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「中・短編」
拍手小話*①

手のひらのダイヤモンド

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 道明寺がNYへと旅立って3年半が過ぎた。
 あの卒業プロムの別れから、フランスでの静さんの結婚式での再会。
 雪の日の階段で足を滑らせ、頭を打って入院したあたしを心配して帰国してくれた時の束の間の再会。
 そして、ピサの斜塔でのプロポーズ。
 色々なことが互いに起きて、泣いて、笑って、怒って。
 たくさんのことが、あたしたちの身を通り過ぎていったけれど、二人の時間はホンの少しだけで。
 そして、いつの間にか3年半いう月日がすぎて、気が付いてみればテレビ電話での通話が携帯電話への連絡へと変わり、毎日のようにあった携帯電話の着信が、着信記録のページから消え失せる頃にやっとかかってくるくらいになった。
 気が付いてみれば、もうすぐ約束の4年。
 道明寺が迎えに来るはずの4年目が間近に近づいていた。
 「ねえ、牧野先輩。今日、俺、車なんだけど送っていきましょうか?」
 ふと見上げてみれば、霧のような細い雨が薄暗い夕方の空に降り出していた。
 「ああ、ううん。大丈夫、ありがとう。折り畳み傘は持ってきてるから、平気だよ」
 何かと気を使ってくれるのか、声をかけてくれる後輩の江成君の誘いをありがたく思いながらも断り、夕暮れ時の大学の校舎を後にした。


 
 「もうすぐ、冬かあ。道明寺はちゃんと卒業できたのかなあ」
 9月始業のアメリカ。
 順調にいけば今頃、道明寺はアメリカでの大学生活を終え、日本への帰国の準備を進めているはずだった。
 けれど、この半年、まったく音信が途絶え、その動向が伺い知れなくなっている。
 去年まではそれでもF3が何くれとなく気を使い、道明寺本人には連絡を取れずとも、折にふれNYの様子を探りだしてくれた。
 その3人も今は卒業間近、それぞれの稼業に精を出し、修行の日々。
 他人の恋愛ごとに時間を割く暇もあるわけもなく…。
 駆け抜けるように走り続けてきたジェットコースター恋愛。
 気が付いてみれば、長さだけは4年もの間、二人の付き合いは続いていた。
 でも、この3年半の遠距離恋愛の間に、道明寺と会うことができたのはたった3回だけで。
 なんだか疲れちゃったなあ。
 頓にこのところ、そう思う。
 逢いたくても会えない距離。
 声を聞きたくてもすれ違う時間。
 当時のあたしは何もわかっちゃいなかった。
 ついてきて欲しいと言葉に出さずとも眼差しに、態度に、切ない顔に、道明寺のすべてが語っていたのを拒絶したあたし。
 意地を張っていたと思う。
 けれど、3年半すぎた今となっても、またあの時の選択が来たとしても、きっとあたしは道明寺についてはいかない。
 と、すれば、こうして自然消滅のように二人の関係が失われてゆくのも必然だったというべきなのか。
 道明寺本人に何を言われたわけでもないのに、消極的な諦めの溜息がふっと洩れる。
 気が付けば、あたしたち家族の住む2DKのアパートの階段下に辿り着いていた。
 考え事をしているうちに傘をさすことも忘れていたらしい。
 細い糸のようだった雨も、浴び続ければぐっしょりとあたしの服をいつの間にか濡らし、晩秋の寒さを身に沁みさせる。
 恋愛も、雨のようなものなんだよね。
 ふと、真理に気が付いた瞬間。
 なんでもないことのように目を瞑っていた事柄が、塵も積もって気が付けば、全身を凍えさせ、深い傷跡へと刻み付ける刃となる。
 そして逆に、忍び寄らせまい、けっして近づかせまいと気を張っていた身近な優しさが、時に身に沁み、やがては大きな存在へと様変わりすることも。
 道明寺がかつてくれたダイヤモンドの指輪は、あたしには分不相応で、やたらと大きく恐ろしいほどに煌めいていた。
 でも、本当にあたしが望んでいたのは、そういう幸せだったのかな、とあの時でさえ思った。
 道明寺を好きになった時から、あたしの普通は普通でなくなって、そうした男を愛していると自覚した瞬間、そうした自分の中の常識を捨て去ったはずだった。
 けれど、こうしてアイツが傍にいない不安が身の内を覆い、寂しさが耐えられないほどになると、ひっそりと蠢きだす。
 本当に、これでいいの?…と。
 階段を昇ろうとして、でも、まだ何も知らない家族の優しい顔を見るのがなんとなく嫌で、そのまま踵を返す。
 後ろから声をかけられ、振り向くと、
 「先輩…」
 「…江成君」
 そこにいたのは、ゼミでの2年後輩の江成隆文くん。
 陽気で男気があって、サッパリしていて、容姿は中のちょっと上くらい?
 ゼミの女の子たちが、そう言ってキャアキャア騒いでいた。
 英徳には大学からの進学組で、おうちはごく普通のサラリーマンらしいけど、とても礼儀正しくて、今どきの男の子には珍しいくらいにしっかりしている。
 だから、きっと躾の厳しい良いおうちの子なんだろうな、くらいに私は思っていたけれど。
 そんな江成くんと初めて話したのは、大学の文化祭の時。
 勉強とバイトばかりでサークル活動はしていなかったけれど、ゼミでお世話になっている先輩に頼まれて、郷土文化研究サークルの展示喫茶の店番を仰せつかっていた。
 サークルの面々は、幽霊部員も多いらしく、実際その日も、先輩と数人のメンバーのみしか文化祭に参加していなくて、それもそれぞれの友人知人の接待で、留守がちになっていた。
 必然、助っ人のはずの私がメインでの案内係になっていて、展示物についての専門的質疑には答えられなかったけれど、お茶を出したり、雑談に応じたり、そんな風に一日を過ごしていた。
 ちょうど、江成君も友人たちを引き連れて、あちらこちらと校内を練り歩いていたらしい。
 「あれ?牧野先輩、何やってるの?」
 「…あ、確か」
 「今年、戸賀崎教授のゼミで一緒になった江成です」
 その時、挨拶を交わしたのが、初めてまともに会話したきっかけだったと思う。
 それからなにくれとなく話したり、ゼミでのテーマを調べに一緒に図書館へと足を運んだり、教授連や先輩たちの用を仰せつかった私の手伝いを買ってでてくれたりするようになった。
 「先輩ってさ、お人よしだよね」
 「なあに?それ。それって、ほめ言葉じゃないよね」
 「うん、誉めてない。だって、いつみても、人に利用されたりして損ばっかしてるじゃん」
 歯に衣着せぬ物言いに、苦笑がもれる。
 「利用ってね、頼りにされてるとかって言いようがないわけ?」
 「まあ、言いようによってはね。頼んでくる連中も自覚ある奴らは少ないし」
 「じゃあ、別に利用してるわけじゃないんじゃない?」
 「自覚ない方がタチ悪いよ。先輩っていつもそんななの?」
 思い起こしてみれば、いまは驚くほどに平穏で、高校生時代の一時が夢だったように思えることもあるけれど、よく周囲からお人好だ、何度利用されてもわからない馬鹿だと呆れられていた。
 でも、そういう連中こそが、私に迷惑をかけ、とんでもない高校生活の一ページを間違いなく彩ってくれた奴らだったけれど。
 「ん~、まあ、そんななのって聞かれてもどんなだよ、って感じだけど。わりと、騙されたりはしやすい方だったかもねぇ」
 私としてはそれに一々苦を感じていなかったので、何気なく答えただけだったけれど、江成くんは痛いような変な顔をして俯いた。
 「…どうしたの?」
 「先輩がそんなだから、俺は…」
 「江成君?」
 「先輩、あのF4の道明寺司と付き合ってたって本当?」
 突然の問いかけに思わず息を飲む。
 英徳の学生はほとんどが高等部からの持ち上がりだから、私と道明寺とのことは皆知っていた。
 ただ、あいつと私が今も続いているなんてことを知っていたのは、ごく一部の人間だけだっただろうけど。
 「今も、そいつが忘れられないの?」
 忘れられないのかと言われれば、もちろん忘れたことなんてない。
 だけど、一瞬問いかけられた問いに、答えを返すことができなかった。
 「俺、先輩のことが好きなんだ」
 「…江成君」
 どこかで予感していたのかもしれない。
 差し掛けられる傘に、横から奪い取られる重い荷物に、向けられる笑顔に、どこか後ろめたい気持ちを感じたことが一度や二度でないことを、その時、初めて気が付いた。
 「ごめんなさい」
 そういうしか、私の中の答えはなかった。
 でも、それからも江成君は何事もなかったかのように、私に接してきて、私も最初のうちは気まずかったけれど、いつしかそうした彼の気遣いに慣れていった。
 申し訳ない気持ちは、なくなったわけではなかったけれど。
 そうした身近な思いやりや接触に飢えていたんだと思う。
 けれど、江成君と私の距離は縮むことはなく、江成君もある一定のラインの内側へは押し入ってこようとはしないでくれた。
 それが…。
 ここのところ音沙汰のなかった道明寺についての思わぬ情報をもたらせたのは、浅井百合子だった。
 道明寺との付き合いが発覚し、その道明寺の鳴物入りで私が大学に入学してきて以来、百合子は遠巻きに私を見るくらいで、特にアクションを起こしてはこなかった。
 けれど、百合子が私のことを忌々しく思っているのは、通りすがりに投げかけられる視線や、背けられる顔に一目瞭然で。
 それでも、常にF3が傍にいた私に遠まわしにせよ、嫌がらせをしてくるようなことはなかったのだ。
 「牧野さん、これ、読んだかしら?」
 それはアメリカ経済界の有名情報誌「ジャーナル」。
 数あるゴシップ誌などの信頼性のないスクープ記事など目ではない、確実性のある記事を載せるということで定評のある雑誌だった。
 一面に飾られていたのは、アメリカNYでの、さる財閥令嬢の誕生日パーティに招かれた各界大物の婿候補である青年実業家たち。
 その中でも最有力にして、力ある大物としてクローズアップされていたのは、かの道明寺財閥の御曹司にして、若き取締役専務・道明寺司。
 別に珍しい話ではなかった。
 ジャーナルで取り上げられていたのは初めてのことだったけれど、道明寺がNYに旅立ったその年からすでに様々な女性たちとの華やかな噂が報じられていた。
 「ジャーナル、経済界なんて縁のない貴女でも見たことありますわよね?曲がりなりにも経済学部に在籍してるんですから。この記事に載るということは根も葉もない噂話じゃないってことでしてよ?」
 意地悪気な笑い顔が高校生の頃と変わらない。
 こいつも変わらないわね。
 やってることが、昔とまったく同じ。
 感慨もなくパラパラと一読して突っ返すと、ペラペラと私にはわからない言葉で話し続けている。
 でも、今、私を傷つけているのはこんな雑誌の記事や、ましてや間違っても百合子の中傷的な侮蔑などではなかった。
 少しづつ積み重なった何か重いもののが、私の器いっぱいに溢れ出し、もう飽和状態で何も感じられない。
 本当に、こんなんで私、道明寺を好きだなんて言えるのかな。
 ひどく疲れている気はしたけれど、すっかり麻痺してしまった私の心は、何も感じないという事実に傷ついていたのだ。
 「やめろよ、あんた」
 割って入ったのは江成君だった。
 「あら、何よ、あなた」
 「そこの雑誌の人と牧野先輩がどういう関係なんだか知らないけど、第三者のあんたがどうこう言うことじゃないだろ?」
 「なっ!あなたこそ、関係ないんじゃなくって!?」
 言い争う江成君と百合子の声がどこか遠い。
 「江成君、いいよ。もう、行こう」
 まだ、何か言いたそうな江成君の腕を強引に引っ張り、百合子に背を向ける。
 「庶民のくせに、いい気になるからっ!あんたなんて、ただ道明寺さんは物珍しくて、ちょっと遊んでやっただけなんですからねっ!身の程知らず!!」
 大半の道明寺の世界ってやつに属する人間の本音なんだろう。
 そんな悪意を向けられるのは、道明寺の世界に抵触するたびに慣れっこになっていって、どこか冷たい何かが喉元を下ってゆくのを感じるだけでなんていうことはなかった。
 たぶんね。
 そんなことがあってから、私は少しづつ江成君と距離をあけるようになっていた。
 私と一緒にいて、根も葉もない中傷のとばっちりで迷惑をかけたくなかったし、彼の好意に答えられない以上甘えることは許されない。
 でも、どこか、そう、私は確かに鳴らない電話に、事実無実を問わずゴシップ記事に載る私の知らない道明寺に、疲れてきていたのだ。


 
 江成君に声をかけて、近所の公園まで誘い出すと、近くにあったベンチに座るように促す。
 でも、江成君は立ったまま動こうとはしなかったので、私も必然、立ったまま俯く江成君に話しかけた。
 「ごめんね、こんなところまで引っ張ってきちゃって。あんなところで男の子と二人で立ち話してると、周りの人たちけっこう物見高いから噂になっちゃって」
 ママが何かと御曹司に見初められて玉の輿に乗りそうな娘の自慢話を近所で繰り返すものだから、よけいにご近所の奥様方の私に対する興味…監視はキツかった。
 切なげなに俯かれてた顔が真っ直ぐにあげられて、両手が私の肩にかかった。
 「もう、やめなよ、先輩。どんな男何だか知らないけど、先輩をそんな顔させたまま、放っておいて傍にいない男なんて」
 「江成くん」
 「どうして俺じゃダメなの?どこがダメ?先輩が言ってくれれば、努力するし精一杯先輩を大切にする」
 真摯な眼差しが眩しい。
 でも、江成君がダメなわけじゃない。
 ただ、私は…。
 そう答えかけて、私は江成君の肩越しに、信じられないものを見つけて声を失った。
 「…あ」
 そして、私が声を失っている間に、そいつはドンドン恐ろしい勢いで私たちに向かってきて、私の表情を見て怪訝に振り返りかけた江成君の肩に手をかけ、私から引き離すためにグイッと引っ張った。
 「てめぇ!誰に断わって、俺の女の体に手をかけてやがんだっ!」
 「な、なんだ、あんたはっ!」
 恫喝する男の怒鳴り声と江成君の震える声が重なった。
 「道明寺…」
 目を見開いて私の顔を見、道明寺の顔を見上げる江成君の顔色は真っ青だった。
 そうだよね、こんなヤクザも顔負けな凶暴な男。
 こいつのことを知らなくても、ビンビンと危険なオーラが周囲を無意識に威圧している。
 「手ぇ、放せ」
 でも、江成君も唯々諾々と道明寺に従いはしなかった。
 「嫌です。僕はいま、牧野先輩と話してたんだ。あんたには関係ない」
 今度は少しも声は震えていなかった。
 「んだと?てめぇ、俺様に喧嘩売ってんのかっ!?」
 喧嘩売ってんのは、あんただよ。
 そう冷静に突っ込みたくなって、自分で自分に笑ってやりたくなる。
 さっきまで、シリアスぶってこいつと別れるべきか、このままこの苦しい思いを抱いて待ち続けるべきなのかと自分なりにドツボにハマッていたというのに。
 「やめてよ、道明寺。誰もあんたに喧嘩なんて売ってないわよ。江成君は私と話していただけ、あんたこそ、江成君の肩からその手をどけて?」
 不機嫌に私を一瞥したものの、道明寺は江成君を睨み付けたまま一応は、その手を放す。
 怖くはなかったけれど、道明寺がいつキレだして江成君を殴るんじゃないかという不安はあったから、知らず知らずのうちにホッ吐息を洩らす。
 コイツも大人になったんだね。
 高校生の時の道明寺のままだったら、出会い頭に江成君はすでに殴られていただろう。
 道明寺はそのまま私の腕を強引に掴むと、引きずるように公園の外へと歩き出した。
 「…先輩!」
 私を取り返そうと江成君が動こうとするのを、引きずられながらも横目で捉えて、私は押しとどめるために首を振る。
 「ごめん、江成君!わたし、こいつのことしか考えられないの。だから、もう、ごめんなさいっ」
 江成君の伸ばされた手はそのまま握りしめられ、私はひどい罪悪感にかられていたはずなのに、上腕を掴む強い力に、すぐに江成君のことを忘れさる。
 ひどいよね、私。
 でも、こいつの匂いを、こいつの声を、こいつの姿を傍に感じた瞬間から私の世界はこいつで一杯になってしまう。
 どんな倫理感も好意も吹き飛んでしまうほどに、こいつの存在そのものに酔ってしまって、何もかもがどうでもよくなってしまうんだ。
 決してそんなこと、本人には言えないけれど、私はめちゃめちゃ、この男に惚れてしまっている。
 乱暴に掴まれていた腕が悲鳴をあげ、あまりの早足に転びそうになった。
 「…痛いっ。痛いってば、道明寺!ちょっと、歩く速さを緩めて!!」
 私の懇願も耳に届かないのか、険しい表情のまま歩き続けるものだから、とうとう私は足元の段差に蹴躓いて、その場に転びかけた。
 瞬間、私の腰を支えた逞しい腕がしっかりと私を抱え込み、そのままギュウッと胸の中へ閉じ込められた。
 苦しいくらいに強すぎる力での抱擁も、秋の霧雨と混じり合った道明寺の汗とコロンのむせ返るような香りが私を酔わせ、溺れさせる。
 「んだよっ!あんな男に口説かれてなんかいやがってっ!」
 「…口説かれてなんかいないよ」
 私を罰するような乱暴なキスが、有無も言わさず私の唇に落とされる。
 噛みつくような口づけに、息も絶え絶えだというのに、それは延々と繰り返され、息をつくことも許されない。
 やがて、男の激情も多少落ち着いてきたのか、気が付けば半ば酸欠で息も絶え絶えに力の抜けた私を抱え、道明寺は柔らかく唇を私の頬や瞼、首筋、顎の下と丹念に繰り返し、繰り返し落としていた。
 時々、キツク吸い上げられ、舐められて鋭い痛みを項や鎖骨に感じるのは、道明寺の所有印を落とされている所以か。
 「だって、私、ずっと虚ろだった。江成君といても、誰といても、夢の中にいるようで、ちっとも現実的じゃなかった」
 「寂しかったか?」
 問われて、やっと気が付く。
 そうだ、私は寂しかったんだ。
 この男がいなくて、寂しくて哀しくて、愛とか恋とか、温もりとかそういったものが干上がって苦しかった。
 寂しかった…そう伝える前に、道明寺が切なく囁く。
 「俺は寂しかった。お前に会えなくて、お前の顔を見れなくて、お前の声が聞けなくて…。お前の匂いを感じることができなくて、辛かった」
 頬に頬を寄せて、道明寺が流れ落ちる私の涙をそっと、唇で拭いさる。
 「ごめん、ずっと連絡できなくって。この半年、俺の立ち上げたプロジェクトの大詰で、ほとんど電話連絡のとれねぇ砂漠や未開の地を往復してたんだ。ババアにも今回のプロジェクトを成功させなきゃ、日本には帰さねぇと言われてたし、何より…俺がしんどかったんだ」
 「道明寺…」
 「こんな時に、お前の声を聞いちまったら日本に尻尾巻いて逃げちまいそうで、とてもじゃねぇけど、電話なんてできなかった」
 「…馬鹿だね」
 長い睫毛を伏せて謝る男は、いつもの自信たっぷりな傲慢男の面影もなくって、本当に大変な半年だったのだと伺いしれた。
 「ホント、バカ。あんたがたとえ逃げ帰ろうとしたって、私があんたを蹴り返すに決まってるじゃん。そんなこともわかんないの?」
 切なげな道明寺を少しでも和ませたくて、私は憎まれ口を叩く。
 それに答えて、道明寺も小さな笑みを浮かべた。
 「…だよな。お前はそんな女だった」
 「私、寂しかったよ。あんたが全然連絡くれなくって、どっかの知らないお嬢様との交際記事読んで、すごく虚ろだった」
 「牧野」
 「あんた以外の誰かと付き合おうとか、好きになろうとかそんなこと全然考えられもしなかったけど、一人がとっても辛くて、誰でもいいから支えて欲しいって思ってしまいそうで怖かった」
 そう、それが怖かった。
 弱った自分が崩れ落ちてしまいそうで、際限なく弱くなっていきそうで怖かったのだ。
 それが江成くんがとかいうことででなく、誰でもいい傍にいる誰かに頼りたくなってしまいそうで。
 「お前は俺のもんだ」 
 大きな温かい手が私の両頬を痛いくらいにキツク挟みこみ、キツイ三白眼が私を射殺すように見つめ返す。
 「ぜってぇ、誰にも渡さねぇ。お前が寂しさなんだか、少しでもフラつきやがったら、相手の男を殺してでも必ずお前を取り戻す!」
 恐ろしい言葉なはずなのに、殺すと囁く物騒な睦言が凄まじいまでの快感を生んで、甘い痺れが背筋を駆け上ってゆく。
 もう、とっくに腰なんか抜けてたけれど。
 すがりついた私の両手からも力が抜けて、地面に座りこんでしまいそう。
 ガクガクして笑ってしまっている私の膝に気が付き、道明寺が再び私の体を支え、両腕で抱きしめる。
 「…でも、もう寂しい想いなんかさせねぇ。絶対に他の男なんか、お前のそばに寄らせるもんかよっ」
 「道明寺…」
 「来月からは、俺は日本支社長としてこっちに赴任する。もう、どこにも行かせねぇぞ?」
 どこかに行ってしまいそうだった私の心が、夢の世界を捨て去って、ここに戻ってきたよ。
 「もう、どこにも行かない。だから、あんたも私を離さないで!」
 熱い唇が再び私の唇を覆い、何度も何度も角度を変え、キスを重ねあい、いつまでも雨の中、二人、互いの温もりだけを頼りに抱きしめあった。


 
(~Fin~)




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~ Comment ~

ruka様^^

初めまして^^応援ありがとうございますm_ _m

本当にこんなに長い間、多くの人たちを引き付けている神尾先生、「花より男子」という作品はすごいですね。
そして、多くの二次創作の作家さんたちの手で、ますます楽しい世界が広がる楽しみ。
その一端で、大いに私も楽しませてもらっています。

私も終わってしまったお話の続きを読みたくて、妄想したくていろいろなサイト様を巡りました。原作や二次のお話が連載している間は、続きが読みたい、早く終わりが知りたいと願い、いざ終わると寂しい。
二次の世界は終わりなき物語を生んでくれるという楽しみがあります。

どこまで皆さんに面白いと思っていただけるお話が書けるかはわかりませんが、できるだけ一緒に楽しんでいけると良いですね^^!

これからもよろしくお願いいたしますm_ _m

はな様^^

初めまして^^よく、いらっしゃいました。
これからも、どうぞ、ご贔屓にm_ _m

「夢で逢えたら」は出だしがアレですし、けっこう邪道ですからねぇ^^;2章までつくしちゃんの「つ」の字もない、やたらと司君には女がいる。そんな感じで。
 一応、短編は皆さんのおかげさまで、拍手小話という形でお礼でかなりの数をUPさせられると思います。
 
 連載も、「夢で」が予想外に続きを読みたいと書いてくださる方が増えて、私自身もノッテきたので終わりまで一気に行きたいとは思っていますが、今のペースを保ち、2~3か月で終わらせたいと思っています。
次は「百万回~(夢で並の長さ)」か、「それでも貴方を愛している(30話くらいかな)」なのですが、おそらく長さから、「それでも貴方~」を先に続けることと思います。ちょっと先の話ですが、どうぞお待ちくだされば嬉しいです^^!

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