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「中・短編+」
Middle story(2~5話完結)+

この腕も、この手も、この指先さえも…後編

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 手術は5時間にも及んだ。
 その間も、泣きぬれる両親をつくしは励まし、進の無事を祈った。
 とりあえず手術は成功し、…後は本人の生命力と奇跡を待つばかりと医師からの説明を受けた。
 「…進、進」
 父と母が進の手を握り、懸命に声をかける姿を横目に、弟の痛々しい姿から目を背ける。
 先日会ったばかりの弟は、生命の力に満ち溢れ類とつくしのために、両親のことは自分に任せろと力強く請け負ってくれた。
 いつもつくしの後を追い、勝気な姉に手荒なことをされながらも、いつでも彼女の味方だった弟だ。
 優しくて、気弱で…けれど、いつの間にか、気ばかり強くて意地っ張りの姉を見守ることができるような男に成長し、味方でい続けた進。 
 「…今、何時?」
 「ん、そろそろ、16時になるかな」
 気持ちを変えようと廊下にでたつくしの耳に、通り過ぎる人の声が届き、約束を思い出す。
 …あ、類が。
 でも、いま、死にかけている弟を置いてどこに行くことなどできようはずもない。
 息子の死の危機に彼女だけに縋り、頼りにしている両親をどうして置いていけようはずがあるのか。
 壁にかかった時計をジッと見上げるつくしの頭がジンと痛む。
 ぼやける視界に、自分が涙を流していることがわかった。
 類、類、類…類、ごめんなさい。
 ただ、それだけ。
 大好きな、春の日差しにも似た類の眠そうな微笑みが思い浮かぶ。 



 何度も何度も、腕時計の時刻を確認する。
 …時間は17時45分を指し示している。
 とっくに乗る予定だった飛行機の搭乗は始まり、楽しそうな旅行客の歓声が、諦めきれぬ類の心をなお一層惨めに際立たせる。
 俺は賭けに負けた?
 心のどこかでわかっていたことだった。
 どんなに自分本位であれ、と自分がいさめても、誰が何と言おうと、つくしはつくしだった。
 あれほど熱い恋愛を燃え上がらせた司に対してさえも、彼女は彼を選ぶことができず、手を差し伸べて縋り付く手さえも払いのけ、結局つくしは他人をとった。
 そんな彼女を愛したのだとは言っても、誰よりも自分を優先してもらいたい自分たちは、そんな彼女に踏みつけられ、永遠につくしを手に入れられな煉獄へと突き放される。
 何度裏切られても、慣れぬ痛みに類は自嘲した。
 「…俺を一番にして、って言ったのに」
 そして、つくしは、一番だよ、って言ってくれたのに。
 どうして、こう運命は皮肉なのだろう。
 カツコツと、運命の神の足音が刻一刻と類のもとへと忍び寄る音がする。
 顔を上げずとも、賭けの勝敗を確かめにきた誰かが、類を引きずってゆくのだろう…彼を支配する父のもとへと。
 やり切れぬ思いで、顔を上げた類の目が大きく見開かれる。
 そこにいたのは秘書でも誰でもなく、忙しいだろうその当の父親の痛ましげな顔。
 自分が類を地獄へと引きずり込んでおいて、彼を憐れむような眼差しで見る父のなんと残酷なことか。
 …わかってるよ、父さん。あなたの勝ちだ。
 溜息一つ。
 すべての未練を断ち切って、類は立ち上がった。
 が…。
 類を収監する城壁のごとく立ち塞がる父親の背後…。
 「牧野…」
 小さな両手を口に当て、泣きじゃくるつくしが、類を呼ぶ。
 「…類」



 父の横を走り抜け、類はつくしへと駆け寄り、抱きしめた。
 「…牧野、牧野」
 「類」 
 抱きしめあう二人の目に映るのは互いだけで、もう他の何者たりとも映りはしない。
 類はつくしの華奢な体を抱きすくめ、何度も何度も頬ずりを繰り返す。
 「…来てくれないかと思った」
 「ごめ…んなさ…い。す、進がっ、進が、事…故に…あって」
 「うん、聞いてるよ。行ってあげられなくってごめん。進…助かったの?」
 涙にぐちゃぐちゃになったつくしの両頬を掴み、類が彼女の潤んで充血した目を覗き込む。
 「わからない…」
 「牧野?」
 「わからないの。ただ…もし今ここへ来なければ、もう二度とあんたとは逢えない気がしたの。そう思ったら、…進のことも、両親のことも、何もかも考えられなくなって。気が付いたら、ここにいたの。あんたに逢いに」
 堪らなくなった。
 愛しさで堪らなくなって、類がつくしの顔中にキスの雨を降らす。
 何度も何度も、この幸福を…、自分だけを見てくれた恋人への感謝と喜びをこめて。
 「愛してる。愛してる。ずっと、あんたを愛し続けてきたけど、いま、もっともっともっと、あんたを愛してる。…何もかも、俺のすべてはあんたのものだ。あんたに俺のすべてをあげる」
 「類…」
 「俺のこの腕も、この手も、この指先も、この唇も体も…魂さえも、何もかも、あんたを愛するためだけにある。すべてをあんたにあげる。だから、あんたは俺を受け取って。…誕生日おめでとう、牧野」



 抱きしめあう恋人たちを遠く眺め、類の父が踵を返す。
 待ち受けていた秘書が、無言で通り過ぎる上司へと、躊躇いがちに声をかけ、呼び止めた。
 「…社長」
 「行こう。賭けは私の負けだ。…もうアレは私の息子でもなければ、花沢物産の専務でもない。ただの…恋人のものであるただ一人の男でしかないのだろう」
 類こそが、亡き妻の残したただ一つの贈り物。
 そう愛しながらも上手く伝えられなかった日々に少しの後悔を感じながら、それでも不器用な自分は他の愛し方はできなかっただろう。
 …お前は愛する者との日常を守れ。
 次の瞬間には常の冷徹な大企業の経営者の顔へと戻り、花沢は明日の戦場へと思いを馳せた。

~Fin~
 
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~ Comment ~

まさか、あのつくしが空港に来るとは思ってませんでした。
じゃあ、二人は別れるのかといえば、他力本願で何とかなるのかなと、希望的観測をしておりました(笑)
気づいたら来ちゃてたんですね。
たとえ旅立てなくても、まずそこに来る、それが大事だったんですね。
こういう終わり方で良かったです。
安心しました(笑)

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