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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑②

昏い夜を抜けて048

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 「え?…ぁ、やだっ!」
 突然抱き寄せられ、つくしは両手で類の胸を突っぱって身を強張らせる。
 けれど軽く抱きしめられただけで、すぐに類は両手をパッとあげて、つくしを解放した。
 「…え」
 「今日は、これだけ」
 にっこりと綺麗に微笑む。
 変に抵抗してしまったつくしの方が、キョトンと類を見上げて拍子抜けをする。
 強引だと思うとそうではなく、こちらが勢いに驚いて殻に閉じこもろうとすると、あっさりと引いてゆく。
 …ボウッと類の胸もとを見ていて、彼のスーツの上着の襟についた口紅に気が付いた。
 「あ…どうしよう、口紅」
 抱き寄せられた時に、つくしの口紅が移ってしまっていた。
 言われて襟に手を当て、類はそれを軽く指先で拭う。
 「ああ、別にいいよ。もう、今日は帰るだけだから」
 つくしにとって給料何か月分だか知れない高級紳士服も、類にとっては何十着も持っているうちの一着でしかないのだろう。
 もしかしたら、クリーニングにさえ出さずに捨ててしまうのかもしれない。
 複雑な気持ちで、さっさと自分の襟についた汚れから興味をなくす類を見ながら、フッとずっと気になっていたことが零れ落ちてしまった。
 「あんたはどうなの?」
 「?」
 「静さんとのことは、あんたにとってはなんだったの?」 
 『あんたには関係ない』…と昔のように怒鳴りつけられるかと思った。
 あるいは、いつもの飄々としたからかう口調で、『気になるんだ?』と揶揄られるかと。
 けれど、類がとったのはそのどちらでもなくって、一瞬でガラス玉のようになってしまった目の無機質さに、聞いたことを後悔してしまった。
 類が見せた生の感情は、ホンの一瞬…まさに、つくしと再会してから今が初めてのことだったのかもしれない。
 まだ、前回つくしが尋ねた時のように、サラリと流してくれれば、類の中で静は美しい思い出と変わっていたのだと信じられたかもしれなかったのに。
 類はつくしから顔を下界へと移し、ポツリと呟く。
 「…なんだった、か。俺にそれがわかればね」
 今もなお開いた傷口からドクドクと流れる、類の心の傷が生々しくつくしに突き付けられたようで、つくしはそれを知りたくも、見たくもなかった。



 ブー、ブー、ブー。
 低いバイブの音に、ふっとつくしが気が付き、懐を探る。
 けれど、それはどうやらつくしの携帯からの音ではなくて、類の方だったらしく、携帯画面をチェックして、すぐにまた懐へと戻していた。
 「電話でしょ?いいよ、出なよ」
 「いや、メール。別に後でいいよ」
 「でも、急な仕事の呼び出しかもしれないし…」
 相手は多忙な花沢物産専務様だ。
 あっさり申し出を断られても、つくしの方が気になってしまう。
 その様子を見て取り、類が小首を傾げる。
 「俺が平気って言ってるんだから、あんたが気にしなくてもいいのに。単にプライベードのメールだよ。普通、デート相手が違うことに気を散らしたら、女の方が機嫌悪くするもんでしょ?」
 いかにも女に手慣れた台詞を吐く類の方がよほど嫌だったが、それを言えた立場ではないし、そういう女と一緒にされるもの心外だ。
 「…時と場合によるでしょう。仕事とプライベートは別だよ。つーか、えっと、これってデートっていうか、あたし的には感謝の意を表した友達付き合いの延長っていうか…」
 自分で行ってて論旨が通ってなくてシドロモドロになる。
 感謝の意を表したも何も、今日は類の車でここまで来たし、そもそも礼をするべきつくしの方が類にご馳走されてしまっている。
 払いたくても類の方が払わせてはくれなかったし、そもそも一食、ここの店っていくらなの?…という世界でおいそれと申し出るのも勇気が言った。
 …御礼は次回に改めてしよう。
 すでに、次回を設定してしまったいる自分に気が付かない。
 「ふうん、友達付き合いね。まあ、いまのところはいっか。親の仇を見るみたいに睨まれていたここのところに比べれば、一歩前進かな」
 「……」
 そもそもの原因は自分にあるのを忘れているような口調。
 ジト目で見返すつくしに、フッとからかうような視線をあて、自分の唇に指先を這わせる。
 「キスも貰ったしね」
 「ぎゃあああああぁぁ」
 「はははは!」 
 思わず両頬を挟んでムンクの叫び状態に悲鳴を上げるつくしの珍妙な様子に笑い転げながら、久しぶりに本当に類は楽しかった。


 「…あの、じゃあ、今日はありがとう。ご馳走様でした」
 だいぶつくしとの壁が氷解し、親しみがUPしたと思うのに、車で送ってもらって深々と頭を下げるつくしは、他人行儀のままに律儀だった。
 それでも上気した頬や、嬉しそうでにこやかな微笑みは、酔いのせいばかりではあるまい。
 「いいよ。感謝してくれるなら、また付き合ってよ」
 「…あ、うん。今度はあたしが奢るね。あんたたちが御用達にしているような高級レストランは無理だけど」
 「いいのに、そんなの気にしなくて」
 「気になるの!」
 言いつのられて、軽く肩を竦める。
 「わかった、楽しみにしてる。じゃ、見送らなくていいから、もう行って?じゃあ」
 めと鼻の先のアパートへと顎をしゃくり、車へと再び乗りこむ。
 「うん」
 そう言いつつそこから動かないつくしに、苦笑して、運転手に車を発進させた。
 いつまでも類の車が曲がり角に消えるまで、見送るつくしにはもう一顧だにしない。
 先ほど入ったあきらからのメールの着信は、待ち合わせの場所の変更と総二郎の欠席が書かれていた。
 一人になると、もう何年も脳裏に思い浮かべることを自分に禁じていた女の面影がふいに蘇る。
 焦がれて、焦がれて…もうまるでその焦燥が自分の一部のように彼を苦しめ続けたたった一人の女。
 つかのまの天国のような日々を味わっただけに、その飢えや絶望はより深くて。
 『…静さんとのことは、あんたにとってはなんだったの?』
 つくしに問われ、とっさに思い浮かんだ答えが自嘲とともに再び浮かび上がる。
 「すべてだった」
 夜のしじまの孤独を耐える類の脳裏に木魂する女の笑い声は、幼い日の静の声のようにも…自分を嘲笑う賢しげな女の声にも思えた。

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