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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第三章 嫉妬①

昏い夜を抜けて071

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 電話は東北にいる母の千恵子からだった。
 司とのことが終わり、玉の輿の夢に破れて以来、父と母は東北の母の実家の近くに身を寄せ、父・晴男もなんとか定職につけていた。
 マンションの管理人で夫婦ともに住み込みで、給料は安かったが、それでも住まいが確保されているだけになんとか生活が成り立った。
 就職したつくしがわずかなりとも仕送りをし、大学生の進も奨学金とアルバイトで自活していたこともあり、昔のような激貧ということはない。
 それでもともすると甘い夢や誘惑に弱い父は油断ならず、何かと母もその愚痴を言うために電話してくる。
 はああぁぁ。
 つくしは内心溜息をつく。
 こんな気持ちの時に、母の下らない愚痴や繰り言を聞きたくはない。
 なぜなら、最後には必ず『あの時、あんたが道明寺さんと別れたりしなければ…』で括られることも少なくはなかったから。
 『…つくし?具合でも悪いの?なんだか、元気がないわね』
 それでも母親。
 つくしのどん底の精神状態をわずかなりとも感じるところがあるのか、心配してくれる。
 「…うん、ちょっと、風邪っぽいかな。実は、いま会社も休んでるんだ」
 『あら、真面目なあんたが珍しいわね。学生時代も、多少熱があるくらいじゃあ無理しても頑張ってたのに』
 「まあね。ここのところ、忙しくて有給もろくにとってなかったし。それより、ママ、どうしたの?この間も、電話したばかりじゃない」
 『…え、あ、うん』
 気まずく口ごもる。
 嫌な予感に、つくしの声が少し尖る。
 「何?ママ?どうしたのよ」
 『えっと、進はどう?ちゃんと勉強してる?』
 よほど言い難いのか話をそらし、先延ばしにしている。
 それでも、言わなければならないことがあるから電話してきたのに違いないのだ。
 「ママ!」
 少し強く叱咤すると…、一瞬黙って口を開いた。
 『えっとね、実は少しお金を融通して欲しいのよ』
 「お金?」
 先月は残業代がかなり出て、少し多めに送金したはずである。
 少し低くなったつくしの声に、千恵子が慌てたように理由を話し出す。
 『えッとね!貸してくれればいいの。実は、ほら、村坂の多恵ちゃんのところの子供が小学校に上がって入学祝をあげたじゃない?ちょっと次のお給料日まで生活が苦しくなって』
 「多恵ちゃんの子供って、そんなの何か月も前のことじゃない」
 『実は、あの時お金が足りなくって、義兄さんに借りたのよ』
 思わずため息が零れる。
 「お祝いなのにお金借りるって…もう」
 『…ごめんなさい。今月も、市松さんのおじいさんが入院しちゃったから。ほら…あそこのおうちには、パパの管理人の仕事を紹介してもらったし』
 「わかるわよ、田舎の近所づきあいっていうのは」
 何かと慶事だ弔辞だと、お金がかかる。
 その分こちらも貰うことがあるのだが、すでに成人しているつくしと大学生で頑健な進とではもらうより、出ていくお金の方が多い。
 それでも、両親には両親の立場というものがあるのはわかっているので、文句も言えない。
 「…いくら?」
 『えっと、10万円』
 「えっ?」
 せいぜい5、6万円だと思った。
 驚いて声をあげたつくしに、慌てて千恵子が訂正する。
 『いや6万!6万でいいわ』
 それでも少なくない金額だ。
 「まあ、今年は新調しようと思ったコートや、ブーツは諦めればいいかな」
 進にも就職を前に、卒業旅行など友達と出かける資金を用意してあげたかったのだが。
 「いいよ、10万円送る」
 『必ず返すから』
 親の申し訳なさそうな情けない声は、逆に身に応えるものだ。
 「いいって、返さなくって。そのかわり、ボーナスはあんまり送れないかも。進の就職でスーツとかも用意してあげないといけないし」
 『うんうん、わかってる。ごめんね、つくし』
 「じゃあ、明日振り込むから」
 一通り、世間話をして、少し明るくなった母親の声に少しだけ安堵して電話を切る。
 だが、母親の安堵した声とは裏腹に、つくしの気持ちはなお暗澹たるのを抑えられなかった。
 電話をかけてきた時の、動揺して上擦った母の声が、耳を離れない。
 …いま、会社を辞めるわけにはいかない。



 週末の金曜日。
 結局、山崎とは簡単なメールのやり取りしか連絡がとれなかった。
 さすがのつくしもメールのやり取りだけで別れ話をできるものではない。
 本来だったらつくし自ら東北の山崎の元まで出向き、きちんと別れ話をしたかったが、こちらに上京してくるという山崎を待って話し合うしかない。
 ただでさえ、まったく罪のない山崎に対して重大な裏切り行為を告白して、ひどいことを宣告しなければならないのだ。
 それを何も知らせないままに、こちらに呼びつけるような形で別れ話をしようとしていることが心苦しく、申し訳ない。
 かといって、何食わぬ顔で山崎と一夜を過ごし、ズルズルと関係を引き延ばすことなどできようはずもなかった。
 明日の決戦を考えるととても仕事が手につかず、かといって数日休んだだけにどうしようかと悩んだものの、風邪だと信じる同僚たちが今日は早く帰れと、残業を免除してくれた。
 それがありがたく、また、いざ類を突っぱねた時に、彼の起こすアクションの引き起こす結果が恐ろしい。
 この、時には嫉妬や羨望で嫌味を言ったり足を引っ張ったりすることもあるが、基本善良な上司や同僚たちが、類の巻き起こす事柄で、つくしに対する態度をどのように変えてしまうのか。
 嘲りか、軽蔑か…それとも。
 嫌な考えは極力振り払い、定時を少し過ぎてエレベーターを下る。
 …と、エレベーターから降りた途端、
 「つくしちゃん!」
 長身の大柄な男が、ロビーで椅子から手を上げながら立ちあがった。
 「…正輝さん?」
 半信半疑ながら、間違えるはずもない。
 明日、東京にやってくるはずの山崎が、ビジネスーツのままニコニコと微笑みながら歩み寄ってくる。
 「どうして?明日来るはずじゃあ…」
 「言っただろ?一日でも早く会いたいって。つくしちゃんが遠慮するから、内緒で今日の新幹線で来たんだよ。今週いっぱい無理しまくったから、午後は半休取れて、今さっきついたところ。驚かそうと思って、黙ってきちゃったんだ」
 照れて頭をかく男の顔をぼんやりと見上げる。
 新たに到着したエレベーターの開閉音に続き、ロビーがざわつき始めた。
 「…これから?面倒くさいな。適当にお前が丸め込んできてよ」
 「さすがにそれは」
 「ちょっと何回か付き合ったくらいで、もう婚約者気取りは迷惑…」
 背中に冷や汗が流れる。
 振り向くのが怖い。
 「…つくしちゃん?」
 「牧野?」

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