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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第三章 嫉妬①

昏い夜を抜けて072

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 眉根を寄せて怪訝そうな類の視線を感じて、つくしは俯く。
 5日間という日数は、もうすでにつくしの体に残っていた類からの暴行の赤黒い痕跡を薄れさせるのには十分だったのに、つくしの心には今なお生々しく傷跡を残し、消し去らせてはくれない。
 就業時間直後の玄関ロビーは、帰宅する社員たちでごった返し、秘書や数人の部下を引きつれた類とつくしとの間の生け垣となっていた。
 そのまま彼が通りすぎてくれ、と必死で念じる。
 だが、いかにも社内の重役然とした、只ならぬオーラを宿した男がつくしを呼んだのだから、隣の山崎は俄然、いきり立った。
 「…つくしちゃん、上司の人?」
 「え、あ…いや」
 動揺も露わに、言葉を濁すつくしの様子も目に入らないのか、山崎は部下たちを置いて一人歩み寄ってくる類を興奮気味に迎え待つ。
 「すごい、花沢類だ」
 小さく呟かれた言葉に、山崎が類の素性を察していたことを知る。
 …それはそうかもしれない。
 山崎はこう見えても生き馬を抜く大手企業の営業マンだ。
 度々経済雑誌などにも載る、有名企業の御曹司の顔に無関心なはずがない。
 くしくも、『なにが縁になって仕事に繋がるかわからない』と言っていたのだ。
 「牧野…?」
 あまり興味もなさそうに、物憂げにチラッと山崎に視線を走らせた類に答え、つくしが何も言う暇もなく、山崎が大袈裟にお辞儀する。
 サラリとした一連の動作で名刺まで差し出しているのは、大したものだった。
 「こんにちは、初めまして。いつも、つくしがお世話になっています」
 「…あなたは?」
 「○ブンイ○ブングループ東北支社・購買推進営業部二課長、山崎正輝と申します。こちらの牧野つくしとは婚約している間柄でして」
 『課長』の肩書に、つくしの方が驚いて山崎を見返す。
 どうやら、これもサプライズの一つだったようで、見事昇進を果たした山崎の顔は誇らしげに輝いている。
 山崎の差し出した名刺を受取り、手に持ったまま、感情の見えないガラス玉のような類の目と、期待に満ちた山崎の視線に耐えきれず、類を紹介する。
 「…えっと、こちらは花沢物産花沢類専務、です」
 「お噂はかねがね!…こちらのような大会社につくしがお世話になることができたなんて、常々光栄なことだと思っていたんです。こちらのロビーも素晴らしく近代的で美しくて、中々一般企業ではこういう風にはいきません。やはり、世界の…」
 延々と続きそうな山崎のおべんちゃらに耐えられず、割入る。
 本来なら非礼もいいところだったが、類相手に今更礼儀や体面を気にする気になれなかった。
 「…あの、今日は定時で退社させていただきますので、これにて失礼いたします」
 つくしの紋切り口調に驚いたように、山崎が目を見張る。
 その山崎の背を押し、無理矢理引っ立てるように外へと踵を返す。
 山崎の方は、まだ類に自分をアピールをしたかったのか、眉根を寄せ不服そうだったが、切り口であるつくしが取り付く暇もないのではどうしようもなかった。
 「山崎さん、とおっしゃいましたね」
 「あ、はいっ!」
 類のひと声に、山崎がつくしの手さえも振り切って、類を振り返る。
 「…正輝さんっ」
 つくしは、とっさに山崎を引き留めようと両手で、彼の二の腕を掴んだ。
 悲鳴のように引き攣った彼女の制止の声にさえ、興奮に紅潮した顔の山崎は気が付いていない。
 類の顔は微笑んでいた。
 柔らかく、人を蕩かすような笑みで、つくしを…山崎を、他人を見つめ惑わして、欲しいものを手に入れる。
 「東北支社勤務の方だとか」
 「はい。つい先日、東京本社からの転勤で、栄転したばかりです」
 栄転、を強調するのは、山崎なりの矜持だろう。
 普通、東京から東北への転勤では都落ちをイメージされる。
 だが、元々東北に老いた母親を残し、そちらでの勤務を希望して、課長職への昇進を果たした山崎的には栄転だったのだ。
 だが、類にとってはそんな山崎の小さな自尊心などどうでもよい。
 ただ…。
 「牧野さんも隅に置けないな、そんな頼りがいのある婚約者がいたなんて。…では、つくしさんとは遠距離恋愛なんですね」
 「…ええ、はい。でも、近々、彼女も会社を辞め、私についてきてくれることになっていますし」
 つくしの許可もなく、いい気になって聞かれるままにとんでもないことを言い出した山崎に、つくしがギョッとした。
 確かに、先日、類とのことがあって会社を辞めようと一度は覚悟した。
 だが、実家の両親の状況や、山崎との決別を決意し、未来に関しては不透明になっている。
 もちろん、類のいいなりに唯々諾々と従うつもりはなかったし、その結果、不本意な状況で会社を辞めざる得ない方向へと追いつめられる可能性も否めない。
 それにしても、まだ何も本決まりになっていないことを、つくしの上司…遥か高みにいる会社の幹部に勝手に告げるなんて。
 つくしの心に冷たいものがすべり落ちた。
 類の表情には何の変化もない。
 「…そうですか、牧野さんは優秀な人なのでそれは残念です。当社でも重要な戦力となってくれていますしね」
 「はあ」
 山崎の方が今度は困惑したような、曖昧な笑顔で頷く。
 結局…○ブンイ○ブングループに対する担当として長くともに仕事をした山崎にとって、つくしの仕事は腰掛の領分にすぎず、正当な評価はなされていなかったのだと、今更ながらに悟る。
 ショックだった。
 ともに仕事をしている間は、さんざん、頼りにしている、任せられるのは君だけだ、などと甘い言葉で近づいてきて、それが単に、女性として興味があった相手へのリップサービスにすぎなかったなんて。
 山崎の腕を掴んでいた、つくしの両手が知らぬうちに外れ、ダラリと両脇に落ちた。
 「今日は、じゃあ、ご実家に帰られる?」
 「いえ、実家は東北なので、私はホテルに宿泊です」
 「メイプルですか?」
 「いやあ、そんな私なんかにはとても、とても。駅前のオリエンタル東京です」
 大会社の幹部とは思えない類の気さくな言葉かけに、つい山崎の緊張も緩み、問われるままに口が滑る。
 「…正輝さん、いえ、山崎さん行きましょう。お忙しい専務をこれ以上お引き留めしては申し訳ないわ」
 引き留めるもなにも、引き留めてるのはむしろ類の方で、あえてつくしは、お忙しい、というところに力をこめた。
 「かまわないよ、俺もこれからプライベートだから。俺も牧野達に当てられちゃったから、帰るつもりだったけどどうしようかな」
 ニッコリと邪気のない笑顔で、つくしに微笑みかけてくる。
 さすがにそれに騙される気になれなくて、いままでは一々赤面して見惚れていたつくしもスッと視線を外した。
 だが、つくしの屈託に気が付くような繊細な男ではない山崎も、類のつくしへの妙に親しげな態度が気になったのだろう。
 そもそも、『専務』などという会社の上級幹部が、つくしのような一平社員に直接かかわること自体不審なのだ。
 「…あの、失礼ですが、つくしとは?」
 「牧野とは、特別な関係」

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かすみ様

こんにちは。
花男サイトの管理人さんをされているとのことですが、今回どちらのサイト様であるか、連絡先についてご記載なかったので、公開にてお返事させていただきます。

先日、リンクフリーと記載されているサイト様について、当サイトにてリンクを貼らせていただいた件についてのお話について。

一部のサイト様のご友人とのこと、そのサイト様方がサイト自体を閉鎖したがっていたとお話でしたね。
そのため、リンクを外して欲しいとのご要望。
なるほど、かすみさんのご意見は承りました。
ただできましたら、いっそのこと、当該サイト主様である、あるいはそのように伝えるようにと伝言された等言い切っていただければ…と思いました。
リンクフリーだから貼ってもOKと安易に貼っていませんか?>とのことですが、申し訳ありませんが『リンクフリー』はリンクフリーです。
『リンクフリー』の定義についてわざわざここで説明することもないかと思いますので、書きませんが、サイト主さまが自分の意思表示をしてそう記載されています。
それを疑う理由は私にはありません。
もちろん、「すべてのリンクフリーを外せ」とかすみさんがおっしゃってるわけではないので、お知り合いであるという事の信ぴょう性は高いように思います。
ですが、「あるサイトの管理人である」、「当該サイト様の管理人さんと関わっているので私自身の本当のHNは語れない」と書かれているのみなので、あなたが実際誰なのか、私にはわかりかねず、また、当該サイトさまよりの依頼…という形ではなく、閉鎖されたがっていたのだから…とのこと。
日々、私もたくさんの方から良いコメント、悪いコメント…その中には私の書く話に対しての感想とはまったく関係ない事柄までさまざまなご意見をいただいています。

わたし的には、ご本人様の意思を無視してまで頑張り続ける気持ちはありません。
ですが、サイト運営をする以上、ある一定の方針をもっていなければ継続はできません。
そのため、いただくご意見はご意見として、あるいは忠告は忠告としてありがたく伺いますが、すべてのご意見をそのままお受けすることはできないということをご了承ください。
できましたら、当該サイト主様ご本人よりの伝言なりいただけるとありがたいです。

追伸…今回、公開にての返信となってしまいましたが、よろしければサイト名や連絡先などお教えいただければ個別に伺います。伺ったからといってそれを公開するつもりも、悪意を持つつもりもありません。あくまでも、当該サイト様への好意ゆえと承知しております。

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かすみ様

こんばんは。
丁寧なお返事ありがとうございます。
委細、承知致しました。
私には私の考え方もありますが、あなたの当該サイト管理人様方への真摯なお気持ち心に染み入りました。
もう一サイト様についての詳細は記載されていらっしゃいませんが、記載されている方の詳細な事情等をお書きになっていることから鑑みて、おっしゃるとおりにするのが良いだろうと判断いたしました。
ご依頼の件、実行いたしましたので、ご確認ください。

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