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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて040

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 ブー、ブー、ブー。 
 それなのに、もう一度入ってきた着信を知らせるバイブの震えに、足が止まる。
 無視して行きたいのに、無視しきれない。
 …どうしよう。
 「待ってるのに、黙ってシカトするのはダメだよね、やっぱり」
 そう思い当たって、再び携帯電話を手に取った。
 「…あ」
 山崎だった。
 何も疚しいことなどないはずなのに、その名を見た瞬間、脳裏に類の顔が思い浮かんで携帯を持つ手が狼狽に固まってしまう。
 けれど、放置しておけばまたとれないままに着信が切れていまい、後味の悪い罪悪感に苛まれるのは自明の理だった。 
 「…はい、つくしです」
 『つくしちゃん、良かった』
 「正輝さん」
 『いま、家?』
 「あ、ううん。職場の歓迎会で居酒屋」
 ドキドキとなる動悸は、久しぶりに声を聞く恋人ゆえにではないことがどこか疚しい。
 山崎はいつもの山崎だった、陽気でおおらかで優しくて…。
 かつて夢見た平凡な結婚…を思う時、その隣に山崎なら自然にイメージできる。
 それなのに、待ってくれているのに山崎のプロポーズに対するよい返事ができない。
 久しぶりの電話はつくし的には幾分かぎこちない受け答えになってしまっていたが、電話の向こうの山崎はそれに気が付かなかったらしく、以前とかわらず仕事のことやら自分の近況を話し出す。
 つくしもけっしてしゃべらない方ではない…どころか、かなりしゃべる方だというのに、酔いも手伝って、なんだか話題を探すのが億劫だった。
 『…つくしちゃん、仕事、そんなに忙しいの?』
 「え?」
 『元気ないじゃない。最近、全然電話でてくれないし』
 「…ごめんなさい。できるだけ、あたしも電話入れようとしてるんだけど」
 『うん、それはいいよ。俺もせっかく折り返し電話もらっても出れないことが多いし。つくしちゃんも、会社変わったばかりで仕事、大変なんだろ?』
 …大変、仕事が大変なのは本当だ。
 だが、いまのつくしの疲労は仕事よりも違うところからくるストレスが大半だ。
 けれど、それをつくしは山崎には知らせてなかった。
 もともと、自分の悩みは自分で解決したい性格で溜め込む方だ。
 それでも、学生時代…高校生の頃は親友の優紀になんでも相談できた。
 しかし、司の母親のことが原因で優紀に迷惑をかけ、それを解消するために司と別れることになって以来…優紀とは疎遠になっていた。
 あの当時、つくしはわかっていなかった。
 だから友人たちへの義理立てばかりを躍起になって、自分を好いてくれた司のことを理解せず、安易に別れを選んで傷つけたばかりか、そうすることで大切な友人たちをも苦しめてしまった。
 自分たちのことが原因で司と別れてしまったつくしを見て、優紀が苦しまないはずがなかったのに…。
 以来、つくしもどんなに親しくなっても自分の内面をすべてさらけ出す気にはなれなくなった。 
 もう司と付き合っていた頃のようなことが起こるとは思えないけれど、それでもあまりに自分を見せすぎて、大切になりすぎた存在を作り、また傷つけてしまうことが怖かったから。
 『…あんまり、疲れるようなら、やっぱりこっち来いよ』
 「正輝さん」
 『俺も一人だと、いろいろ滅入ってさ。情けないけど、新しい環境でこうやってつくしちゃんともあんまり連絡とれなくなると、けっこうクるものがあるかな』
 冗談めかして告げられる言葉の向こうに疲労と、苛立ちが見える。
 いままで自分のことにいっぱいいっぱいで、そういえば今日電話をしてくれた山崎の声が少し疲れているのに気が付かなかった。
 「…ごめんね、正輝さん。勝手ばかりで」
 『何言ってるんだよ。つくしちゃんも疲れてるみたいだね』
 「疲れてる…のかな」
 自覚がないわけではない。
 『俺はつくしちゃんのことが心配だよ。そんな無理しなくていいんだよ?どうせ、結婚するまでの場繋ぎだろ?会社だって女子社員にそこまで求めてないんだから』
 結婚するまでの場繋ぎか~。
 一々山崎の言う言葉が腑に落ちる。
 つくしも、疲れていた。
 『毎日つくしちゃんがいてくれれば、ってこっちで一人暮らししているとよけいに強く感じるよ。…この年で恥ずかしい話だけど、自分でメシ作ったり、掃除なんてしたことがなかったからさ。奥さんがいればってね』
 言葉は山崎の正直な気持ちなのだろう。。 
 多少無骨で無神経なところもあり、ロマンチストではないけれど、一途で優しい人だ。
 実際、山崎の言う通り、自分なんて会社の歯車の一つでしかなくって。
 こんな大企業の、よくわからない嫉妬と羨望で嫌がらせをされて毎日ため息をついているくらいなら、いっそこれほど自分を必要としてくれる山崎の胸に飛び込んだ方がどれだけマシなのかしれなかった。
 「…行こうかな」 
 『ん?』
 結婚…しようかな。
 「正輝さん、あのね、あたし…っ!あっ!?」 
 突然携帯電話を持った手首がとられ、強い力で引き寄せられる。
 「なっ!?」
 「…誰?正輝さん?」
 驚くつくしの眼前で、彼女の手首をとった類が小首を傾げている。
 『つくしちゃん?つくし…』
 突然、声が途切れたつくしを心配して、正輝が呼びかけてきているのが電話から聞こえる。
 カッとつくしの頭に血が上った。
 「なにするのよっ!離して」
 ニッコリ。
 プチ。
 離された手にある携帯はすでに切られて、悪びれない男の顔はどこまでも余裕綽々だ。
 すぐに折り返し着信が入り、急いでつくしが出ようと携帯を覗き込んだ。
 が、しかし。
 「…うるさいな。ちょっと、貸して」
 「あ、やだ、何するのよっ!」
 焦って手を伸ばした時には、すでに類に取り上げられていて、そうなると身長差22㎝は伊達ではなく、頭の上に取り上げられては、いくらつくしが爪先立って取り返そうとしても手が届くものではない。
 あんたは、小学生かっ!?
 叫んでやろうとしたが、すぐに掌に戻される。
 急いで電話に出ようと、画面を確認するとすでに着信は切れていたのか、つくしの携帯は沈黙を守るばかり。
 それどころか、なぜか電源も落ちている。
 …いや、何度電源ボタンを押しても、起動しない。
 「ちょっとっ!」
 険を込めてつくしが睨みあげると、類がペロッと舌を出して、手に持ったつくしの携帯のバッテリーを提示した。
 頭痛がしてくる。
 「…あんた、いったいいくつなのよ」
 それも、社会的な地位も名誉もある男のすることだろうか?

 「いいじゃん。なんか嫌だったし、いま取り込み中でしょ?」
 何が取り込み中なんだか、わけがわからない。
 「じゃ、いこ」
 「いこって!…じゃないでしょ?!」
 「どうして?もう終わりでしょ?…あんたけっこう今日も呑んだね?顔が真っ赤だよ?」
 ごく自然に手をもたれてうっかりそのまま歩き出しそうになる。
 が、すぐに我に返って、その手を振り払おうとするが、軽くもたれているようなのに、案外力が強くてフリ払えない。
 「手を放しなさいったら!」
 「…牧野さん?急用で帰るんじゃないの?」
 つくしが類を怒鳴りつけようとした瞬間、座敷で呑んでいたはずの同僚が怪訝に背後から声をかけてきた。
 「…って、も、も、もしかして」
 「い、今帰るところです。すいません、主役なのにお先に失礼します!」
 相手の驚愕と視線を遮るように、類の真ん前に立ち、頭を下げ、急ぎ足で踵を返す。
 類と手つなぎ状態のままで。

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