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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて156

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 『……』
 その沈黙に耐えられなくなったのは、類の方だった。
 精一杯の愛情を捧げ、それを踏みにじられ続け、さもしくも静の慈悲のおこぼれを待ち続けた少年の日。
 その時のように期待と不安…そしてなぜか恐怖をもって静の次の言葉を待つことができなかったのだ。
 次に告げられる静の言葉が、予想通りでなかった時の方が怖い。
 だから、笑った。
 おかしくもなんともないのに、さも面白そうに。
 いつものように冗談に紛らわせ、彼女の一挙一動に振り回されて血を流す心臓を見せないがために。
 「くくくっ、何黙っちゃってるわけ?」
 『類…』
 「冗談だよ、嘘。静が俺の為に何かを捨ててくれるなんてあるはずないの、俺わかってるし。…別にいままでどおり、捨てて惜しいものがないのは本当だから、つい言ってみただけ」
 『…好きな人とは』
 「そんなのいない。いるわけないじゃん。結婚相手は相変わらず花沢物産の戦略上で選ばれた女だし、本当に結婚まで行くかは俺にもわかんない。俺的にはそのまんま結婚しても別にかまわないし、違う女になってもいいしね。その程度の相手だよ」
 『あのね、類、私…』
 何を言おうとしているのか。
 決定的な何かを聞いて、本当は…つくしを捨ててしまうかもしれない自分が怖いのかもしれない。
 「俺と会ってくれるんでしょ?」
 『え?』
 「帰国するから電話くれたんだよね」
 『…ええ』
 唐突に話を終わらせようと、静の言葉を遮る類からの拒絶を感じて静は口籠る。
 どの道、ある一線を踏み越えようとしない静は、いつもそうやって類に手を差し伸べては、自分の手に負えなくなると躊躇いつつも、結局は見捨てていってしまうのが常の二人の関係だった。
 それがわかっていたから、類ももはや過剰な期待はしない。
 そして、またはぐらかすのさえ簡単なことで。
 「帰ってきたらまた連絡してよ。俺、お前に会いたいし」
 『…うん。私もよ、類』
 「逢って、静の顔が見たい。声が聞きたい…だから、また電話して」
 『私も、類に逢いたいし、顔が見たいし、声が聞きたいわ。だから、電話するわね』





 数年ぶりの通話は、ホンの数分のことだったかもしれないし、数十分のことだったのかもしれない。
 あるいは本当はそれさえもすべてが夢で、類の妄想だったのかもしれない。
 たった一度の電話で、すべてを壊してしまいそうになった静の自分への影響力に身震いしながらも、彼女に逢いたい気持ちが湧き上がるのを抑えることができなかった。
 これは…裏切りなのだろうか、とふいに思う。
 しかし、その裏切りは誰に対してのものなのか、思い浮かぶ人物はいるのに、それに該当しない。
 バカバカしい。
 類が誰を愛そうと、想っていようと類の勝手で、あくまでも契約…と繕った類の一方的な脅迫関係で縛りつけたつくしに関係あるはずがない。
 それなのに、静からの連絡があったことをつくしに知られたくなかった。
 今も断ち切ることのできない静へのこの想いを、つくしに悟られたくはなかったのだ。
 「…泣くかな」
 そんなバカなことさえ、思う。 
 「喜ぶか…」
 類の結婚さえ平然と望む女だ。
 たとえ類に対して疑似恋愛的感情をつくしが抱いていようと、それはあくまでも脅迫者への錯覚であって、真実の愛であるはずがなかった。
 ストックホルム症候群…誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者が、犯人と長時間過ごすことで犯人に対して過度の同情や好意等を抱くこという。
 人は適合しなければ生きていけない環境下で自分をマインドコントロールし、生命と精神のバランスを守ることができる生き物なのだ。
 だが、そうした感情はたいがい、正常な環境下に戻った時には消失する。
 愛情は憎悪に代わり、蜜月は崩壊するのである。
 時々…つくしから愛情めいた切なげな眼差しを向けられることがある。
 抱き合う小さな体の熱が、口づける唇の震えが、類を好きだと言ってるように思えることさえあった。
 だが、類はそんなつくしの彼に対する脅威と心理を利用した自覚もある。
 つくしが自分に好意を抱いているとすれば、それは類がそうコントロールしたからに他なかったのだ。
 それのに、時々、その手の温もりに溺れてしまいそうになる瞬間がある。
 小さな手の与えてくれる慈愛に縋りつき、愛されたい、抱かれていたいと願ってしまう自分に気が付いていた。
 いつになったら…この闇から抜け出せるのか。
 手探りで探す先にあるのはまた真っ暗な闇にすぎなくって。
 それならば仕方がないと、目を瞑り、耳を塞ぎ、何も望まぬとただ蹲っていたはずなのに…。
 再び入った電話の着信ランプに、類は溜息を一つつき、受話器を耳へと当てた。
 「…はい、俺」
 『俺だ。やっと出やがったか。人が何度電話かけてもネグリやがって』
 怒鳴りつけられ、うるさくて、類はとっさに受話器を耳から遠く離した。
 「うるさい、お前。がなるなら電話切るよ」
 『なにぃっ!』
 ここで切っても、また煩くかけ直されたらたまらない。
 もう一度溜息をつき、諦めて一通り用件を聞くことにする。
 それにいくらなんでも、一年に数度しか連絡を取り合わない友の電話を無下にするのも、多少は気が咎めた。
 「俺はかけ直したよ。捕まらなかったのはそっちでしょ?」
 『…先月のイタリア出張ドタキャンしやがって、おかげで待ちぼうけ食っちまったじゃねぇか』
 今日は本当に、千客万来だ。
 それとも噂をすれば影というやつだろうか。
 いつもはめったにかかってこない類のマンションの固定電話に、珍しい人間がたて続けに電話を入れてくるとは。
 しかも、どちらもつくしに関係のある人物で、どちらも彼女にかち合わせたくない。
 これは何かの兆しなのか…と考えかけて、類は自嘲した。
 それこそバカバカしい。
 ただの偶然にすぎないものを、なにか特別なものだと考えるなんて。
 『おいっ、聞いてんのかっ!?』
 「…いまさら、一月前のことをなじられたってね。お前、そんなことで一々電話してくるほど、暇じゃないんだろ?司」




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