FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第二章 誘惑①

昏い夜を抜けて025

 ←それでも貴方を愛しているから078 →それでも貴方を愛しているから079
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「…それってどういうこと?」
 突然に小石を投げつけられたかのように、つくしはあきらをとっさに見返していた。
 けれど、反らされていたあきらの視線が戻ると、そこには困ったような苦笑があるだけで、特に詮索も、何の非難も浮かんではいない。
 「いや、言葉の意味そのまんまだけ。類の奴、ずいぶん軽薄な物言いしたりして、お前にも嫌な思いさせてたかもしれねぇけど、悪い奴じゃねぇんだ」
 「……」
 今度はつくしの方が視線を反らす番。
 あきらの眼差しはあまりに静かすぎて、そこにはつくしたちの事情を見透かして忠告してきているのか、本人がいうようにただ単純に類に対するつくしの印象の悪さをとりなそうとしているのかわからなかった。
 「類は…」
 「は、な、ざわ類のことはどうでもいいよ」
 「牧野」
 どうしても吐き捨てるような口調になってしまうのは抑えられない。
 「どのみち…世界の違う人だし、あんたはあたしを友達だと言ってくれてるけど、もともとあの人とは、顔見知り程度の関係だったし。いくら花沢物産に出向するといったって、一回の平社員と、大企業の役員とが顔を合わせる機会なんてもうないと思うし」
 つくしの言うことはある側面では正論だったが、あきらはそうは感じていない。
 その平社員が類の知人であり、そうである以上、なぜこの時期、つくしが花沢物産への出向を半ばゴリ押しのように推進されなければならなかったのか…。
 つくしには言ってはいなかったが、あきらは類の何かしらの意図を感じ取っている。
 だが、それが何なのか…。
 類が高校生時代に、つくしに対して、他の人間たちとは違う何かを感じていたことはあきらも感じ取っていたが、それにしてもそれも今となれば遠い過去であり、先日の邂逅で類がとっていた態度の意味がわからない。
 それに、かつて類を初恋の王子様と憧れ、司に対する恋愛感情をセーブする元凶となっていた男に対しての、このつくしの拒絶的態度はなんなのか。
 確か、この間数年ぶりに再会した時には、…少なくてもつくしには類に対いて悪感情を抱いているようには見えなかった、それどころか。
 類もつくしもいい年をした大人だ。
 いくら友人とはいえ、その大人の男女によけいなお節介をする酔狂さをあきらも今更発揮するつもりはないが…。
 …なにもなければいいが。
 あきらにとって類は幼馴染みの親友だったが、つくしもまた幼馴染みの元カノという以上に、青春時代を彩る大切な仲間であり友人だった。
 その二人がむやみに諍い、傷つけあい、無益な愛憎を繰り広げることなど望んではいない。
 愛憎?あの類が?…牧野がか?
 類とつくしとではまるで正反対のベクトルで…磁石のS極とN極のように、それぞれが違う意味で愛憎とは縁遠い位置にいるようにあきらには思える。
 類はその虚無と他人への無関心でもって。
 つくしは人を信じ愛し、一度懐に入れた人間を赦してしまうという性質でもって。
 トントン。
 「…坊ちゃま」
 取次のメイドの声掛けに、待っていた車の準備が整ったことを知る。
 「ま、俺もしばらく日本にいるし、連絡すっからまた時間がある時にでも飯食いに来いよ。花沢物産の海千山千の古狸どもに苛められたら慰めてやる」
 「はは、ありがとう。どうせマダムとの時間合わせの暇潰しだろうけど、期待せずに待ってま~す」
 優しいあきらの誘い掛けに、憎まれ口で返して。
 それでもつくしの心には、友の気遣いに優しい温もりが染み入った。
 「こいつ」と軽くつくしの頭を小突くあきらの顔にも微笑みがある。
 「じゃあ、今日はご馳走様でした。おばさまや絵夢ちゃん、芽夢ちゃんにもよろしく」


 目の前にそびえる50階の高層ビル。
 この東京にあっても、1企業のみの自社ビルとしては、群を抜く規模だ。
 花沢物産本社。
 天高くどこまでも続いているように思えるのは、たぶんつくしの中の気後れと、様々な理由による拒絶感。
 「はああ~」
 いかにも一流企業に勤めるエリートサラリーマンといった人々が、ため息をつき肩を落とすつくしの脇を次々と通り過ぎる。
 とりあえず、玄関にも入らないでこうして太陽に反射するカーテンウォールの鈍い反射にいつまでも目を細めていても仕方がない。
 腕時計を確認すると、受付まで迎えにでてくれるという人事担当者との待ち合わせも5分を切っている。
 さすがに初日から遅刻する訳にはいかないだろう。
 と、
 ドンッ。
 「きゃっ」
 「わっ」
 後ろからの衝撃に、思わず前のめりにつんのめりかけ、手に持ったアタッシュケースを取り落しかける。
 ふわりと香るフレグランス。
 …一流企業に勤めるエリートは違うなあ~。
 男性が香水の類を身に着けているなんて、つくしの常識ではF4くらいなものだ。
 じゃなくって…。
 「ご、ごめん」
 声に目を開けてみれば、後ろからどつかれたために床に膝カックン状態で打ち付け、床に懐く羽目になるのを、お腹に回された腕に支えられ、わずか数センチのところで免れている。
 「あ…す、すいません。大丈夫です」
 びっくり、つくしが恐縮すると、相手は一つ安堵の息をついて、ゆっくりと腕を離してくれる。
 うっひ~。恥ずかしい。
 見知らぬ男性との超至近距離での接触に、つくしはドキドキと激しい動悸と熱い頬に顔を伏せた。
 「本当に悪かったね。急いでいたものだから」
 「あ、いえ、こちらこそ。通路の真ん中でボウッとしてたから」
 頭かきかき、頭を下げあい。
 男性が時計を確認して、もう一度頭を下げる。
 「じゃあ、悪いけど、俺はこれで」
 「あ、はい」
 微笑む男性の顔が、薄茶色の目が、誰かに重なってつくしは頭を傾げる。
 が、そんな感慨を追いかける間もなく、
 「あ、やっばああああ!」
 時計の針は無情にも…待ち合わせ時間を1分すぎていた。



 遅刻に関して平謝りのつくしに対して、人の良さそうな中年の人事担当者は苦笑して、それを制する。
 「まあまあ、大丈夫ですよ。そんなに謝られるほどに遅れたわけじゃありませんから」
 社会人になって、時間や約束というものに対して自分を厳格に律してきたつくしにしてみればとんでもない失態だった。
 やだ~、社会人として失格じゃん。
 反省することしきり。
 しかし…気のせいか、つくしが案内され、通された応接は最上階。
 さすがに社外の役員待遇を迎えるような立派な応接室ではなかったが、普通最上階といえば、並み居る会社幹部たちが詰める至高のフロアではなかったか。
 つーか、ここに来るまでに通ったエレベーター…こんな大きな会社だというのに、なんか人っ子一人いなかったような。
 それどころか、最上階とあとは2,3のフロアを通るだけの直通だ。
 悩むつくしには、嫌な予感がある。
 ま、まさかね。
 そうは思うものの、先ほどとは違う動悸を感じて仕方がない。
 ありえないことだったが、この場から逃げ出したい衝動を抑え、握り締めた両手を椅子に座った腿に押し付け、唇を噛みしめる。
 「…そんなに、緊張することないのに」
 ノックもせずにあけられたドアから覗く、天使の微笑み。
 あの日、つくしがホテルの部屋に、置き去りにしてきたままに美しい花沢類が、無邪気な笑みを浮かべ、つくしを面白そうに見つめていた。

◇交流・意見交換 『こ茶子の部屋』へ
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ

ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2


関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【それでも貴方を愛しているから078】へ
  • 【それでも貴方を愛しているから079】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【それでも貴方を愛しているから078】へ
  • 【それでも貴方を愛しているから079】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク