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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて026

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 まるで蛇に睨まれた蛙のように…そんな形容詞がまんま当てはまるような状態のつくしの頭の中は真っ白だった。
 ここは花沢物産。
 類と出くわす可能性もありえないことではないことは頭では分かっていた。
 だが、それにしても大企業の幹部中の幹部…次代のジュニアだ。
 御大自らが、こうして親しげな態度でのっけから現れることなど想定の範囲外。
 カツカツカツ、と軽快な足音を立て、類が固まるつくしの対面側に悠々と腰を下ろす。
 チープなスチールパイプの椅子でさえもが、彼が座っているというだけで、まるでどこかの貴族のお邸にある豪奢な座椅子のごとき錯覚に陥る。
 つくしの驚愕と拒絶をまるで感じていないのだろうか。
 類は悠然とテーブルの上で両肘をつき、組んだ両手に顎を乗せ、相も変わらぬ透明な美貌で、つくしへとニッコリと笑った。
 堕天使のなんと魅惑的なことか。
 危うく赤面しかけて、ハッとつくしは我を取り戻した。
 そして、そのまま唇をグッと噛みしめて、何を考えているのかわからない男を睨み据える。
 上目使いの睨み顔は、残念ながらつくしの意図とは裏腹に、恐ろしさよりも拗ねる子供の愛嬌を相手に思わせ、フッと微笑ましさを感じさせずにはいられない。
 もっとも、人より一癖も二癖もある類が常人と同じ感慨を持っているかは別問題ではあったのだが、いい年をして幼い少女のような正直さと一生懸命さを持つこの女は、昔から類に不思議な感情を湧き立たせる。
 もっとも、つくしがどんなに類に対して敵愾心を燃やそうと、類にとっては毛を逆撫でた猫にも及ばない程度のものでしかない。
 だから、つい手を伸ばしてしまったのかもしれなかった。
 プクっと膨れた頬を突っついたら柔らかそうだ…そんな程度の衝動。
 けれど伸ばしたのは、その頬っぺたではなく、類にはない色素の濃い艶やかな黒髪の方。
 ポンポンと、軽く頭を叩く。
 目を見開くつくしの反応が、面白い。
 結局のところ、類がつくしを構うのもただそんな単純な感情以外の何物でもないのかもしれなかった。
 妙な女。
 それだけ。
 それでもその妙な女が、見た目そのままのただ無害な女だったのなら、類はけっして振り向きはしなかっただろう。
 今更、そんな無害な女に戯れにちょっかいをかけるほどの時間も、酔狂さも持ち合わせてはいないのだから。
 「…そんなに構えなくてもいいよ。取って食いはしないから」
 目を瞬かせ、だが…我に返って、つくしはなお一層目の前の男を睨みつける。
 「なぜ、あなたがここにいるんですか?」
 地を這うような声音がつくしの真情を物語っている。
 しかし、そんなものくらいでたじろぐようなら、知人の女をお持ち帰りするようなマネをしやしない。
 「…俺、ここの専務だから?」
 問われている意味合いをわかっていないわけではないだろうに、小首を傾げる姿はあくまでも邪気なく、つくしに対して何の含みもないように見える。
 だが、もはやこの男が昔のとおりの…いや、つくしが幻想を抱いていたような王子様などではないことは、(認めたくはないが)夢見がちだったつくしだとてもはや理解している。
 幻想はあくまでも幻想であって、このガラス細工のような美しさを持つ男だとて、ごく普通の…世間一般によくいる、自分の出自や美質を自負して他者を食い物にする傲慢なお坊ちゃまに過ぎないのだ。
 「その専務が、わざわざあたしのような一介の平社員の応対にいらっしゃる必要はないはずです」
 あくまでも取り付く暇のないつくしの堅い声音に、さしもの厚顔無恥な類でも苦笑が零れた。
 たった一度寝ただけで、恋人気取りで類から様々な物をかすめ取ろうとする女たちは引きも切らない。
 と、いうのにこの女の強情な敵意はどうだ。
 たかが、処女消失、それだけのことにこんなまるで蛇蝎のごときを見る目で類を見る女がいる自体が、彼には興味深く意外だ。
 「…やっぱり、あんた面白いね」
 ポツリと含み笑う類に、つくしが眉根を寄せ、怪訝にねめつけた眼光を強める。
 だが、次に類の口から出た言葉は、あまりに意外すぎてつくしはポカンと、見送ってしまった。
 「ごめん」
 「……」
 「申し訳なかったよ、俺が悪かった」
 「…は?」
 さっきまでの美しいが、どこか無邪気で…それだけにあっけらかんとした冷淡さを纏っていた類の雰囲気が百八十度変わる。
 長い睫毛の瞼を伏せ、少し顔を歪めて申し訳なさそうにするだけで、女ならどんなことだろうと赦してしまいたくなる。 
 ドキリと泡立つ胸の鼓動を自覚しながら、それでもこの目の前の男がそう簡単に改心したなどと、いくらおめでたいつくしだとてにわかに信じがたい…いや、信じてはいけないのだ。
 けれど。
 「俺的には、無理強いしたつもりはなかったんだ」
 だが、その言葉に、つくしの頭にカッと血が上る。
 「あんなのっ、あんなに酔っていたあたしをつかまえて、合意だったっていうつもり!?」 
 返したつくしの声音は悲鳴のようだった。
 あくまでも冷静な類に対して、感情的で、うっかりすると涙ぐんでしまいそうな自分が情けない。
 泣くと言うとは…自分の非力を嘆くこと。
 相手の優勢を認め、自分の敗北に打ちひしがれることと同意だった。
 やはり類の態度は淡々としている。
 つくしの感情に逆らうつもりはないようだが、あくまでも怜悧で理性的だ。
 まるで頭の中のマニュアルを、あるいは即席で作ったシナリオをただ読み返しているようだと思うのは、つくしの悪意ゆえなのか?
 「そういわれてしまうと、俺には返す言葉がない。確かに、強引だったのは認めるよ。でも、俺は、あんたと一夜を過ごせてすごく嬉しかった。憶えていてくれていないみたいだけど、これでも真面目にあんたを口説いたんだぜ?」
 酔っぱらった女相手に口説いたと言われても、まともに信じるバカはそうそういないだろうが、類が相手ならばそうではないのかもしれない。
 うっかりすると、つくしでさえもが、からめとられかねない。 
 類の真心を信じてしまいたくなる。
 記憶がない以上、なんとも返しようがなくって、つくしは視線を反らした。
 そのつくしの視線を捉えようと、おもねるように類がつくしの顔を覗き込み、甘く苦笑する。
 「あきらたちの前でも、俺、言ったよね?俺と付き合わない?って」
 「…それは」
 さすがにそこら辺は記憶にある。
 だが、あれはどう見ても真剣な申し出というより、気紛れにからかっただけだ。
 そうとしか思えない態度で、実際に、彼氏の存在を感じ取っただけで、あっさりとそれも翻したではないか。
 …いや、別にそれを残念になんて思ってるわけじゃないけどさ。
 誰にも責められていないと言うのに、つい自分で自分に言い訳をしてしまう。
 客観的な他人がそれを批評すればこういうのだろう。
 その申し出に心揺さぶられたからこそ、拘っているのだと。
 だが、その時つくしは、自分があからさまな不実な男に絡めとられつつあることなど夢にも思ってはいなかった。

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