから。
 それでも、この平和で穏やかな時が少しでも続けばいいと。
 ふと目が覚めた真夜中に見上げる類の美しい顔を見るたび、温かな腕に抱きしめられるたび、何度思ったか知れなかった。
 




 夜になっても類は帰ってこなかった。
 仕事から帰り、真っ暗な窓を見て、昨夜の狂乱を思い出して躊躇さえ感じていた。
 顔を合わせるの怖くて、どう相対すればいいのかと、つくしは就業中ですら仕事に集中できずに今日は小さなミスをしがちだった。
 それなのに、…22時を過ぎても類が帰って来ない。
 ここのところ、類が帰ってくるのが当たり前になってはいたが、それは決め事ではなかったことに今更気が付く。
 類自身忙しい男なので、必ず定時というものは存在しなかったが、それでも何の連絡もなく22時まで帰ってこないことは今までにはなかった。
 テーブルの上のつみれ鍋が、冷たいままに置かれ。
 先に食べていようと思うものの、一人で鍋をつつく虚しさに手が伸びずにいる。
 …なにもこんなに気まずい時に、鍋にしなくっても。
 買い物をし終えて戻ってきてから気が付いた。
 それでも、冷蔵庫につめられた種々の野菜を確認しながら、思いついた時には、鍋しかないように思えてそれしかつくしの念頭になかったのだ。
 待ちくたびれて、お腹がすきすぎて、テーブルに突っ伏しかけた。
 そしてふとカウンターに置きっぱなしにしてあった携帯電話が目に入り、会社を出て今この時まで携帯を確認していなかったことに気が付いた。
 「…なんか、入ってるかな」
 期待半分、諦め半分、メールを確認した。
 しかし…開いたメッセージの内容はあまりに予想外のことで。
 不思議なことに自分がまったくこんな可能性を想像もしていなかったことに逆に驚く
 『しばらく、邸に帰るから』
 そっけない一文。
 それがいつまでなのか、とか、どうしてなのか、とか、そこには何も書かれてはいなかった。
 類がいないマンションの部屋が、急に見知らぬ場所のようで。
 空調の完備された温かな部屋が、寒々しく余所余所しいもののようにつくしには感じられた。





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