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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて037

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 「え?」
 「…ずいぶん、遅いね。もう23時近いよ?」
 つくしの驚愕を無視して、何気ないしぐさで腕時計を覗き込む。
 長い足を組んで、コーヒー片手に微笑む青年の佇まいはまるで、呑気なものだ。
 残業する社員さえもほとんど帰宅した社内で、まるで物見遊山のようなお気楽な姿は異質なのに、不思議に類の周りだけ違う時間が流れている。
 「…なんで、ここに」
 「ん?アフター5、誘おうかなって言ってあったじゃん」
 思い起こすと、そういえば昼頃、そんな電話を貰った。
 それにしても、それはすでにつくしの中では断ったつもりだったし、こんな時間まで有効な話だとはとても思えない。
 けれど、なんだか今のつくしは疲れてしまっていて、そんな他愛無いことでさえ、逆らう気になれない。
 いつもだったら、そんなことは絶対にしないのに…あまりにつくしはガッカリしすぎていて、類に対する警戒心を維持できなかった。
 バフン。
 音を立て、勢いよく類の隣に腰を下ろす。
 「…はい、お汁粉」
 「…は?」
 手渡されたのでとっさに受け取ったものの、言われて目をむき手の中の缶を凝視する。
 「コーヒーじゃないの?」
 「うん。まだ、時期的に早いと思ったんだけどね。ここのところ、急に寒くなったからなのかな?」
 「いや、そうじゃなくって」
 貰ったものの開ける気にはなれずに、椅子の横に置く。
 溜息をつく気にさえもなれず、俯いたつくしの頭に掌の感触が優しく触れた。
 そのあまりに意外な感触に、とっさに反応できず、固まってしまう。
 やっと絞り出した声は、動揺にひっくりかえっていた。
 「な、なにしてんのっ?」
 「ん?ヨシヨシしてる」
 ヨシヨシって…。
 「いや、なんだか牧野が落ち込んでるみたいだからさ?」
 「…花沢類」
 不覚にも涙ぐみそうになって、つくしは類から顔を背けた。
 「やめてよ、花沢類」 
 ヨシヨシ、はまだ続いている。
 「あたし、今、弱ってるんだから」
 「そうだね、そう見えるよ」
 だから何?という感じの声音に、つくしは躊躇する。
 「あんたの気紛れ、もう辞めて」
 「どうして?」
 「どうしてって…」
 問われてつくしも、答えに困る。
 意識しすぎているのが悪いのか。
 ただの高校時代の先輩・後輩だと思えば、なんということはないのか。
 …それにしても、類にこうして頭を撫でられることがいやじゃないのが、嫌だった。
 もう、あんたに憧れていた高校生の少女じゃないのに。
 そう思うのに。
 今はあまりに落ち込みすぎていて、そのひんやりとした手があまりに優しいから。
 「…ま、いいじゃん。いろいろ難しいこと考えなくって」
 肩に手が回されビクッと、類をふり仰ぐ。
 肩に触れる手がポンポンと、つくしの動揺も…落ち込みも慰めてくれるように何回も軽く叩く。
 …少しだけ。
 誰にも頼ったりなんかしたことなんてないのに。
 それなのに、今日はあまりに落ち込みすぎていて、弱りすぎていて、だから類の肩に頭をもたれさせてしまったんだと…ひたすら自分に言い訳し続けていた。



 さすがにこの時間から類と夕食に行く気にはなれるわけもなく、けれど車で送るという類を断りきることもできなかった。
 それでも、類の同伴はあくまでも固辞し…あまりの頑なさに、肩を竦めてそこはつくしに譲った。
 「…でも、あたしが車を借りたら、あんたはどうするの?悪いからいいよ。まだ、終電出てないし」
 「いいよ。俺はなんとでもなるよ。なんだったら、ホテルに泊まった方が楽じゃない?」
 「え?そんな、ダメだよ。それだったら、やっぱり電車で帰る」
 「…年頃の娘じゃあるまいし、何を気にしてんだかわかんないけど、まあ、そうまでいうなら、タクシーで帰るし」
 「う~」
 タクシーでは、ホテルに泊まるのと変わらないのではないだろうか。
 そうは思うものの、譲ってくれぬ類と押し問答をしていては、どのみちその終電も逃す。
 「…じゃあ、すいません。今日はお言葉に甘えます」
 「うん。じゃあ、気を付けて」
 ニッコリ微笑みかけられ、予測していなかったのでその威力に悩殺されかける。
 「…ありがと」
 赤面した顔を俯かせつつ勧められた車に歩み寄り、運転手にも挨拶をして乗り込んだ。
 「おやすみ」
 「…お疲れ様です。おやすみなさい」
 すべらかに走り去る車を見送り、類は踵を返した。
 「…で、俺がタクシー?」

 柱の陰で見守っていた高階が、皮肉に微笑む。
 そうしていると、昼間の優しげな美青年然とした様子が崩れ、類とますます似て怜悧なさまが際立つ。
 「いいじゃん、近いんだから、送って?」
 「…はいはい。珍しく王子様はご機嫌だね」
 「まあね。…で?収拾はついたわけ?」
 問いかける類の眼差しは、すでに冷徹な企業人のものだ。
 「…ああ。個人的な怨恨を仕事に持ち込むなんて、スマートじゃないな」
 「スマートとかどうかというより、害悪だな。目星ついてんの?」
 「ん…、どうだろ?彼女、いま、敵多いしね」
 誰のせいなのか、まるで他人事のような高階の様子同様、類にも特に緊張感や憤りはない。
 「ちょうど公私を分けられないバカを切るにはいい機会か。彰、対策して?」
 「…彼女が嫌がらせされてるのを知っても放置してたのに、今更犯人探すわけ?」
 「別に仕事に支障きたしてないなら、関係ないし。それを仕事にまで影響及ぼすようなら放置しておくわけにはいかないだろ?」
 「相変わらず、お前、冷たいね」
 「お前もだろ?」
 「なんで、俺?」
 さも意外そうな顔をする自分によく似た男の顔を、無表情に見返す。
 「…上司だろ?」
 「まあ、被害者から訴えられたら対処しないわけにはいかないけど、面倒はごめんだな」
 「被害者…ね」
 類は肩を竦め、送ってくれる当人を差し置いて、さっさと駐車場へと向かう。
 「ホントは、弱った彼女の隙をつきたくて放置してたんだろ?」
 「…さあ?」
 「お前、性格悪いよ」
 「血筋だろ?」
 答える類は、もう振り返らなかった。

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