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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて043

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 『でも、やっぱり専務、すごくつくしちゃんのこと気にかけてるんだね』
 かなえの言葉が、何度も脳裏に蘇る。
 珍しく就業前の一時、ぽっかり空いた仕事と仕事の合間に、パソコンの画面を見ながらボウッと物思いに耽ってしまった。
 まったく仕事がないわけではない。
 けれど、切羽詰まった案件はあらかた片づけ、返事待ちや結果待ちの案件ばかりで特に急ぐものがない。
 それならそれで早く帰ればいいのに、夕刻の時間に聞いた憶測が頭を離れない。
 『たぶん、専務の指示だよ』
 そう言い出したのは、眞子だった。
 直接、対策を講じたのは疑うべくもなく高階だっただろうが、その後の処置や迅速さに高階レベルでは行えない施策が見え隠れする。
 そうした社内でのゴタゴタ…それも取引相手に損害を与える可能性のあった事件は、花沢のような大企業にとっても困った不祥事だ。
 万が一他社に洩れることがあったら信用問題に波及する。
 それを思い切った方針で捜査を行い、迅速に解決、処分まであっという間だった。
 課長クラスが一存で行えることでもなく、かといって類以外の人間が担当した場合、下手をすれば加害者の金城ではなく、安易に被害者であるつくしの方を犠牲に面目を保った可能性も高い。
 会社幹部の縁故で、自社の正社員で男性社員の金城より、外部の人間で、女性社員のつくしの方が切るのに容易だったはずだからだ。
 つくしのもともと所属する会社フレッシュラインは、花沢物産にしてみればひねりつぶすのも容易い規模でしかない。
 そうとなれば、フレッシュラインとて、平社員の一人や二人庇いだてしてくれるはずもなかった。
 「…じゃ、お先に」
 「お疲れ様」
 「お疲れ~」
 斜め向かいの同僚の帰宅する声に、目を瞬かせ、つくしも我に返る。
 こんなんじゃ、やっぱりダメだ。今日は早く帰ろう。
 思い切って帰ることにする。
 どのみち集中できないのでは、時間を無駄にするだけで、会社にとっても自分にとっても何の益にもならない。
 「あたしもお先に失礼します」
 誰に言うともなく挨拶すると、あちらこちらから、労う声が答え送り出してくれる。
 今日は、夜からの特売になんとか間に合いそうだった。



 「…あ」
 音に聞こえた一流企業らしい瀟洒なエントランスをでたところで、ちょうど帰社してきたらしい一群に出くわした。
 一目でハイクラスと分かる高級ブランドスーツを優美に着こなし、自分の父親ほどの年齢の2,3人の管理職と秘書を従えている中心人物は類だった。
 「牧野?」
 できれば気が付かれたくなかったけれど、声をかけられた以上無視をするわけにはいかない。
 軽く会釈をして道を開けたのだが、当の相手が歩み寄ってくるのでは仕方がない。
 「今、帰るとこ?」
 「はい。専務は…」
 つくしが聞き返したのはあくまでも社交辞令だった。
 だが、類は律儀にその問いに返事を返す。
 「俺は外出先から戻ったとこ」
 「…それはお疲れ様です」
 興味津々な類の連れたちの視線が痛い。
 心なしか、これが類と噂になっている女か、と色眼鏡で見られている気さえする。
 よもや女子社員たちの根も葉もない噂話を、社の幹部たちが知っているとも思えないが、あるいは幹部だからこそ社内の隅々まで、把握されていても可笑しくはないのかもしれなかった。
 類が背後を振り返って、そっけなく言い置く。
 「遠藤、俺、このまま直帰するよ。さっきの件は、明日までにまとめておくように、安西部長に指示しておいて」
 類の指示に、連れだっていた幹部たちは顔を見合わせ眉根を寄せてはいたが、秘書らしい男性が一礼して素直に従うのに追従する。 
 「では、お疲れ様です」
 「うん、明日は迎えに来なくていいから」
 「はしこまりました」
 なんとなく一行が通り過ぎるのを会釈しつつ、見送り、類と二人取り残される。
 「…えっと、じゃあ、あたしも帰ります」
 「うん、そうだね。と、もしかして今日は週末か」
 普段は不夜城に近い社内の光が、いつになくポツリポツリと消灯しているのを見上げ、類が目を細める。
 「なら、明日は牧野休みだよね?」
 「…ええ、まあ」
 おそらく一般社員のサイクルとは違う類は、そうではないだろう。
 しかし、そのことには特に頓着した様子もなく、類はいかにも高そうな高級時計に目を落とした。
 「まだ、19時ちょっと前か…けっこう早いね。デートしよう、牧野」
 「…は?」
 唐突にスラッと言われた言葉に、一瞬頷きかけて、目を剥いて類を見返す。
 「たまにはいいでしょ?あんまり呑ませたりしないから。…綺麗な夜景を見て、俺のお勧めのレストランで美味しいディナーなんかどう?ちょっと時間的に遅いけど、凄腕のパティシエのケーキが絶品だよ?今確か、クープ・デュ・モンド(パティシエ・コンクールの最高峰)で今年三位になったフランス人が招かれて、期間限定のメニューを担ってるんだ」
 類御用達の高級レストランと聞くと敷居が高くてかなり躊躇するが、クープ・デュ・モンドでの入賞者の特別メニューと聞いては、洋菓子を扱う会社の社員としては職業意識が大いにくすぐられる。
 しかも、そんな高級レストラン、類の同伴でもなければ行く機会があるとも思えないし、他に行ってくれる人間の心当たりはないでもないが、誰もが多忙でそうそう誘う気にもなれない。
 おそらくそんなつくしの心情を、類は計算して誘ったのだろうが、…その時のつくしは、頑なに断る気になれなかった。
 そして類もそんなつくしの気持ちの変化を敏感に感じ取っている。
 「…行くよね?」
 「あまり、遅くならないなら」
曇り空から覗く春の日差しのようだ。
 いつもはそんな風につくしには大盤振る舞いに向けられる彼の笑顔を、どこか胡散臭いものに感じていたのが嘘のように感じ入らせた。
 …もう、王子様に憧れる初心で一途で…バカみたいに純粋な少女なんかでは絶対にないのに。
 それなのに、その笑顔に魅せられ、あの幼い初恋を抱いていた日のように、もう一度だけその笑顔を見せてくれさえすれば、と何物にも代えがたく思ってしまいそうだった。

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