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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第三章 嫉妬①

昏い夜を抜けて075

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 「今、なんて?」
 山崎の先ほどとは違う種類の興奮に紅潮した顔を、奇妙な感慨を持って見つめ返す。
 愛してはいなくても、好きだと思っていた。
 彼の人の良さ、突出した能力や美質を持っていなくても、仕事やつくしに対してとても一生懸命で生真面目なところに好意を寄せていた。
 山崎の言うことは別におかしなことではない。
 営業マンたるもの、常にアンテナを張らせ、少しのツテでも頼って顧客を広げてゆく。
 逆にそうした姿勢が会社では評価されるのだろう。
 ましてや、天下のF4。
 普通では知り合うことさえ困難な相手と、ひょんなことから縁を持てる可能性が浮上したのだ。
 山崎の興奮もわかる。
 だが、そのツテが恋人で…今まさに別れ話へと発展しようとしている間柄であるというだけで。
 ふと、自分の思考につくしは自嘲した。
 すでに決意していたことであるとはいえ、山崎は何も知らないのだ。
 ここのところのつくしの屈託も、つくしが別れ話を切り出そうとしていることも。
 それなのに、この冷ややかな気持ちはどうだろうか。
 類と再会する前には思いもよらなかった。
 彼に対してこうした冷え冷えとした気持ちを抱くことになるとは…。
 「…なに?」
 つくしの冷めた視線に気が付いたのか、山崎が眉根を寄せ問いかけてくる。
 「あ、ううん。実は山崎さんに話があって」
 あえて『正輝さん』ではなく、『山崎さん』と呼びかけたつくしの心情の変化を山崎は気が付いただろうか。
 たとえ気が付いても気が付かなくても、その真意はすぐに知れるのだからどちらでもかまわない。
 「ああ、さっきから言ってたね?何?いよいよ、東北に来てくれる決心がついた?」
 先ほどから続く興奮を抑えて無理にひねり出した笑顔は、どこか空々しく上の空で。
 もしかしたら、この降って湧いた巨大なビジネスチャンスの算段に頭が一杯なのかもしれない。
 自分の輝かしい未来を夢見て。
 つくしは一度視線を落とし、決然と山崎を見返す。
 「…ごめんなさい、東北にはついていけません」
 「……、え?」
 妄想と野心に煌めいていた山崎の目が、不思議そうに瞬く。
 「別れてください」
 両手をテーブルの上につき、深々と頭を下げる。
 さすがに、真っ直ぐと山崎の目を見る勇気がない。
 「…え?は?な…に、どういうこと?」
 呆けていた声がだんだんと震えを帯び、一度は鎮火していた憤りに山崎の声が堅く低くなる。
 「何の冗談だい?」
 「冗談…じゃないの。本当にごめんなさい。私と別れてください」
 頭を下げたまま懇願する。
 だが、いきなり思わぬことを言いだされた山崎にしてみれば、「はい、そうですか」と受け入れることができるはずもない。
 「俺が…なにかつくしちゃんの気に障ることでも…」
 「違うのっ」
 顔をあげた先、山崎赤と青のまだらに顔色を変え、言葉じりの殊勝さとは裏腹に憤りを隠せずわなわなと震えていた。
 今にも噴出した怒りが、その大柄な体から放射されそうな雰囲気に、わずかにつくしが怖気る。
 今までつくしの中で、山崎の温厚さばかりが印象に残っていたが、つくしの過去を知った名残か、それとも何か他に原因があるのか、今日の山崎はいつもとは違っていた。
 「山崎さんは、何も悪くないの。あたしがみんな…全部悪いの。本当にごめんなさい」
 「…理由も言ってくれないつもりなのか」
 「それは…」
 理由といえば、類のことに他ならない。
 先ほどから感じ始めた山崎への隔意はともかく、元々の発端は類意外にはありえなかった。
 だが、いま、それを正直に言うことに躊躇する。
 どういえばいいというだろうか。
 高校時代の交流を信じて、油断したあげくに、類と関係をもってしまった。
 たとえ、それが限りなく強姦に近いのだとしても、どの面晒してそれを恋人(曲りなりとも)に言えるのだろう。
 しかも、相手は本来つくしに手の届くような人間ではなく、雲の上の男。
 まともに言い募ったとしても、山崎が信じてくれるとは思えない。
 ましてや、今日一日で山崎に抱いていた幻想…まさにつくしにとっても幻想は崩れ落ち、本当のことを言えば、逆につくしが望んだことだと誤解されそうな気がした。
 花沢物産のエントランスを抜け出た直後に言われた言葉。
 『道明寺司の元カノ!…噂で聞いてるよ、そうとう女遊びの激しい男だそうじゃないか。そんな男と遊びだとは言え、付き合ってたなんて』
 なんの詳しい事情も聞かず、ただ有名な男が相手だったと知っただけで遊びだと断言した。
 あまつさえ、思わず遊びじゃなかったと否定したつくしに対して山崎が返した言葉は、『無残に捨てられて』。
 山崎にとって類たち高ステータスの男たちにとって、つくしなど本気で相手をするには値しない程度の女なのだ。
 それはある意味、世間一般の認識であって、山崎ばかりを責める筋合いではないのかもしれなかったが、つくしはショックだった。
 山崎のことが好きだった。
 司を愛するようには愛せなくても、一時は本気で結婚も考えていた。
 そんな山崎が、つくしのことを遊びで誰かと付き合い、あるいは弄ばれるのをよしとするような女だと思っていたなんて。
 …そして自嘲する。
 今まさにつくしはそんな女ではないだろうか。
 どんな意図だか知らないが、類に陥れられ辱められ、逆襲することもできずにその影に怯えている。
 だが、少なくても司との間のことをそのように邪推されたくはない。
 司を蔑まれたくはなかった。
 だが、山崎に言えるべき言葉がない以上、ひたすら謝罪するしか道がない。
 謝罪して、別れを受け入れてもらうこと。
 それだけが、つくしのとることのできる道だった。
 「理由は…本当に山崎さんのせいじゃない。ただ、あたし自身がまだ結婚に向かえていなかったというか。家族のこととか仕事のこととか、何もかも中途半端で、今はまだ山崎さんについて東北に行ける状態じゃなくって…。いつになったらついていけるのかといえば、あたしの中に答えはなかったの。それなのに、ズルズルとこれ以上は…」
 どうしても曖昧になってしまう。
 山崎に会う前は、あれやこれやと理由を考えていたというのに、いざ彼を前にして、そして予定外の出来事の連続がつくしを動揺させ、思考を鈍らせたいた。
 また…山崎に対する不信感が、彼女の今回の『別れ』に対する認識を変えてしまったこともある。
 確かに山崎は悪くはない。
 だが、いま、類とのこと以外に、彼と結婚したくないという確かな想いも、つくしの中で育ちつつあったことも真実だった。
 「…結婚できないなんて、そんなの許せるはずがない」
 「ごめんなさい」
 「母や姉にも話した。上司にも仲人を頼んだ。会社でも俺が結婚するつもりだということは知れ渡ってるんだ」
 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
 ひたすら頭を下げ続けるつくしに、言い募る山崎の声はだんだんと熱を帯び…。
 ダンッ!
 突然、上がった打撃音に、ビクリとつくしは竦みあがった。
 たった今、テーブルに打ち付けた拳を握りしめ、山崎がヒクつく唇を嫌な笑みにかえる。
 「…そんなことを言って、本当は違うんだろう?」
 嫉妬に歪んだ男の顔は醜く、引き攣れて。
 「道明寺司の次は、花沢か?あの男を上手く釣り上げられたから、俺は用済みってわけなのかい?」

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