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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑②

昏い夜を抜けて047

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 「え?」
 聞き取れなかったわけではないのに、つくしは聞き返していた。
 むしろ、聞かなかったふりで、スルーしてしまいたかったのに、悪戯っぽい笑みを浮かべた類の目が、けっして笑っていなくて冷たいのに内心ひそかに怯える。
 その怯えを感じ取ったのか、じっとつくしへと当てていた視線を外し、類が手すりへと手をかけ夜景を見下ろす。
 「…一度、聞いてみたかったんだよね、あんたに」
 「何を?」
 あまりに類の声が真剣だったから、続きを話したいとも、いまさら司の話題を話し合いたいとも思えないのに、問い返してしまったのかもしれない。
 「あんたにとって、司とのことはなんだったのかな、って」
 「……」
 「あんた、高校生の頃、俺のことが好きだったよね?司じゃなく」
 「…知ってたんだ」
 それとも、憶えていたんだ?…と聞くべきか。
 俯いたまま、自嘲の笑みがつくしの顔に浮かぶ。
 「まあ、そりゃあね。…普通、わかるでしょ」
 そりゃ、そうか。
 一人ごちる。
 それほどあからさまにしていたつもりは、当時の自分にはなかった。
 でも考えてみれば、他人から見て一目瞭然のことだったのだろう。
 つくしによく嫌がらせをしていたお嬢様3人組…浅井達も知っていたし、司も知っていた。
 一番自覚していなかったのは自分で、話を聞いているだけの優紀だってわかっていたのだ。
 たぶん、態度から、視線から、…その行動から、類が好きだと言っていたのだろうな、と思う。
 初心な少女の初恋。
 隠そうなんて思う余裕もなかった。
 「なんで、司だったの?」
 「…なんでって」
 おかしなことを聞く。
 居た堪れない思いを忘れ、つくしは俯けていた顔を上げ、怪訝に類を見返した。
 だが、類は夜景を見下ろすばかりで、つくしへと視線を向けてはいない。
 その眼は、夜景ではなく、何か遠い深淵を覗いているようで。
 「道明寺は…当時もモテてたけど?」
 なんで、などと問われるような男じゃない。 
 誰もが憧れ、本人もそれを当然ととらえていた。
 唯一の例外がつくしだったわけだが、それにしてもなんで…とはどういう意味だろう。
 「モテてた…ね。あいつのステータス?見た目?金?」
 「何それ」
 「女が俺らに求めてるのって、そういうのでしょ?」
 否定はしない。
 けれど、なぜ、つくしに類がそれを問うのか。
 つくしが類を好きになったのは違う理由だったけれど、司に惹かれたのはそんなことではなかったけれど、だからといって類には何の関係もないことなのに。
 「それなら、あいつに勝る男なんていないはずだ。なのに、なんであいつと別れたの?別れるくらいなら、どうして付き合ったわけ?」
 「……」
 もちろん、付き合った理由も別れた原因もつくしの中でいろいろある。
 語りだしたら一晩では語りつくせない様々なことがあったのだ。
 だが、それを類に言いつのらなければならない必要性をつくしは感じなかった。
 どうしてそんなことを類が聞きたいのかさえわからない。
 ただ、簡単に言うなれば…。
 「縁がなかったんだよ」
 「縁?」
 「…そう。もともとあいつとあたしは全く違う世界の人間で、本来交わるはずがなかった二人だったんだよ」
 「…だって、好きだったんじゃないの?」
 「好き…だったのかな」
 もちろん好きだった。
 けれど、こうして別れてしまった今となっては、その気持ちさえも意味のないものだったように思えてしまう。
 好きだと言われて付き合って、好きだと言われたのに別れてしまった。
 司の熱い情熱に押し流されるように付き合って、結果、つくしは彼が自分を想ってくれるほどに彼を想うことができたのかさえわかっていなかった。
 「好きだとあたしは思ってたけど…そうだね、もしかしたら思春期の勘違いってやつだったのかも」
 曖昧に呟くつくしをチラッと見て、類がつまらなそうに尋ねた。
 「司が婚約したの知ってるんだよね?」
 「まあね。有名な男だし、テレビでもニュースとかで婚約発表のことはやってたもん」
 「どう思ったの?…取り戻したいって思わなかったわけ?」
 つくしは類の横顔をジッと見つめる。
 戸惑いと不審を抱きながら…。
 だが、相変わらず、何を考えているのか類の表情からは到底、窺い知れない。
 ただ、彼が心の奥深くに昏い何かを抱えていて、その答えをつくしの中に探している気がした。
 けれど、それがなにかわからないのだから、つくしも自分の中の深いところにある傷を曝け出してまで、類の知りたい何かを教えることなどできようはずもない。
 だから、この数年間、問われれば答えてきた表向きの返事を返す。
 「もう、何年も前のことだよ」
 「何年も前のこと?」
 「…まあ、そりゃあ、一時期は彼氏彼女って感じで、付き合ったこともある相手だし。多少寂しいっていうか、複雑な気もしたけど、ね。…もう、あたしの道明寺じゃないんだなあ、とか?」
 類の透明な目が、つくしの真意を探ろうとか、凝視してくるのに耐えられず茶化して誤魔化した。
 「…なんちゃって。さすがに、柄じゃないよ。そりゃないかな~ははは」
 楽しくもないのに、冗談めかして笑う。
 類はニコリとも笑ってはくれなかった。
 「それで?あんたにとっては、それだけのこと、だったってわけ?司と他の女がくっついても何も思わなかったって?」
 「それだけって。だから…お似合いだなとかは思ったけど」
 不思議なデ・ジャブ。
 類になじられている気がするのはなぜだろう。
 そして、そうしてなじる類を見るのが初めてじゃない気がするのはなぜ?
 類の顔がふいに、歪んだ。
 「ぷっ、くくく」
 「……」
 「あははは!」
 「花沢類?なんで、笑うの…?」
 乾いた笑い声がちっとも楽しそうじゃないのに、類は笑い続ける。
 乾いて冷たい何かを含んだその声の歪さに、つくしがたじろいでいるというのに、いつまでも。
 「花沢類っ!」
 それに耐えきれなくって、つくしが怒鳴りつける。
 「悪い、ちょっと思い出し笑い」
 眉根を寄せて睨みつけるつくしに、振り返った類が肩を竦める。
 まるで映像をオンとオフに切り替えたように、一瞬で類の様子が切り替わった。
 その玲瓏とした顔にはまだ薄らとした笑みが浮かんでいるけれど、その笑みがどこか胡散臭く、まるでつくしを拒絶しているようだ。
 「ホント、別になんでもないんだ。たださ、女ってみんな同じなんだなって思って」
 「同じ?」 
 「愛想振りまいて誰にでもいい顔して、被害者面で要領良くこなしてさ。気まぐれで男を傷つけても、アフターケアはなし」
 「…そんな、なんで」
 顔は笑っているのに憎々しげな声音が、まるでつくしを憎んでいるかのようで、つくしは軽いショックを受ける。
 けれど、類のビー玉色の目はつくしを映していなかった。
 目の前にいるのに、つくしを映さず遠い誰かを見つめている。
 「あたしが…道明寺を気まぐれで傷つけて捨てたって言いたいの?」
 それでも震える声に怒りを込めて、つくしがギッと類を睨みつける。
 何も知らないくせに。
 つくしの憤った声に、類が我に返った。
 「いや…ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ。ちょっと失言。たださ、なんか、あんたを見てたら急に思い出したんだよね、昔のこと」
 「昔のこと?」
 「ん。結局、あんたにとっての司も、静にとっての俺と同じってことなのかもしれないな、と思ってさ」
 「は?」
 眉根を寄せるつくしに、類が緩く首をふる。
 「別に、あんたには関係ないことだよ。気を悪くしないで?」
 気を取り直したような類の様子に、つくしも目を瞬かせ、気持ちを切り替える。
 「…別にいいけど」
 類の屈託が何であろうと、つくしには彼の深淵に近づくつもりは毛頭なかった。
 司の時のことで、もうつくしは懲りている。
 身の丈に合わない相手に惹かれるほど、もう若くはないのだから。
 それでも、暗く淀んだ類の目は、ここにいない誰かを憎んで、とても哀しそうだとつくしは思った。
 「…まあ、要するにあんたにとって、もう司は完全に過去のことってことなんだよね?」
 「そうだって、最初から言ってるでしょ」
 「じゃ、遠慮しなくていいよね?」

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