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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて030

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 「ま~きの」
 に~っこり。
 あえて無視していた相手が、何も察してくれることなく、つくしの顔の前に屈みこみ、芸術的な絵画もかくやという美貌で、眼前3cmのところで満面の笑みを浮かべている理由がわからない。
 「…花沢専務」
 退社時間後…自主的な残業時間とはいえ、フロア内に人がまったくいないわけではない。
 それを、堂々とこうして一平社員のもとへと社の幹部がやってこられては、つくし的には有難迷惑だった。
 この日参が始まった当初は、フロア内の部長やら課長たちが、何事かと常に総お出迎え。
 だが、その日参も半月も数えるようになると、時折刺すような嫉妬の視線を感じるのみで、日常と化している。
 類がやってくるときはたいてい昼休み時か、この残業時、さすがに公私は分けているようで仕事中に押しかけてくるような迷惑な真似はしなかったが、それでもごく平凡な平社員にすぎないつくしとしては迷惑な話だった。
 実際、嫌がらせもいまだになくなっていない。
 先日の出来事…秘書課の美人秘書がつくしへとヤキを入れにきたのは返り討ちにしたという事件の後は、給湯室での出来事とはいえ、意外にどこからでも様子がうかがい知れる公共の場での出来事であったため、案に相違して公に知られることとなってしまった。
 もちろん、つくしが咎められるようなことはなかったが、仕事は出来るものの、大人しく、従順であると思われていたつくしへの評価が一変したのは否めない。
 つくしとしては、自社ならばともかくとして、せいぜい1年余り世話になる程度の会社で地を出すつもりは毛頭なかったというのに、いつの間にか、つくしへの視線には好奇の他に、畏怖めいたものが混じっていると思うのは気のせいだろうか…その場に居合わせた、事件以来の友人かなえと眞子に言わせれば感嘆が大半だとはいうのだが。
 「…その仕事、まだ時間かかる?」
 時間…それはまあ、残業しているくらいだから就業時間内に終わらずこんな時間になってしまったわけだったが、いつもどういうカンが働いているのか、類が訪れるのはちょうどこうして仕事が終わる間近。
 あと…15分もすれば、終わろうという頃合い。
 だが、そう行ってしまえば、次にどんな言葉がかかるかわかっていてるので、応とは返事しがたい。
 「え、あ…まあ、そうですね」
 「じゃあ、そこの自販機の前でコーヒーでも飲んでるよ」
 コーヒーを飲んでるよ…って、何気にすでにつくしを待つということが前提になってしまっている。
 「いえ、お待たせしてしまっては申し訳ありませんし…今日は」
 「大丈夫、俺はこの後もう予定を入れてないから、いくらでも待てるよ」
 再びに~っこり。
 かつて憧れた時のような幻想を抱いているつもりはなかったけれど、それでもこうして完璧な王子様の笑みを向けられてしまっては無下にはしづらい。
 それがいけないとはわかっていても、ついついズルズルと類の誘いを受けてしまうのはそれが理由の一つではあるのはわかっていた。
 と、言っても噂ほどには毎回類の気まぐれに付き合っているわけではない。
 3回に2回は食事の誘いや休日の誘い(一度だけだったが)を断ることに成功しているし、よしんば断り切れなかった時ももちろん、会社の上司と部下という立場は崩していない…つもりだ。
 つまりは、花沢物産に出向して以来半月…2回ほど極めて気まずい雰囲気の中(類の方は平然としていて、どこ吹く風だったが)、食事を共にしただけなのである。
 だというのに、類は何を考えているのか、まるで旧知の友人であるかのようにつくしを遇する。
 多少かかわりがあった高校時代でさえ存在しなかった気の置けなさで、不信を感じつつも戸惑う。
 『寝た女』扱いではないのがせめてもの幸いだったかもしれなかったが、逆にある一定の距離を保たれているので、あからさまな拒絶はしずらかった。
 …いったい、どういうつもりなの?
 そう真正面から聞ければいいのかもしれない。
 だが、せっかくあの日…図らずして類と過ちを犯してしまった一夜のことは二人の間でタブーというか、話題にもなっていないのにそれを再び寝た子を起こすように話題に乗せることに躊躇がある。
 敵意には敵意、悪意には戦意で返せるつくしも、一見特に他意がないように見える相手をどう遠ざけてよいか、基本人の良い彼女にはわからなかった。
 「…じゃ、頑張って」
 「あ…」
 有効な断り文句も考え付かぬままに、つくしは立ち上がりかけた腰を再び椅子へと落とす。
 …進が、弟が待ってるからって言えば良かった。
 いや、何も夕食に行こうと誘われたわけではない。
 単なる社用かもしれない。
 一平社員のつくしに、会社幹部の類が?
 類の巧妙なところは、断られることを見越しているのか、待つ意思を告げながら用件を告げない。
 そして、待たせてしまったことに引け目を感じる彼女は、容易に類の誘いを断ることができず…。
 だが、弟のことを持ち出したとて、以前に一度、『じゃあ、弟さんも一緒に』と平然と誘われてしまい、結局何の効果もないことは経験済みだった。
 正直…進には類を会わせたくない。
 進の口から類のことが両親に告げられることも嫌だったが(また玉の輿がどうのと、離れて暮らしていることで、ここのところ鎮静化している両親の無駄な期待を復活させたくない)、先日の朝帰りを類と結び付けられたくなかった。
 今更子供であるまいに、進にしても気が付ついたからといってどうということもなかったかもしれなかったが、進は司にも会ったことがあるのだ。
 それこそ今更で、司とつくしが交際していた経緯がどうであろうと、その司の親友である類とどうなろうと関係ないというのに、つくしはなぜか嫌だった。
 司に関わること、類との再会、山崎との関係…ここのところ、つくしの屈託はいろいろな人たちの思惑や、自分自身の心の深淵にからめとられ、一向に晴れない。
 その原因の大半が類にあることは承知の上で、つくしは類を拒絶しきれなかった。



 できるだけゆっくりと雑事をこなし、半ばいやいや足を向けた休憩所につくしの願いはむなしく、類はやはりいた。
 長い足を組み、缶コーヒー片手にガラス張りの外を眺める姿は、この上なく優雅で美しい。
 さすがに音に聞こえた一流企業の花沢物産。
 一般社員のみが集うこのフロアの簡易休憩所さえも、それなりにオシャレに見栄えするようインテリアが配置されていたが、それにしてもやはり類が普段坐する役員フロアとは雲泥の差だろう。
 だというのに、類がいるだけで、さきほどまで感慨もなくただ過ごした廊下の一角などではなく、まるで豪奢な装飾を施された一室のような錯覚に陥る。
 類自身が高価な美術品のようで、彼に憧れていた高校生の時の幻想をすでに捨て去ったと思っていてさえ、つい見惚れずにはいられない。
 類がそこにいる。
 あれほど憧れた人が。
 「…終わった?」
 「あ…ええ。まあ」
 話しかけられただけで赤面してしまいそうになった年甲斐もない自分を叱咤し、精一杯の何食わぬ顔で頷く。
 類は再会してから惜しげもなくつくしに見せるようになった柔らかい笑みを浮かべ、椅子から立ち上がり、丁寧に手に持った缶をゴミ箱へと入れた。
 「じゃあ、行こうか」
 「…って、どこへ?お話なら、今ここで」
 「話?う~ん、まあ、話がないわけでもないけど、とりあえず食事に行こっか?」
 あまりに自然に、あたりまえのように誘われて、思わず差し出された手に手を重ねそうになる。
 「…は?」

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素敵な類君。もうここの類君にはまっています。                                                     つくしちゃん,素直になって。                       もう、すでに貴女の心は、類君の虜になっているよー                                                 おせいっかいおばさんでした  
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