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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第五章 迷走①

昏い夜を抜けて155

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 『…類?』
 再度呼びかける声に、震える手先を抑え、相手に気がつかれないように大きく深呼吸をする。
 いくつになっても自分は、この女の声に動揺を抑えられないのはなぜなのか。
 とっくの昔に何度となく踏みにじられ、この女の気紛れの慈悲に縋り付くガキの自分とは決別したはずだった。
 「聞いてる、久しぶり。そっち、いまフランス?」
 『ええ、…そう。類、元気だった?』
 「クスッ、そうだね。元気といえば元気だし。お前の方は調子どうなの?」
 どれほどの憎しみがこみ上げるだろう。
 あるいは、もはや遠い過去の遺物にすぎない女だと何の感慨も憶えないだろうと思っていたのに、まるでつい昨日別れたばかりのようにあの時に引き戻されてしまうこの感覚はなんなのだろう。
 静の鈴を鳴らすような美しい声を聞いているだけで爪先から、髪の一本一本まで血が通い、生き返ったような気持ちにさえなって、高鳴る鼓動にこの女への想いを思い知らされる。
 『うん、弁護士としてなんとかやっていけてる。貧乏暇なしって言うけど、勤めている事務所でもけっこう頼りにされていてね。ひっきりなしの依頼人に、嬉しい悲鳴かな』
 「…静らしいね」
 静らしい…貧乏にも、誰かに雇われていることも、生まれながらのお嬢様の静に似合うはずもなかった。
 だが、不思議にそう語る静の生き生きとした姿が脳裏に浮かび上がって、そんな風に輝いている彼女を思い描くことは類には少しも難しいことではなかった。
 『その…ね、実は来月、…もう2週間もないんだけど、私日本に一時帰国するの』
 「……そう」
 受話器を握る手に汗が滲み出し、ドキリと心臓が大きく音を立てる。
 会おうと思えば日本とフランスという距離も、類にはまったくの障害にならない。
 にもかかわらず、この数年間…まるでそこに二人を隔たる大きな障壁があったとでもいうように、たとえフランスへと足を踏み入れても静に連絡を取ろうとはしなかった。
 そして…静もまた類に連絡をしてくることがなかった。
 それなのに…。
 『この間、あきらに会ったわ』
 「…時々、会ってるんだろ?総二郎とも」
 『ええ、まあ、こっちに来る時には二人とも何かと連絡くれるし。司とも電話してね』
 司…その名前は、今はなぜか胸に迫るものがある。
 疚しさ…なのだろうか。
 それとも、認めたくはなかったが嫉妬という名の感情だったのかもしれない。
 けれど…。
 「へえ、珍しいね。あいつ、忙しくてこっちが捕まえようとしても中々捕まらないけど、静とは連絡取り合ってたんだ?」
 『たまたまよ。本当はあなたとイタリアで落ち合う予定だったんですって?』
 「いつもの、勝手だよ。そんなこと留守電に入れてきたけど、アポ取れないし、こっちにはこっちの都合ってものもあるんだ。一々、あいつの言い分聞いてやるいわれもないでしょ?』
 実際、本当に急用やどうしても差し迫っていれば、会社を通してでもゴリ押ししただろう。
 それをあえてプライベートの番号に連絡を入れて来て、その後督促もないのでは、それほど重要事項ではなかったのだろう。
 そうと考えてみれば、仕事にかこつけて久しぶりの旧交を温めようとでもいう珍しい意図だったのかもしれなかった。
 …よりにもよってこの時期にね。
 親友としての心の地位は保ってはいたが、互いに多忙だった数年間ほとんど会話も交わさず疎遠だった男が、突然に寄越した連絡。
 つくしを類がその手に入れようとした直前に寄越されたその旧交は、いったいどんな天の采配だったというのだろうか。
 だが、結局つくしは類の手に堕ち、そして再び司の影が差し迫る。
 …類の心が意図せぬ変化を遂げかけている今この時に。
 『…司に聞いたんだけど、また…お見合いしたんですってね』
 「まあね。でも、珍しいことじゃないよ、どうして?」
 『…あきらが、あなたにその…今までとは違って真面目に好きな人がいるみたいだって言っていたから』
 フッと、自嘲とも嘲笑とも自分でもわからない笑みが浮かんだ。
 この女は…静はやはり何一つ変わっていない。
 電話の向こうの姿も最後に会ったあの日とすんぷ変わることなく女神のように美しく、輝かしいのだろう。
 それと同じように、その内面もあいも変わらず慈悲深くご立派で、この上なく傲慢な偽善者のままなのだということが知れた。
 「ふ…ん、それで電話くれたんだ。俺のことなんかもう関心ないって思ってたのに、気になる?」
 『…関心ないなんて。あなたのことずっと心配してたのよ。…もうずっと昔の話で今更だと思われるかもしれないけど、あなたが私を追ってフランスに来てくれた時も、あんな別れ方になってしまって…』
 「婚約したよ」
 『…え?』
 「前の婚約者とはダメになったからね。それもあきらか…司あたりから聞いてるんだろ?それとも総二郎が言った?」
 『……結婚したいって思えるような好きな人と出会うことができたのね。よか…』
 「ぷっ。相変わらず、優等生的だね。なにをいまさら思い出して、俺になんて電話してきたのかと思ったら…本当は使い捨てた玩具が勝手なことし出してるのが気持ち悪かっただけなんじゃない?』
 『玩具って!そんな、私は…。類何を言ってるの?私はただ、あなたが…私が傷つけてしまったんじゃないかってずっと気になってたのよ。だから、立ち直ってくれてたんだって、そう…』
 「だったらなんなの?それこそ静にはもう関係ないことでしょ?自分が素敵な相手と出逢えて結婚することになったから、俺にもって?よけいなお世話だよ」
 冷たい類の言葉に静は息を飲み、黙り込んでしまった。
 『類…』
 腹立たしい、苛立たしい、そう思うのに、それでも静の自分を呼ぶ声はなんと慕わしいものなのだろう。
 その美しい声、響き、感情のすべてが類を揺さぶり、一瞬で湧き立たせる。
 ふいに…ふいに思い浮かんだつくしの面影に、ズキリと罪悪感がこみあげた自分の心の動きに、類は困惑した。
 が…。
 『あなたにも幸せになって欲しいって思うことが、ずっと思っていたことがそんなにいけないことだったの?私はそんなにあなたを傷つけてしまっていたのね。…ごめんなさい、そう、言うことがまたあなたを不快にしてしまうのかもしれないけど。あなたが愛する人を見つけられて結婚するのなら…祝福したかっただけなのよ』
 あくまでも類を思いやるかのようで、無神経な静の言葉に、直接神経に爪を立てられたような鋭い痛みを感じて、類のカンに触った。
 ただ、この女を失望させてやりたい。
 あくまでも至高のところでお綺麗でいようとするこの女の鼻をあかせてやりたかった。
 それが…単に、自分の自己満足にすぎなくても。
 それこそ、静にとってどうでもよいことなのだとしても。
 …本当はこの女の関心を惹きたいだけなのだとしても。
 「…そんな女いない。今も昔も俺にとって『女』なのは、お前だけだよ」 
 『……っ』
 「そう言ったらどうするの?婚約者の男をフッて俺と結婚してくれる?静がそうしてくれるなら、俺はみんな捨てるよ。家も婚約者も…他の何もかもね」




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