FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第三章 嫉妬①

昏い夜を抜けて053

 ←新しい朝が始まる07~夢で逢えたら番外編 →新しい朝が始まる08~夢で逢えたら番外編
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「類さん?」
 怪訝に呼びかけられて、ショーウィンドーの向こう側を透かし見ていた類が、目を瞬かせ、無表情に相手を見返す。
 透明でほとんど色がないのではとさえ思わせる硬質な視線に女がたじろいだのを見て取り、類がうっすらと微笑む。
 ホンの唇の端を上げただけで、印象がガラリと変わっていつものようにただ甘く、美しくただ眩いばかりに女の目に映った。
 「どうかなさいました?」
 「…いや、なんか視線を感じた気がしたから。…気のせいかな」
 冷たく微笑む…そんな類の表情にさえも感嘆し、女も負けじと自分にできうる最も美しい笑みを意識して作る。
 「すっかり買い物にお付き合いさせてしまいましたわね」
 「いや。何か気に入ったものでもあった?」
 類の態度はどこまでも社交辞令的、礼儀正しくもあくまでも他人行儀なものではあったが、見合い後の初めのデートではこれも至極当然のことだろう。
 それに対して、女…高坂美也子にはなんの不満もなかった。
 女ならどんなリアリストな女も見惚れずにはいられない、まるで童話の王子様そのままに童話の世界から抜け出したてきたかのような美貌の青年。
 そればかりか、その名も名高い花沢物産の御曹司で、仕事の面でも若いながらに高評価を得ている。
 美貌・家柄、財産、その他、もろもろにおいて類ほどのステータスを持つ男はそうそういなかった。
 美也子も学生時代F4に憧れていた一人だ。
 一時期は道明寺司のシンパだったこともあったが、彼は西門総二郎や美作あきらとは異なり、美也子のようなセレブ出身の令嬢たちにも少しも靡かなかった。
 そんなつれないクールさに執心していたこともあったけれど、類が婚約者と破談となりそのお鉢が回ってきたときには天にも昇る気持ちだった。
 あのF4の一人と結婚できる。
 司とはタイプは違うが、劣らぬ男。
 誰に対しても自慢となり、彼以上の男性を捕まえることのできた女友達は一人としていない。
 先日お見合いを果たし、いまのところ婚約にまでは至っていないが、両家の示唆でさっそく今日、類のエスコートでショッピングへと来ていた。
 この先も何度かのデートが『家』によってセッティングされている。
 腕に軽くかけた手を、反対側の手で柔らかく外され、目の前のソファへとエスコートされる。
 どこまでも優美でスマートな類の仕草にうっとりと見惚れながら、絶対にこの人と結婚したいと強く願う。
 「高坂さん?」
 「あ、ごめんなさい。私ったらぼうっとして。なんでしたかしら?」
 恥じらうふりで、唇のニヤニヤ笑いを隠す。
 「気に入ったものはあったか、と」
 問われて、自分が何のためにこの店に入ってきたのかを思い出し、グルリと店内を見回す。
 揉み手の支配人に視線をあて、
 「そうね…そこのマヌカンが着ている服の色違いはないのかしら?あの色だと私の肌色には合わないわ」
 依頼する。
 もちろん、上得意のカップルに、支配人は揉み手で美也子の希望に添い、次々に煌びやかな衣類を眼前へと広げた。
 「…垢抜けないわね。どれも見たようなデザインばかり」
 「いえ、どれも最新のモードばかりで」
 「あら、私の審美眼を疑うの?これは、エルメスの新作に襟ぐりのあたりが似ている。こっちはヘンリー・プールかしら?こちらはラインがハイツマンを思わせるわね。こんなんじゃあ、サロンの友人たちにバカにされちゃうわ」
 癇性に眉根を寄せ、憤懣やるかたないように唇を噛みしめる。
 「去年はとても素敵な品ぞろえだったから、今年も…って思ってたのに。私は私だけのオリジナリティが欲しいの!…こんなことじゃあ、友人たちや従妹たちに紹介したのも間違いだったと言わざる得ないわね。来月の誕生パーティからは来ていただかなくてもけっこうよ。別のブランドにドレスはお任せするわ」
 美也子の言葉に、支配人の顔色が青黒く変色する。
 「お、お待ちを!来週までに、お嬢様のお気に召すデザインをすぐに専属デザイナーに起させ、早急にお見せいたしますので!」
 「…来週?」
 美也子の唇がピクリと引きつる。
 「明後日の母校の同窓会で着るお洋服をお願いしているのに、来週ですって!」
 何も聞いていなかったのに、責め立てられて支配人が平謝りに美也子へと追いすがる。
 「お嬢様!」
 「行きましょう、類さん。バカにするのもほどがあるわ」
 支配人へと見せていた傲慢な態度が嘘のように、にこやかで優しげな笑みで、類へと美也子が振り向く。
 「ふわわわぁぁぁ」
 思いっきり欠伸をした類が眠そうに、目元を擦った。
 そんな子供のようなしぐさでも、彼がするだけでまるで気まぐれなシャム猫のような美しさと気高さで、美也子の毒気を抜いた。
 「…ん?終わった?」
 「え、あ、ええ。終わりました。…違うお店にもおつきあいいただけますか?」
 「ん…。俺、この後、予定あるし。そこの服」
 類が支配人に顎で指し示す。
 「は、はいっ」
 上得意を失う失態に顔色をなくしていた支配人が類の声掛けに、直立不動で答える。
 「そこの服の色違い、それに、そこの小物、あと、そのボレロかな。彼女のサイズで一式もってきて?」
 「…類さん?」
 「それ、確かにヘンリー・プールの新作に似てるけど、こういう色はあそこはまず使わないし、こっちのこの小物と合わせるとずいぶん印象変わらない?」
 「…ええ、まあ」
 「このデザインなら、華やかな美人のあんたには似合うし、イメージ違うかもしれないけど、逆に新鮮でいいんじゃないかな?」
 類に言われるとそんな気がする。
 実際、類自身のセンスがいいのは、彼の服装から推察できる。
 類に勧められ、さらに『華やかな美人』と評価されて、とたんに機嫌を直した美也子が上機嫌に勧められた衣類一式を購入する。
 どうやら、美也子の腹立ちまぎれ、気まぐれな憤りの言葉は撤回されそうだと、罪のない支配人は胸を撫で下ろした。



 美也子の買い物の代金のすべてを類が払い、店を出ると早々に車を呼び、美也子を帰路につかせた。
 車に乗せると、リムジンの後部座席の窓をあけ、美也子が自分に酔った演出で嘘くさく目を潤ませて類へと懇願する。
 「…今日はとても楽しかったです。また、会ってくださいますよね?」
 「たぶん。家の方で、次もどうせセッティング済だと思うし。あんたの都合はいい?」
 「ええ!もちろんです。今度はぜひ、パーティでのパートナーもお願いしますわね」
 計算された美しい笑みを浮かべ、手を一振りすると、窓を閉め、美也子の車が発進する。
 類もいつまでもそれを見送るほど酔狂ではなかったから、さっさと踵を返す。
 コキコキっと首を回し、肩をほぐす。
 肩が凝ったというより、眠かった。
 …それに、ほとんど印象に残らない女だったが、やたらと化粧品と香水の匂いのキツイ女で、類の目にはその真っ赤な人食い人種のような唇ばかりが記憶に残る。
 そういえば、あの女、一言も礼を言わなかったな。
 令嬢と言われる種類の人間の中では珍しいことではなく、また女性の支払いを持つのは当然のことという教育を受けてきた類にとってもいままでは別段おかしなことではなかった。
 だというのに、今日はふと思い立つ。
 その原因に思い当たって、類は唇の端を緩める。
 人から見れば、類の柔らかい表情の形作る美しさに見惚れずにはいられなかっただろうが、ただ一人類だけは、自分のそんな顔に気が付いていなかった。

◇交流・意見交換 『こ茶子の部屋』へ
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ

↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2


関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【新しい朝が始まる07~夢で逢えたら番外編】へ
  • 【新しい朝が始まる08~夢で逢えたら番外編】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【新しい朝が始まる07~夢で逢えたら番外編】へ
  • 【新しい朝が始まる08~夢で逢えたら番外編】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク