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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて027

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 「牧野さん、こっち見てくれる?」
 「あ、はい」
 「牧野さん!フランボワーズの新商品の件だけど」 
 「はいっ、今っ」
 花沢物産に出向となって1週間。
 すでにつくしは、大企業の激務というものを経験させられていた。
 新規開拓部門の最精鋭たちの中にあって、まるで新入社員であるかのようにあたふたと独楽鼠のように動かされている。
 技術提供などおこがましく、逆に勉強させられることしきり。
 ある程度、自社で修業を積み、それなりに経験と自信もつけてきたはずだったが、この花沢物産食品企画研究開発部・食品開発チームではその自信さえも小さく萎んでゆく。
 ただ、本当の新入社員と違うところは、相対する方もつくしをそれなりにキャリアのある相手として見做し、初歩的なことなどフリはしない。
 それがいいことなのか、悪いことなのか。
 幸いのことに、いまのところまだ、それについていけているから、尻尾を巻いて退職願を提出せずに済んでいる。
 そして、毎日なんとかそうした激務をこなし、残業を終え家に帰る時には、ヘトヘトになりながらも、仕事自体は充実し、以前に自社の同僚が言ってたように、彼女の良い経験にもなっていた。
 そういう意味では、この花沢物産に出向してきてよかったとつくしも素直に思える。
 得難い経験だ。
 しかし、まったく問題がないわけではなかったが。
 「牧野さん、午後から高田製菓の搬出チームんとこ行くけど…」
 「はいっ、お供します!」
 ガッツと腰の軽さでは誰にも負けない。
 その意気込みは相手にも通じたのだろう、食品開発チーム課長・高階彰はニッコリ笑った。
 食品開発チームのみならず、部内を大きく超え、他社にもその王子様の笑顔の破壊力は定評がある。
 つくし的には、一般的女子社員達とは違う意味で心臓に悪かったが…。
 「少し早いけど、打合せもかねて昼食一緒しようか。今から出れば、現地につくにも余裕があるし。牧野さんに、急ぎの仕事がなければ、だけど?」
 その提案に、ざっと今日のスケジュールと仕事内容を脳裏でサーチし、高階の申し出を優先しても大丈夫そうだと、大きく頷く。
 「大丈夫です。高階さんさえ、よろしければぜひ…」
 「彰、悪いけど、それ却下。打合せにかこつけて、部下を口説くなんて職権乱用なんじゃない?」
 笑い含むような声が、かけられる。
 ざわりと揺れる課内の雰囲気に、色めき立つ女性陣の黄色い悲鳴、そして羨望と嫉妬が含まれているのはきっと気のせいなんかじゃない。
 そして、その元凶こそが、つくしのここのところの屈託の原因…。
 「類、いや…花沢専務」 
 「その打合せってしないと、業務に支障あり?」
 「いえ、今回は行き道の説明程度で、要件を済ませてからでも事足りますが」
 「ふ…ん、やっぱ、職権乱用かあ。じゃあ、俺に牧野譲って?いいよね?」
 「…はあ」
 不審げではあるものの、高階としてはそうとしか言いようがあるまい。
 一方カチーンと俯いたまま固まり、つくしが半ば無視していたような形になってしまっていることに業を煮やしたのか、類はカツカツと軽やかな足音を立てて、彼女の眼前まで近づく。
 そして、ヒョイっと頭一つ背の低いつくしを覗き込むように屈むと、高階によく似た面差しの…いや、つくしにとっては類こそ元祖なのか?…美貌で綺麗に微笑みかけてくる。
 「うまい定食屋見つけたんだ。牧野、堅苦しいところ嫌いでしょ?秘書たちの間で評判の店だっていうから、付き合ってよ?」
 「……いえ、その」
 周囲の注目と沈黙が怖い。
 そして何より、目の前で微笑みかけてくる美貌の主の甘い眼差しにたじろぐ。
 まるでかつての女子高生の日…類に憧れた少女時代のように、熱い頬と胸の動悸を持て余す自分の初心さが忌々しく、疎ましい。
 「急ぎの仕事、ないんだよね?」
 確かに、そう言った…ただし、目の前の男にではなく、上司である高階に向かってだったが。
 天使なのか、果たしてやはり性悪な悪魔なのか、いまだよくわからぬ男にトキめく自分の気持ちを持て余しつつも、内心大きくため息をつき、満足そうに頷く類の背を、つくしはまるで屠殺場へと引かれる牛よろしく、いやいや後を追った。



 花沢物産出勤第一日目の類との会談は、つくしの類への認識を180度変えるほどに意外なものだった。
 いや、彼と再会した日にすでに180度変わっているのだから、もとに戻ったのか?
 だが、高校生の頃の類とももちろん、今の類は違う。
 かつての、透明で他人に関心が薄く、どこまでも世俗とは一線を画していた類がここにはいない。
 真摯につくしに対して謝罪をし、あの日のことは、類自身も酔ったゆえの過ちだったと自分の非を全面的に認めた。
 酔ったうえ…と言われてしまえば、つくしにしても責任がないわけではない。
 年端もいかない少女ならばともかく、自分も成人した立派な女。
 迂闊だったと言わざる得ないだろう。
 社会的な制裁も覚悟しているという類に、逆につくしの方が慌ててしまった。
 さすがのつくしも、そこまでの覚悟はない。
 類の御曹司という立場はともかく、自分が体験した性的暴行の被害状況を訴え出るということは、この上なく勇気がいることなのだ。
 ほとぼりが冷めた後となったらなおのこと、逆にそっとしておいて欲しい。
 自分の中でまだ咀嚼しきれぬものはあったものの、一応の類の真摯な態度に無理矢理自分を納得させ、二人の過ちは忘れてくれるように要請した。
 自分も忘れるからと…。
 どこか痛いような表情をした類は、切なげではあったが素直に頷いてくれた。
 『…わかった、牧野がそう言うなら。俺は、本当は忘れたくはないんだけどね』
 ギョッとするつくしに、類はゆるく首を振った。
 『わかってるよ。約束するし、約束は守る』
 『…それと、その…あの、写真』
 なんと切り出して言いわからず、言葉を濁すつくしに、類の方がアッサリと察してくれて、
 『ああ、ごめん。あの時の写真だね』
 赤面して、睨みつけるしかないつくしに、自分の携帯電話を見せ、写真フォルダを開けて手渡す。
 本人承諾とはいえ、他人の写真フォルダを見ることに抵抗を示すつくしだったが、意外なことにフォルダの中には、つくしに送り付けられた例の写真…半裸で微睡むつくしの写真1枚があるのみで、他にデータはなかった。
 不審もあらわに見返すつくしに、困ったように類は肩を竦めた。
 『他にないよ。俺、写真撮る趣味ないもん。あの時はつい、牧野と夜を過ごせたのが嬉しくて…ね。これ1枚だけ撮っちゃったんだ。拙かったと思ってるよ、今は。牧野に承諾もとらずにごめん』
 『……』
 いまいち信じきれぬつくしではあったが、だからと言っておそらく他にも何台か仕事柄所有しているだろう仕事用もしくはプライベート携帯に他のデータを隠し持っているとも思えず、曖昧に頷き、目の前で消去されるデータに納得するしかなかった。
 そして、それでもうお終いのはずだった。
 高校時代の知人とはいえ、ただそれだけ。
 他に関わりなどなく、あのことがある以前はともかくとして、今のつくしはもう類と関わりたいとなど思っていなかった。
 それなのに…。



 「乗って?午後一までに戻らないといけないから、車で行こう」
 指示されたいかにも高級車な白いスポーツカーに、つくしは再び洩れるため息を禁じ得なかった。

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